第2話「偽りの出会い」【前編】
【シーン:ハンギョングループ本社・ロビー】
大理石の床が、鈍く光っている。
吹き抜けの高い天井、整然と並ぶ警備員たち。
財閥の巨大な権威が、この空間全体を支配していた。
スーツに身を包んだジン・ヨンジュンは、まるでそこに溶け込むように歩いていた。
堂々と、だが目立たないように。
手にしているのは、入社面接最終選考の案内メール。
ハンギョングループ本社、企画戦略部・秘書室への配属予定。
15年前、父を奪ったこの組織の心臓部に、
今、自らの足で踏み込もうとしている。
ヨンジュンの顔に、迷いはなかった。
あるのは、ただ一つ――
破壊するための、完璧な準備。
⸻
【シーン:面接会場】
会議室の奥、鋭い視線を持った数人の幹部たちがヨンジュンを見つめている。
机には彼の履歴書が置かれていた。
名門大学卒業、海外留学歴、語学堪能。
完璧すぎる経歴に、面接官たちは訝しげに視線を交わす。
だが、ヨンジュンは微笑みながら言った。
「私は、御社の理念に心から共感しております。」
表情一つ動かさず、面接官たちの質問に応じる彼の姿は、
まさに”理想のエリート”そのものだった。
しかし――
ヨンジュンの胸の奥には、冷たく燃える復讐の火が静かに灯っていた。
⸻
【シーン:偶然の出会い】
面接が終わり、ロビーに戻ったヨンジュンは、
ふと、エレベーター前で立ち止まった。
香水の甘い香り。
軽やかなヒールの音。
振り向くと、そこにいたのは――
ハン・セリナだった。
艶やかな栗色の髪、透き通るような肌。
けれど、どこか寂しげな、遠くを見るような瞳。
ヨンジュンは無意識に息を呑んだ。
セリナもヨンジュンに気づき、微笑んだ。
「あなた……どこかで会ったことがあるかしら?」
優しい声。
無防備な瞳。
ヨンジュンは、心臓が一瞬だけ跳ねるのを感じた。
だが、すぐに冷静な仮面を被り直す。
「いいえ、初めてお目にかかります。ハン様。」
完璧な礼節。
完璧な嘘。
ヨンジュンは微笑みながら頭を下げた。
その瞳の奥に、誰にも悟らせない鋭い光を宿して。
セリナはくすりと笑った。
「不思議ね。なんだか、懐かしい気がするの。」
ヨンジュンは答えなかった。
ただ静かに、心の奥底で呟いた。
――懐かしいのは、俺のほうだ。
だがその懐かしさは、
優しさではない。
哀しみでもない。
それは、復讐の対象への、凍てついた記憶だった。
⸻
(続く)