第2話「偽りの出会い」【中編】
【シーン:ハンギョングループ本社・ロビー】
セリナは、ヨンジュンに微笑みかけたまま、少しだけ距離を詰めた。
高いヒールにも関わらず、歩みは驚くほど軽やかだった。
「今日、最終面接の方かしら?」
そう問いかける声は、上流社会に生きる者らしい優雅さを湛えながらも、どこか柔らかかった。
ヨンジュンは一瞬だけ思案した後、
礼儀正しく答える。
「はい。本日、面接を受けさせていただきました。
配属先は秘書室とのことです。」
セリナは小さく頷く。
「そう……。きっと、父が選んだのね。」
その言葉に、ヨンジュンは目を細めた。
表情には出さない。
だが、胸の奥で鋭い棘が刺さる。
ハン・ギョンウ。
父を地獄へ追いやった男。
その男が、また新たな駒を自らの陣営に引き入れたというわけだ。
――だが、今回の駒は違う。
ヨンジュンは心の中で冷たく笑った。
彼自身が、
この財閥を内側から食い破る毒であることを、
彼らはまだ知らない。
⸻
【シーン:エレベーターホール】
エレベーターの到着を待つ間、
セリナは何気ない素振りでヨンジュンに問いかけた。
「名前は?」
「ジン・ヨンジュンです。」
「ヨンジュン……いい名前ね。」
セリナは微笑んだ。
無邪気なその笑みが、ヨンジュンの胸の奥をかすかに揺らす。
だが、彼はそれをすぐに押し殺す。
過去の痛みと、燃える復讐心で。
エレベーターが到着する。
セリナは先に乗り込み、ドアを開けたままヨンジュンを振り返った。
「あなた、面白そうね。」
ヨンジュンは小さく首を傾げた。
「面白い、ですか?」
「ええ。……これからが楽しみだわ。」
それは、ただの思いつきの言葉だったのかもしれない。
あるいは、運命の予感だったのかもしれない。
ヨンジュンは軽く微笑み、
セリナのあとを追ってエレベーターに乗り込んだ。
扉が静かに閉まる。
これが――
ジン・ヨンジュンとハン・セリナの、
逃れられない運命の第一歩だった。
⸻
(続く)