第十四話 二人
まるで何事もなかったかのように。
二人は静かに夜の時間を過ごします。
「この部屋で過ごすのも久しぶりね…」
全てを終わらせたマヤリィはジェイを連れて自分の部屋に『転移』した。
「ジェイ、今夜はゆっくり過ごしましょう。…とりあえず、コーヒーでも淹れるわね」
「ありがとう、マヤリィ。君も疲れてるのに…」
「大丈夫よ。貴方は座って待ってて頂戴」
マヤリィはそう言ってジェイにキスすると、準備を始めるのだった。
「マヤリィのコーヒー、おいしいな…」
「…そう?嬉しいわ。貴方は嘘をつかない人だから」
レイン離宮でリッカに語ったように、ジェイは純粋で、真面目で、絶対に嘘をつかない人だ。決してマヤリィを否定せず、彼女の全てを受け入れている。ジェイはこれからもマヤリィの一番の味方であり続けるだろう。
「ジェイ、いつも私を支えてくれてありがとう。貴方がいるから、私は生きていけるのよ」
マヤリィは微笑む。
「それは僕だって同じだよ。マヤリィがいない世界なんて考えられない」
ジェイは言う。
「日本にいた頃の名前は忘れちゃったけど…もし思い出したら、僕と同じ名字を名乗ってくれる?」
「勿論よ。思い出したら教えて頂戴。…私の本当のファーストネームもね」
二人には日本にいた頃の名字と名前があるはずなのだが、思い出そうとすると頭の中に靄がかかったような感覚に陥るのだ。
「うん、分かった。約束するよ」
そんな会話をしていると、気付けば夜中になっていた。
「また明日ね、マヤリィ」
「ええ。お休みなさい、ジェイ」
大きなベッドの上で寄り添い、二人は短い言葉を交わして眠りにつくのだった。
次回、最終話です。