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第3話 特別編:「無意識の記憶」
【シーン:虚ろな空間】
闇。
どこまでも続く、静かな闇。
その中を、セリナはひとり、彷徨っていた。
名前も、家族も、
誰一人思い出せない。
空っぽの心。
ただ冷たく、寂しく、怖かった。
「誰か……」
かすれた声が、闇に消える。
どこかで、誰かが手を伸ばしている気がした。
けれど、その手は遠すぎて、掴めない。
セリナは、膝を抱え、泣きたくなった。
だが、そのとき。
――聞こえた。
あたたかな声。
「生きろ。」
低く、優しく、
魂を震わせるような声だった。
誰――?
セリナは必死にその声を探そうとする。
目を凝らしても、何も見えない。
けれど、確かに感じた。
胸の奥に、じんわりと広がる温かさ。
――知ってる。
この声。
心が、覚えている。
大事な、大事な誰かだと。
セリナは、小さく微笑んだ。
「……あなたに……会いたい……」
かすかな呟きは、闇の中に溶けた。
だが、確かにその願いは、
彼女の深い無意識に、静かに刻まれていた。
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【シーン:病室・意識回復直前】
心電図の音が、かすかにリズムを刻む。
セリナの指先が微かに動く。
目を閉じたまま、
彼女は小さく、かすれた声を洩らした。
「……ヨン……ジュン……」
それは、忘れてしまったはずの名前。
まだ、思い出せない。
けれど、確かに心だけが知っている名前だった。
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【特別編・完】




