第5話「すれ違う運命」【前編】
【シーン:迎賓館・朝】
柔らかな陽光が差し込む朝。
セリナは窓辺に立ち、ぼんやりと外を眺めていた。
記憶はまだ戻らない。
だが、心のどこかに、
ひとりの男の温もりが確かに刻まれている。
――ヨンジュン。
名前だけが、確かだった。
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「おはようございます、ハン様。」
控えめなノックとともに、
ヨンジュンが部屋に入ってきた。
完璧なスーツ姿。
無表情。
どこか遠い存在。
セリナは思わず、寂しそうに微笑んだ。
「おはよう、ヨンジュンさん。」
声をかけるセリナに、
ヨンジュンは静かに礼を返すだけだった。
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(……遠い。)
セリナは胸が痛むのを感じた。
あの日、寄り添ってくれたあたたかさは、
今はもう、手の届かないもののようだった。
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【シーン:ヨンジュンの心中】
(これでいい。)
ヨンジュンは心の中で呟く。
(あの夜、迷いかけた。だが違う。
俺は復讐者だ。
情に溺れるわけにはいかない。)
だから、あえて距離を置く。
冷徹な秘書として、
ただそれだけの存在に徹するために。
セリナの寂しげな微笑みを、
見ないふりをして。
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【シーン:ギョンシクの密談】
その頃、別棟では──
ハン・ギョンシクが静かに笑っていた。
「そろそろ、“目覚め”が必要だな。」
彼の視線の先には、
一枚の写真。
そこに写っていたのは、
かすかに笑うセリナと、その隣で佇むヨンジュン。
「ハン家の後継者に、相応しい“記憶”を、植え付けてやらねばな。」
冷たい声が、空気を震わせた。
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(続く・中編へ)




