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紅蓮の契約  作者: ZEN
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第4話「偽装の愛」【前編】

【シーン:迎賓館・病後のセリナ】


静かな朝。


カーテン越しに、柔らかな光が差し込む。

白いベッドの上、セリナはゆっくりと目を覚ました。


世界は、まだぼんやりと霞んでいる。

名前も、家族も、過去も――思い出せない。


だが、その心の奥にだけ、

あたたかな残像があった。


――優しい声。

――温かな手。


(……誰……?)


ふと、胸がきゅっと締めつけられる。


**


ノックの音。


「失礼します。」


低く穏やかな声と共に、ジン・ヨンジュンが現れた。


黒いスーツ、整った所作。

完璧な、“秘書”としての姿。


セリナは彼を見るなり、反射的に胸の奥が波打つのを感じた。


「……ヨンジュンさん……」


自分でも驚くほど自然に、名前を呼んでいた。


ヨンジュンは一瞬だけ目を細めたが、すぐに微笑んで答える。


「本日から、ハン様専属の秘書として務めさせていただきます。

 どうぞ、よろしくお願いいたします。」


礼儀正しく、冷静に。


完璧な仮面をかぶりながら。


**


【シーン:二人だけの空間】


セリナは、小さな声で尋ねた。


「……私、いろんなことを、忘れてしまったみたいで……」


その声は、不安に震えていた。


ヨンジュンは一歩、静かに近づいた。


「大丈夫です。焦らなくていい。

 少しずつ、思い出していきましょう。」


その言葉は、秘書としてのもの。

あくまで”表向き”の優しさ。


だがヨンジュン自身、

その瞳の揺れを止められなかった。


**


――偽りでもいい。


――今だけは、寄り添うふりをする。


**


セリナは、かすかな微笑みを浮かべた。


「……ありがとう、ヨンジュンさん。」


その微笑みが、

ヨンジュンの胸に、またひとつ小さなひびを入れたことに、

彼自身まだ気づいていなかった。



(続く・中編へ)

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