第1話 特別編:「父の最後の言葉」
【シーン:ハンギョングループ本社・秘密会議室】
雷鳴が窓を叩く。
暗い部屋に、ひとつだけ小さなランプが灯っていた。
護衛たちに囲まれながら、ヨンジュンの父は必死に訴えていた。
相手は、若き日のハン・ギョンウ――冷徹な支配者。
だが、ギョンウの瞳には、訴えも哀願も一片の価値も映っていなかった。
護衛に羽交い締めにされた父は、それでも最後の力を振り絞る。
ヨンジュンへ、言葉を届けるために。
「ヨンジュン……」
低く、震える声。
ヨンジュンは、怖さに震えながらも父を見つめ返した。
「いいか。忘れるな。
どんなに暗い夜でも、必ず……朝は来る。」
父の瞳は、痛みと、祈りと、愛情で溢れていた。
「人は……希望を捨てたとき、
初めて、本当に負けるんだ。」
護衛が父を引き剥がす。
それでも、父は声を張り上げた。
「どんなに苦しくても――
生きろ!
生き抜いて、すべてを――」
バタン。
ドアが乱暴に閉ざされ、声は遮られた。
雷鳴だけが、虚しく残響する。
ヨンジュンは小さな拳をぎゅっと握り締めた。
子供の心には、まだ理解できない怒りと悲しみが、渦巻いていた。
そして、彼は知った。
世界は、正義では動かない。
泣き叫んでも、誰も助けに来ない。
頼れるのは、自分自身だけだと。
そして――
燃え上がる炎のように、
心の奥底にひとつの誓いが灯った。
「父さん、必ず――俺が取り戻す。」
雷鳴がまた轟いた。
幼いヨンジュンの影を、無慈悲に照らしながら。
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【特別編・完】