第2話「偽りの出会い」【後編】
【シーン:秘書室・初出勤】
翌朝。
ハンギョングループの秘書室に、ジン・ヨンジュンは配属された。
広々としたオフィス。
整然と並ぶデスク。
無駄を一切排した冷たい美しさ。
その中心にいるのは、秘書室長の男。
チェ・ミラン――冷酷な弁護士でもある。
スーツの似合う鋭い女性は、ヨンジュンを一瞥すると、
書類一式を机に叩きつけるように置いた。
「……余計なことは考えないこと。
ここでは”効率”がすべてよ。」
淡々とした声。
だが、ヨンジュンはその下に潜む警戒心と敵意を敏感に感じ取った。
――この女、俺を試している。
だが問題ない。
ヨンジュンは完璧に演じる。
“無害な新入り”を。
「かしこまりました。ご指導、よろしくお願いします。」
完璧な低頭。
完璧な微笑。
チェ・ミランは一瞬だけ目を細めたが、何も言わずに去った。
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【シーン:誰もいないオフィス・ヨンジュンの独白】
ヨンジュンは、静かにオフィスを見渡した。
この場所。
この組織。
十五年前、父を殺した張本人たちが、今もここで”正義の顔”をして生きている。
思わず、拳に力がこもる。
だが、今はまだ時ではない。
急ぐな。
焦るな。
じわじわと、根から腐らせる。
それが、ヨンジュンが選んだ復讐の方法だった。
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【シーン:不穏な影】
ヨンジュンの様子を、ガラス張りの会議室から見つめる影があった。
ハン・ギョンシク。
財閥総帥ハン・ギョンウの実弟。
表向きは副会長だが、裏では兄を引きずり下ろす機会を窺っている。
ギョンシクは薄く笑った。
「……面白い駒が入ったな。」
隣に立つチェ・ミランが眉をひそめる。
「素性は問題ありません。ただ――」
「何か、引っかかるか?」
ミランは、短く答えた。
「――目が、綺麗すぎる。」
ギョンシクは笑った。
「綺麗なものほど、毒が強い。」
彼はそう呟きながら、ヨンジュンの履歴書を指で弾いた。
ヨンジュンは知らなかった。
彼が侵入したこの世界は、
ただの冷酷な組織ではない。
無数の蛇たちが絡み合う、底なしの泥沼だということを――。
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【ラストシーン】
夜。
ビルの最上階。
ヨンジュンは誰もいない会議室で、
ひとり静かに父の懐中時計を握り締めた。
「必ず――引きずり下ろしてやる。」
目を閉じた彼の胸には、
あの夜、父が命を懸けて伝えた最後の言葉が、
今も深く、熱く生きていた。
復讐の火は、確かに燃えている。
まだ誰にも、それが見えないだけだ。
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――第2話 完――