第1話「炎に誓う夜」【前編】
幼いヨンジュンの家族が財閥ハンギョンに陥れられ死亡。彼は復讐を誓い、生き延びる。
雷鳴が空を裂いた。
真夜中のソウル、黒い雲が低く垂れ込め、ビル群の隙間を縫うように冷たい雨が叩きつける。
街は眠りにつき、人々は知らない。この夜、ひとつの家族が静かに抹消されることを。
ハンギョングループ本社ビル。
巨大なその建物の高層階で、ひとりの少年が震えていた。
ジン・ヨンジュン。十歳。
濡れた髪が額に張り付き、小さな肩は雨と恐怖に震え続けていた。
「父さん……」
震える声で呼んだその先で、彼の父は二人の護衛に押さえつけられていた。
もがき、叫び、必死に訴える男の言葉は、遠くで唸る雷鳴にかき消される。
「頼む!子供だけは、子供だけは――!」
その叫びは誰の耳にも届かなかった。
応接室の奥、巨大なデスクの前に立つ男。
ハン・ギョンウ。ハンギョングループ現総帥。
漆黒のスーツに身を包んだ彼は、淡々と命じるだけだった。
「消せ。」
わずか一言。
それで十分だった。
父親は、無理やりビルの外へと連れ去られていく。
ヨンジュンは、足がすくんで動けなかった。
重たいドアが閉まる直前、父親の血のように赤い目がこちらを見た。
「生きろ、ヨンジュン……!」
その言葉だけが、少年の心に刻み込まれた。
⸻
【シーン切り替え】
― 豪雨の路上 ―
ヨンジュンは追いかけた。
全力で、ずぶ濡れになりながら。
そして、見た。
父親を無理やり押し込んだ黒い車。
その車を、猛スピードで迫る大型ダンプカー。
白いヘッドライトが闇を裂き、
耳を劈くブレーキ音が、夜を引き裂く。
ドン――!
爆発音のような衝突。
吹き飛ばされた車。
砕けるガラスと、捻じ曲がる鉄の音。
時間が止まったようだった。
ヨンジュンはただ、立ち尽くしていた。
雨音の中で、彼の小さな心臓だけが、激しく脈打っていた。
そして、少年は知った。
この世界に、正義はない。
守られるべきものなど、何ひとつない。
その夜、
ジン・ヨンジュンは、生きるために「人であること」を捨てた。
――復讐だけを胸に、立ち上がるために。
次は15年後、ヨンジュンが復讐を開始する現代のシーンへ