第1話「炎に誓う夜」【後編】
【シーン:ビル屋上・夜】
ソウルの夜は、さらに深く沈み、
街の灯りがまるで水底の泡のように滲んで見えた。
ハンギョングループ本社ビル、その屋上に、ジン・ヨンジュンは一人立っていた。
スーツのポケットから、再び取り出す。
古びた懐中時計。
父の形見。
今も止まったまま、針は十年前の夜を指し続けている。
ヨンジュンは、そっと目を閉じた。
胸の奥から、焼けるような痛みがこみ上げる。
だが、顔にそれを出すことはない。
彼はもう、あの夜の少年ではない。
愛も、涙も、憎しみすら制御できる男になった。
そして、心の奥底で、静かに誓った。
――すべてを奪い返す。
この命に代えても。
風が強く吹いた。
空の雲が割れ、月が顔を覗かせる。
その光の中で、ヨンジュンは立ち尽くしていた。
……だが、その背後。
黒い影が、忍び寄っていた。
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【シーン:黒服たちの襲撃】
「……ようこそ、ジン・ヨンジュン。」
低くくぐもった声。
ビルの暗がりから、黒服の男たちが現れる。
5人。いや、6人か。
ヨンジュンは振り向かず、夜景を見下ろしたまま微笑んだ。
「歓迎してくれるとは、ありがたい。」
その声音は、まるで氷のように冷たかった。
次の瞬間、黒服たちが一斉に襲いかかる。
だが、ヨンジュンは動じなかった。
一歩、二歩、間合いを詰める黒服たち。
ヨンジュンは、静かに懐中時計をポケットに戻した。
そして――
無駄のない、鋭い一閃。
瞬く間に、二人が膝をつく。
残りの男たちも、怯むことなく襲いかかる。
だが、ヨンジュンの動きはしなやかで、研ぎ澄まされていた。
かつて、孤児院で、ストリートで、
生き延びるために磨いた技術。
それが今、財閥の刺客を圧倒する。
最後の男を沈めたとき、
ヨンジュンの呼吸は、乱れていなかった。
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【シーン:独白】
倒れ伏す黒服たちを見下ろしながら、
ヨンジュンは静かに呟いた。
「始まったな――紅蓮の契約。」
冷たい夜風が、ヨンジュンのスーツを揺らす。
彼の胸の中には、燃え盛る復讐の炎。
誰にも消すことのできない、絶対の決意が宿っていた。
やがて、遠くでサイレンが鳴り始める。
ヨンジュンはポケットからスマートフォンを取り出し、
ハンギョングループ内部の情報ネットワークにアクセスする。
「次は……お前だ。ハン・ギョンウ。」
ディスプレイに浮かび上がった名前を、
ヨンジュンは凍りつくような視線で見つめた。
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【エンディング】
――第1話 完――