第4話「偽装の愛」【中編】
【シーン:迎賓館・リビング】
夕暮れ。
オレンジ色の光が、ゆっくりと部屋を染めていく。
ソファに座るセリナは、指先でカップを弄んでいた。
どこか心ここにあらずな表情。
ヨンジュンは数メートル離れた場所に控えている。
静かに、目立たず、だが決して彼女を見失わないように。
「……私、誰に守られてきたんだろう。」
ぽつりと、セリナが呟いた。
ヨンジュンは、その声に小さく反応した。
だが、すぐに冷静さを取り戻す。
「あなたは、ハン家の令嬢です。
財閥のすべてが、あなたを守るために存在しています。」
教科書通りの回答。
けれど、セリナは首を振った。
「違うの。
私が……心から安心できたのは、あのときだけだった。」
ヨンジュンは無言で彼女を見つめた。
**
【シーン:セリナの回想(断片)】
血の匂い。
雨の音。
温かい手。
――名前を呼ぶ声。
「……ヨンジュンさん……」
セリナは、胸の奥に触れる温もりを必死で探していた。
**
【シーン:ヨンジュンの葛藤】
(演じろ。冷酷に。)
ヨンジュンは、無表情を貫く。
(これは、偽装の愛だ。
この女を、利用するための。)
けれど、セリナの無垢な視線が、
その冷たい仮面をじわじわと侵食していく。
**
「……ヨンジュンさん。」
ふいに、セリナがヨンジュンに手を伸ばした。
小さな手。
震えている。
ヨンジュンは一瞬、迷った。
(駄目だ。)
(情に流されるな。)
**
だが。
次の瞬間、
ヨンジュンはそっと彼女の手を取り、
静かに包み込んでいた。
**
「大丈夫です。
……私は、あなたのそばにいます。」
その言葉は、
自分自身への裏切りだったかもしれない。
⸻
(続く・後編へ)




