表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮の契約  作者: ZEN
5/84

第2話「偽りの出会い」【前編】

【シーン:ハンギョングループ本社・ロビー】


大理石の床が、鈍く光っている。

吹き抜けの高い天井、整然と並ぶ警備員たち。

財閥の巨大な権威が、この空間全体を支配していた。


スーツに身を包んだジン・ヨンジュンは、まるでそこに溶け込むように歩いていた。


堂々と、だが目立たないように。


手にしているのは、入社面接最終選考の案内メール。

ハンギョングループ本社、企画戦略部・秘書室への配属予定。


15年前、父を奪ったこの組織の心臓部に、

今、自らの足で踏み込もうとしている。


ヨンジュンの顔に、迷いはなかった。

あるのは、ただ一つ――

破壊するための、完璧な準備。



【シーン:面接会場】


会議室の奥、鋭い視線を持った数人の幹部たちがヨンジュンを見つめている。


机には彼の履歴書が置かれていた。

名門大学卒業、海外留学歴、語学堪能。

完璧すぎる経歴に、面接官たちは訝しげに視線を交わす。


だが、ヨンジュンは微笑みながら言った。


「私は、御社の理念に心から共感しております。」


表情一つ動かさず、面接官たちの質問に応じる彼の姿は、

まさに”理想のエリート”そのものだった。


しかし――

ヨンジュンの胸の奥には、冷たく燃える復讐の火が静かに灯っていた。



【シーン:偶然の出会い】


面接が終わり、ロビーに戻ったヨンジュンは、

ふと、エレベーター前で立ち止まった。


香水の甘い香り。

軽やかなヒールの音。


振り向くと、そこにいたのは――

ハン・セリナだった。


艶やかな栗色の髪、透き通るような肌。

けれど、どこか寂しげな、遠くを見るような瞳。


ヨンジュンは無意識に息を呑んだ。


セリナもヨンジュンに気づき、微笑んだ。


「あなた……どこかで会ったことがあるかしら?」


優しい声。

無防備な瞳。


ヨンジュンは、心臓が一瞬だけ跳ねるのを感じた。

だが、すぐに冷静な仮面を被り直す。


「いいえ、初めてお目にかかります。ハン様。」


完璧な礼節。

完璧な嘘。


ヨンジュンは微笑みながら頭を下げた。

その瞳の奥に、誰にも悟らせない鋭い光を宿して。


セリナはくすりと笑った。


「不思議ね。なんだか、懐かしい気がするの。」


ヨンジュンは答えなかった。


ただ静かに、心の奥底で呟いた。


――懐かしいのは、俺のほうだ。


だがその懐かしさは、

優しさではない。

哀しみでもない。


それは、復讐の対象への、凍てついた記憶だった。



(続く)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ