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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

あじつけ

作者: 夜の真夜中
掲載日:2026/05/10

※ホラー作品になります。

・生理的に不快。

・読んでいて気分が悪くなる可能性が御座います。

苦手な方はご注意ください。


 今日は飲みすぎた。

 明日も出勤。

 なのにもう、こんな時間。


 鬱陶しい酒臭い上司とやっと別れられた。


 それなら妻の下手で味の濃い、マズイ飯のほうがマシだった。


 俺は舌打ちしながらいつもの道を通り帰る。


 普段なら人が邪魔なほど虫みたいに、うじゃうじゃいる眠らない街。


 なのに今日はどこにも見当たらない。


 幾ら眠らぬ街といえど、いつかは眠っているんだな、と思ったらイライラしてきた。

   

 どうして俺だけこんな時間に外に出てるんだよ。


 だめだ酒のせいだ。


 明日も仕事だ。


 むしゃくしゃしてきた。


 真っ暗な夜道。

 ふと目の前に白い光がぼんやりと灯っている。

 それは、飲食店の看板像らしきマスコットキャラクターの等身大。

 それがうざったく中途半端に薄暗く光っていた。


 全身緑色で目が赤く、妙に子ども向けっぽい、全体的に丸いデザイン。

 

 気持ち悪い。


「なんだよ、これ?」


 捕食堂。

 飲食店のくせに気持ち悪い名前だ。

 

 こういう飯屋は一過性の流行にしか乗れない馬鹿がやるんだよ。


 等身大マスコットキャラクターを蹴ってやった。

 

ーーべちゃっ。


 等身大マスコットと店主に相応しいであろう気色悪い音で倒れた。


 丁度酔いも覚め気持ち良くなってきた。

 鼻歌でも呑気に歌い歩き出した。


「っさむ……」


 おかしい。

 確かに夜は冷えるとはいうものの今は夏だ。


 夜でも虫虫とした暑さが漂うはずだ。


 俺は腰に巻きつけたままだったスーツを着直す。


「やっぱ寒いな……」


「ってか、あの像蹴ったのヤバくね?」


 酒も抜け、この妙な寒さと誰も居ない不気味さから俺はあの像をもとに戻しに向かう。


 おかしい。


 やっぱりおかしい。


 今は盛夏だというのにスーツを着込んでも寒い。


 街を引き返す先にも人が一人もいない。

 普段ならあんなにも虫みたいにうじゃうじゃ湧いてるのに。


 俺はポケットに手を突っ込んで歩く。

 少し急足であのマスコットキャラクターのいる所へ。


 さっきまで酔っていたせいか、どこにあの気持ち悪い名前の飲食店があったか思い出せない。


「クソッ!!」


 得体の知れない不安と焦燥。

 

ーーびちゃり。


 水たまりに足が突っ込んだ。

 足の裏からジワジワと冷たくてぬるっとした感触がやってくる。


 誰も居ない。

 

ーー夢か?


 そういえば酔ってたしな。


 何にも蹴ってなかったよな。


 俺はもうあのマスコットキャラクターのことを考えるのをやめた。


 見つからねぇ。

 もういい。帰ろう。


 ったく。

 つまらねぇ時間とっちまった。


 妻も待ってるし、さっさと帰ろう。


 帰ろう?


 気がついた時にはもうここは、俺の知る眠らぬ街ではなかった。


 ただぽっかりとした闇。


 どこからか、何かが覗いていそうだった。


「どこだよ……ここは……」


 声がこだました。

 

 こだました?


 俺の声は震えていた。


 冷たい汗がカッターシャツにべったりとくっついている。


ーーべちゃっ。


 前が見えないまま歩くものだから何かを踏んづけてしまった。


 「うわっ…」


 最悪だ。

 芋虫、踏んじまったよ。

 ネチャッとした汁が足裏にくっついた。


 何かおかしい。


 灯りもない。


 人もいない。


 のに、芋虫はいる。


 嫌な予感がしていた。


 知らないふりをした。


 寒さは寒気と怖気にやられ、麻痺してきた。


 嫌だ。

 怖い。


 「だ、だれかっ!誰かいませんか!?」


 気がついた時には俺はもう、ガキみたいにみっともなく叫び、走り回った。

 芋虫のくっついた破片が足裏でズルズルと引き裂かれる。


 くそっ。

 なんだよ。

 これじゃあ俺が……。


 嫌な予感がピークに達した時。


ーーポツポツ。

 赤い光。


 やった。


 助かった。


 胸を撫で下ろすと同時に走る足を止めた。

 夢中で走ってたせいで、自分の足が限界を迎えていることに気がつかなかった。

 足が棒になって震えてる。


 仕方ない。

 今日はここからタクシーで帰るか。


 できればそのお金は妻とのディナー代にしたかったが仕方ない。


 赤い光。

 近づいてる。


「は?」


 目を擦った。

 見間違いじゃない。

 こっちに向かってきている。


 うね、うね、と。

 うじゃうじゃと、虫みたいに。


 その光から逃げようとした時。


「っあ、足が」


 もつれて動けない。


 その拍子に転んだ。


 ぐにゅり、とした感触が倒れた身体の重力を吸収した。

 妙に汁っぽくてぶよぶよしている。


 「っあぁ…あああ…」


 夢だ。


 夢に違いない。


 無数の芋虫で覆われていた。


 立ち上がろうと、地面を掴む。


ーーぐにゅり。


 手には妙に生温かい液体がべったりと付着していて、妙に臭う。


 起き上がったはいいものの、足は走ってくれない。


「いうこと聞けよッ!クソッ!」


 俺は自分の足を殴った。

 殴った手には緑色のネチャッっとした液体がついていた。


 「っ痛…」


 ズボンの裏がちくりとした。


ーーうねうね。


 ズボンをめくった。

 芋虫が足に齧り付いていた。


 「キモいんだよッ」


 俺は芋虫を殴り潰した。

 汁が顔に付着した。


 やがて、逆の足にも同じ感触がする。

 広がるように、袖から腹部から。


 無我夢中で振り払った。


 ようやく全部取れたころに思い出す。


 そうだ。こんなことしてる場合じゃねえ。


ーー気がついた時に真っ暗だった。


 あれ?


 さっきまでは足元や身体中にまとわりついた芋虫がいない……。


 なんだ、やっぱ夢かよ。


 妻も待ってる。

 はやく帰らないと、また心配させちまう。


 俺は真っ暗闇の中、元きた道を戻ろうとした時だ。

 


 あの赤い無数の光が、じっと見ていた。


 

     ー 夢、見るのかな

     ー 夢、見てるのかな


  俺は気を失ったところで目が覚めた。

  妻に聞くと昨日はうなされていたという。


 良かった。


 夢だった。


 俺は妻の朝食をかき込むと、仕事に向かった。


 今日はやけにシンプルな塩味の肉で、弾力があって美味しかった。

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