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流転の國 vol.5 〜愛憎のParallel world〜  作者: 川口冬至夜


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第七話 邂逅

リッカ様の本編初登場。

(門の前なのに誰もいないわね…)

そう思いながら離宮の門をくぐると、

「お待ち申し上げておりました、女王陛下。私がリッカにございます」

なんとリッカ本人が出迎えてくれた。

「初めまして、リッカ様。私は流転の國のマヤリィ。急なご相談にもかかわらず、私を受け入れて下さったことに感謝します。これからしばらくの間、よろしくお願いしますね」

「こちらこそ、よろしくお願い致します。貴女様のお話は兄から聞いておりますので、どうぞこのレイン離宮でゆっくりなさって下さいませ」

二人はその場で握手すると、リッカはマヤリィを中へ案内した。

「…女王陛下」

少しの沈黙の後、リッカが言う。

「失礼ながら、私はどうにも丁寧な言葉遣いが苦手でな。お互い王族だし、こういう喋り方で構わないか?」

「ええ、勿論よ」

マヤリィはそう言って頷く。王族とは少し違うが、流転の國の女王であることには変わりない。

「普段は最高敬語に囲まれているようなものだから、かえって気が楽だわ」

「それなら良かった。では、改めてよろしく頼むよ、えっと…」

なんと呼ぶべきか迷っていると、

「マーヤでいいわ。よろしくね、リッカ」

ルーリでさえ呼んだことのない愛称を名乗る。

「分かった。これからはそう呼ばせてもらおう」

リッカは笑顔で頷く。


そして、客間に入ると、リッカはコーヒーを用意してマヤリィと対面した。

「しかし、まさか貴女がそのような姿で現れるとは思わなかった…」

ツキヨから『変わり者』と評された彼女も、やはり桜色の都の女性である。

真っ直ぐな金髪は腰より長く、艶々として美しい。

「兄から聞いた話では、貴女の髪はとても短いとのことだった。…されど、丸坊主にしているとは聞いていない」

「…でしょうね。だって、坊主にしたばかりだから」

「えっ…」

「私、自分の長い髪が嫌いなのよ。だからずっとベリーショートでいたのだけれど、今はそれすらも煩わしい。…それで、丸坊主にしてしまおうと思ったの。実際、髪を全て落としたら、不思議と心が落ち着いたような気がしたわ」

リッカはマヤリィの話を真面目に聞いている。

「それに、ここでの私は全てのことから解き放たれ、誰にも知られることなく静かに療養生活を送ることが出来る。丸坊主にしたことを知るのも、今は貴女だけよ」

そう言って自身の頭に手をやるマヤリィ。

頭頂部がザリザリと掌を刺激する。

(私、本当に丸坊主にしちゃったのね)

出来たら触り続けたいが、リッカが悲しそうな顔をしているのを見て、やめた。

「マーヤは…それほどまでに自分の髪が嫌いなのか?」

心なしか碧い瞳がうるんでいる。

「ええ。私にとって長い黒髪なんて、鬱陶しいだけよ」

マヤリィはそう言うと、

「…そうね、貴女にも話しておきましょうか。私がなぜ自分の長い髪を嫌うのかと言うことをね」

丸くなった頭を撫でながら、リッカに微笑みかけた。

その微笑みはかつて出会った女性の誰よりも美しい。

(美しい人だとは聞いていたが、予想以上だ…!)

兄ツキヨからの手紙に【マヤリィ様は絶世の美女でいらっしゃるので、くれぐれも驚かないように】という一文があったのを思い出すリッカ。それを読んだ時は、兄上は大袈裟なのではないかと思ったが、いざこうして目の前に座っている人を見ていると、兄の言葉は本当だったと実感する。

(女の美に髪は関係ないのか…?)

マヤリィは頭の形も良く、整った顔立ちも相まって丸坊主がよく似合っている。理髪師の女性が褒めたように、髪を落としたマヤリィは有髪だった時とはまた違う美しさと艶かしさを放っている。

リッカはマヤリィの微笑みに見とれつつ、姿勢を正す。

「…マーヤ。ぜひ貴女の話を聞かせて欲しい」

白い頬を僅かに紅潮させ、彼女はそう言った。


マヤリィは出来る限り冷静に話をした。実際、彼女は最初から最後まで冷静だった。

「長々と話を聞かせてしまってごめんなさいね。…そういうわけで、私にはこことは違う世界で生きていた時代があって、その頃の記憶に囚われて今も抜け出せずにいるのよ。何とか治さなくてはならないのだけれど、なかなか治すことが出来なくて…」

自らの髪を厭う理由から、話は過去へと飛び、最終的には病についても説明した。ツキヨ経由で話は通っているが、直接話しておく必要があると思ったのだ。

「そのようなつらい過去があったとは…」

冷静なマヤリィに対し、話を聞いたリッカは涙を流しながら憤っている。

「何ゆえ、貴女がこんなにも苦しまねばならないのだ…!美しく慈悲深く素晴らしい女性である貴女を病に堕としたその世界の者達を私は決して許さん…!」

拳を握りしめるリッカを見て、マヤリィは優しい声で言う。

「…リッカ。今も私の病気は治っていないけれど、一人で苦しんでいたあの頃とは違うわ。私には帰る場所があり、今は貴女が私を守ってくれている。…私の為に怒ってくれてありがとう、リッカ」

「マーヤ……」

マヤリィの微笑みを見て、リッカは何も言えなくなる。

(貴女は苦しみに満ちた人生を送ってきたというのに、なぜそんなにも優しく穏やかでいられるのだ…)

静かに窓の外を眺めるマヤリィは哀しくも美しかった。

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