第八話 秘密
数日後。夕方。
「リッカ、悪いけれどここでバリカンを使わせてもらっていいかしら?」
「バリカン…?」
「これよ。流転の國から持ってきたの」
ベリーショートを維持するつもりで持ってきたのだが、用途が少しだけ変わった。
「初めて見る器具だな…」
リッカは興味深そうに観察していたが、次のマヤリィの言葉を聞いて後ずさった。
「これを使って髪を刈るのよ」
「か、髪を…!?」
「ええ。鋏で坊主にするのは大変でしょう?」
「それは、そうだが…。マーヤはもう髪を伸ばさないつもりなのか?」
悲しそうな顔で聞く。
「分からないわ。…けれど、当分の間は丸坊主でいたいの。髪の毛を全部刈ってしまうなんて初めてのことだったから、もう少し続けたいのよ。きっと、まだ満足していないのね」
「満足……?」
「もっと頭を刈りたいの。あの快感が欲しい」
マヤリィは完全にトリコフィリアの表情になっている。
「坊主にすると、快感を感じるのか…?」
「ええ。私は特別そうみたい」
不思議そうに首を傾げるリッカに、マヤリィは自身の性癖について説明する。
(これは…聞いていいのだろうか?)
リッカは戸惑うが、語っている最中のマヤリィがなぜか色っぽいので、終わりまで話を聞いた。
「…そういうことだから、今すぐにでもここに来た日のようにしたいの」
「極限まで短くするということだな?」
「ええ。…本当は、カミソリで剃ってみたいけれど」
丸刈りにはしたが、剃髪はしていない。
「必要なら、用意する。…マーヤに満足して欲しいからな」
「本当?嬉しいわ」
急にマヤリィの表情が明るくなる。
「けれど…自分でやるのは怖いから、剃るのもお願いしていい?」
「っ…。分かった。引き受けよう」
一瞬どうしようかと考えたが、マヤリィが喜んでくれるならと思い、リッカは笑顔で答えた。
カミソリで剃る前に、バリカンで一番短い丸刈りにすることにした。
ヴィーーーン……という機械音が鳴っている。
「やはり、髪を刈ってもらうのは気持ちいいわ」
「…貴女がこういう願いの持ち主であるということは誰にも言わない方が良いな?」
「そうね。…でも、例えばヒカル殿に伝えてドン引きされても『忘却』魔術を発動するから大丈夫よ」
マヤリィは笑顔で答える。
「女王陛下はいろんな意味で怖い人だな…」
今更ながら、目の前に座っているのは流転の國の女王であり、とてつもない魔力の持ち主なのだと思った。
「マーヤ、気持ちいいか…?」
「ええ、最高よ」
少しだけ伸びた髪を削り落とすように刈っていく。
初めこそ怖がっていたリッカもすぐに慣れ、あっという間にマヤリィの頭を0.8ミリの丸刈りにした。
「アタッチメント無しで刈ると、ここまで短くなるの」
「既に剃ったように見えるな」
しかし、本番はこれから。
リッカはそっとカミソリを動かし、マヤリィの頭皮を傷付けないようにゆっくりと僅かに残された髪を剃った。
(尼さんになった気分ね…)
そう思いつつ、マヤリィは感じてしまう。清らかさとは正反対の方向へ行ってしまう。
(いけないわ。私ったら…)
トリコフィリアの本性を隠しきれない。
黙ってカミソリを動かしているリッカも、そんなマヤリィの色っぽさを感じて、思わず頬を染める。
(女性の姿から一番遠い所にいるというのに、なぜこんなにも女らしく魅惑的なんだ…?)
そして、仕上がりを確認したリッカは蠱惑的とも言えるその姿に完全に魅了されてしまった。
「ありがとう、リッカ。つるつる頭になれるなんて…凄く嬉しいわ」
「喜んでくれてよかった。…って、マーヤ!?」
興奮のあまり理性を失いかけてリッカを抱きしめるマヤリィ。
「ああ…私、我慢出来そうにないわ。襲っていい?」
「これは…魅惑魔法…!?」
「ふふ、さすがはよく知っているわね。…許して頂戴、リッカ」
マヤリィは慣れた手つきでリッカの唇を奪う。
「んっ……」
実は初めてのリッカ。
ディープなファーストキスは甘く蕩けるようだった。
「マーヤ……私の身体なら貴女の好きにしていい。だが…」
リッカは赤面しながら言う。
「初めてだから…優しくして欲しい」
「あら、貴女の初めてを私にくれるの?」
今更ですよ、マヤリィ様。
「ああ。こういうことには縁のない人生だったが、貴女のように美しい女性に抱かれるなんて…私は幸せ者だな」
マヤリィに身体をあずけ、リッカは続きを待つ。
「では…貴女の全てを見せてもらうわね」
「明かりは消してくれないのか?」
「消したら見えないでしょう?ココとかアソコとか」
「~~~!!!」
真っ赤になるリッカ。彼女の下着を脱がすマヤリィ。
「優しくするから、安心して頂戴」
思いがけず出逢った見目麗しい女性と初めてのセックス。
変わり映えのない日々を送っていたリッカにとって、それは衝撃的な出来事だった。
「ふふ、可愛いわ」
マヤリィは指でアソコを愛撫していたかと思うと、彼女の豊かな金髪をかきわけて乳房にキスをする。
「……マーヤ、聞いてもいいか?」
「何かしら?」
「私の髪を切りたい…とか思わないのか?」
マヤリィの性癖の話を思い出し、リッカは訊ねる。
「思わないわ」
即座に答えるマヤリィ。
「なぜ?これだけ長さがあれば切り甲斐があるだろう?」
「私は人の髪を切ることには興味がないの。自分の髪を切るから、快感を感じるのよ…♪」
マヤリィは恍惚とした表情で言う。
他人に興味がないタイプの断髪好き女子である。
「…マーヤ。貴女も知っているとは思うが、我が国の女は髪を長く伸ばすのが常識だと思っている。…私もその常識を信じてきた人間ゆえ、歳を重ねても髪を切ることはないのだ」
リッカは言う。
「しかし、初めて貴女の姿を見た時、私はその美しさに魅了された。丸坊主の女性がこんなにも魅力的だなんて思いもしなかったよ」
少し乱れたブロンドのロングヘアに指を通しながら、リッカは呟く。
「私も…髪を切ったら貴女と同じ快感を得られるのかな…」
「それは…どうかしら。私には分からないわ」
そう言うと、マヤリィはリッカの唇にキスする。
甘く激しいマヤリィのディープキスはリッカの意識を朦朧とさせた。
「マーヤ…私は……」
何か言いかけて、そのまま眠ってしまうリッカ。
それを見たマヤリィは彼女に寄り添い、裸のまま一緒に毛布にくるまる。
「おやすみなさい、リッカ…」
そして、まもなくマヤリィも眠りに落ちた。
どの作品においても彼女が浮気性なのは言わずと知れた真実ですが、前国王の妹まで毒牙にかけるマヤリィ様。
「初めて」だったリッカの方も、美しいマヤリィに抱かれて夢見心地。
誰も知らない、二人だけの秘密です。




