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第二話

 帰宅すると、歩は仕事から帰宅していない母親の部屋で探し物を始めた。それほど詳しくはないものの、母親はクラシックをよく聞いていたのだ。ショパンもきっとあるだろうと踏んでいた。やはりショパンのアルバムが見つかり、雨だれという曲目も書かれている。

 歩は自分の部屋に戻ると、母親の部屋から持ち出したオーディオにそのCDをかけた。すぐに番号を入力し、雨だれをかけたのだ。


「最初はまるで小雨のように、優しい音色だ」


 音はまるで雨粒のように、優しくしっとりと落ちていく。歩はすっかり雨だれの虜になっていた。外の雨はすっかり止んでおり、夕日のオレンジの光が差し込んできていた。雨はあまり好きではなかったものの、もう少し雨音も聞いていたかった。


 CDは次の曲へと進んだが、歩はもう一度番号を入力すると、雨だれを何度も聞き入っていた。


 ◇◇◇


 両親が帰宅し、夕飯の時になっても、頭の中には雨だれが流れている。だがそれ以上に、他の曲も聞いてみたい。


「ピアノ、弾いてみたいな」


 漠然とした願いであった。ピアノの購入を両親にねだりたいが、引っ越ししたばかりの我が家にそんな余裕はないだろう。不意につぶやいた息子の言葉に、両親は目を丸くしていた。


「弾いてみたらいいじゃない。学校にあるでしょう?」

「歩は音楽に興味があったんだな」

「母さんの部屋から、オーディオとCDを借りたんだ。今はショパンを聞いている」


 歩の言葉に驚いた表情を浮かべた母親だったが、すぐに穏やかな表情に戻っていった。


 歩は食事を終えると、部屋へ戻りオーディオのスイッチを入れた。古びたオーディオのスピーカーから、なだれ込むような音色が後から後から紡がれていく。

 カーテンを開けると、そこには満天の星空が広がっていた。大きな町では見えなかった光景だ。その星々より遥かに光り輝いているものがある。月だ。


「ショパンの曲は、月の光のように穏やかだ」


 きゅいいいんという古めかしい音が鳴ると、CDは次の曲を鳴らした。『タン!』という音と共に、次から次へと音が落ちていく。局長のあまりの変化に驚き、アルバムのタイトルを調べる。タイトルには『革命のエチュード』と書かれていた。怒りや不満、それから自分へ諫めるような音色が、後から後から溢れ出てきていた。


「穏やかなんてもんじゃなかった。……ショパンはこんな曲も弾けるんだな」


 タイトルにある革命が何を指すのか、歩にはわからなかった。音楽の先生に聞けば何か教えてくれそうだが、そんな勇気はなかった。歩の希望にこたえたかのように、オーディオは次の曲を鳴らした。


 しっとりとしていて、べったりするかのような悲しみの音色がスピーカーから響いてきた。タイトルを調べてみると、『嬰ハ短調のノクターン 第20番』とある。タイトルを見ても、全く想像できないタイトルであった。


「ノクターンってなんだ」


 辞書を引っ張り出すと、ノクターンを辞書で引いた。簡単な説明が書かれており、そこには。


「夜想曲? なんだろう。もっと訳が分からないけど、曲は夜に流れていても違和感がないな」


 外を眺めると、そこには月が輝いていた。歩は不意にある思いを抱き、窓辺に寄り掛かった。手を組み、祈るようにその言葉を闇へ落としていく。


「月よ。どうか僕にピアノを弾かせてください」


 すると、月はまばゆく光りだし、森の方へその光を落とした。焦る気持ちを抑えつつ、歩は家を抜け出して森へ向かった。

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