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星と夜の出会い

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申す者でございます!

 優しげな男の子に連れられてきた場所は、どうにも自宅とは違う場所!? 今やっているのは幼いステラちゃんが後の夫となるジーノと出会うエピソードだったんじゃないのか!!?


 それでは、本編スタートです!!

 石造りの建物が並ぶ、海辺の街。

 川口明希(かつての私)が暮らした国とは違う風光明媚(ふうこうめいび)なこの街にも、麗らかな陽の光が差す場所と同時に、光から忘れられて置き去られたような暗がりも広がっている。

 そのことを、幼い私はこの日に知った。


『それじゃあさ、このままいなくなっちゃおうよ』

 私を送り届けると笑った彼の声と共に街の暗がりが(うごめ)くように揺れて、下卑た笑い声が聞こえたかと思うと。


『ようよう、これがルーチェのご令嬢かい?』

『うまく連れてきたもんだな、えぇ、ヴォルペ?』

 いかにも柄の悪いとわかる大男たちが、闇から浮かぶように現れた。男たちの顔には、川口明希を苛んだやつらが浮かべていたのとは違う──もっと狂暴な気配の滲む笑みが浮かんでいた。


 私は、ヴォルペと呼ばれた男の子──私をこの場所に連れてきた、優しい笑顔の彼に(すが)りついていた。


 連れてきたって何?

 上手いことって何?

 帰してくれるんじゃなかったの?


 いろんなことを尋ねようとした私を見向きもせずに、ヴォルペと呼ばれた彼は『まぁ、僕だからな』と、周りの男たちと同じ笑みを浮かべた。


『僕にできるのはここまでだから、後は頼むわ』

 そう言い残して去っていったヴォルペの背中を信じられない思いで見つめている私には、値踏みするような視線が突き刺さっていた。


『どうするよ、これ?』

『何か身に付けてりゃ送れたが、何もなしか』

『髪か指の一本でも送ってやりゃあ、本人だってわかるか?』

『せっかく貴族の娘だし、金作らせてから帰すか?』


 雨のように降り注ぐ下卑た声。

 聞いているだけで寒気(さむけ)のする会話。

 どの世界にも、人をモノとしてしか扱わない人間がいるということを思い知ったし、初対面の相手を家族よりも信頼してしまった迂闊(うかつ)さを呪いたくなった。

 逃げなきゃと思うのに、身体が動かなかった。

 逃げる気力も湧かなくて、心までもが凍って。

 そんな様子は男たちにも伝わっていたのだろう、嘲笑めいた言葉が私に降り注いだ。


『なんだ、えらく聞き分けがいいな?』

 敢えて恐怖を煽るような笑い声と共に顔を覗き込まれたとき、私は何と答えただろう。きっと、『嫌がったら痛くされるから』とでも答えたに違いない。あの頃の私は、生まれる前の私に縛られていたから。


 昔の(ヽヽ)私は、それを嫌というほどわからされてきた。どんなに嫌なことでも、拒否すれば『母親』から折檻された。最初の頃は加減がわからなかったのだろう、酷い怪我をすることも少なくなかった。そうやって身体中が痛くても、するべきこと(ヽヽヽヽヽヽ)は変わらない──そんな日々だった。

 だから(ステラ)も、抵抗するという選択肢が頭から抜け落ちていた。あったとすれば、きっとただ無警戒に人を信じたことへの後悔ばかり。


『なんだァ、そのツラは?』

『こんなの慣れてますってか? 澄ましやがって!』

 何かが癇に(さわ)ったのか、男たちが苛立ったような声を上げて、感情に任せて拳を振り上げたときだった。


『……え、』

 予期していた痛みや衝撃はいつまでもなくて。

 代わりに聞こえたのは、そんな間の抜けた声。


 その日見た光景はまだ覚えているし、きっとこの先も忘れないだろう。


 気付くと、私を殴ろうとした男が地面に倒れ伏していた。呻き声すらあげずに昏倒する姿は、まるでもう起き上がることのないようにも見えて。

 思わずぎょっとした私と、それ以上に焦ったような様子の他の男たち。そして男たちはひとり、またひとりと倒れていって。

 最期に倒れた男の傍に、ひとりの男の子が立っていた。その姿は…………


『ヴォルペ……?』

 その姿は、つい今しがた私を置き去りにした男の子と少しだけ似ていた。けれど、銀色の髪は同じでも、その瞳は血潮のように赤くて、服装もよく見れば先程の男の子とはまるで違う──ぼろ布を多少まともに見えるよう仕立て直したみたいな衣服だった。

 何より違うのは、このとき現れた男の子の顔は、信じられないくらいに綺麗だった。世界にある宝石をどれだけ並べても、彼には遠く及ばないだろうというくらいに。


 だから尋ねずにいられなかった。

『あなた、誰?』


 その手に握られていた短剣には赤いものがこびり付いているように見えた。その短剣と、それが意味する事態は恐ろしくも感じたけれど、それよりも私は彼のことが気になった。

 私が尋ねると、彼は少しの間黙っていた。

 それから私をじっと見つめてきたその顔は、吸い込まれそうなほど綺麗に見えて。危うく(ほう)けた声を漏らしそうになったところに。

 突然、両手を強く握られた。

 血に濡れた彼の手は、それでもとても温かくて。


『俺は、ジーノ』

 そう名乗った彼の声には、ただ名前を告げるのとは違う、不思議な重みがあるように感じた。


『君が……、……君は、ステラ・ルーチェ。ルーチェの娘だそうだね。ごめん、さっき聞こえてしまったんだ』

 そう呟いた後、彼はその引きずり込まれそうな瞳で私を見つめながら、続けて言った。


『俺は、もしかしたらステラを守るために生まれてきたのかも知れない』

『え?』

 明らかに普通ではなかった。

 当時の私なら、こんなあからさまな言葉なんて気持ち悪くて即座に距離をとった。それができなかったのは、何故だったろう。


 その後は何だか現実とは思えない心地の中で家に帰されたり、そして私を連れた彼を目の当たりにした家族たちの反応から、どうやらジーノがルーチェ家なんて及びも付かないような大貴族の子息であることが窺えたり。もういろんなことが、私そっちのけで進んでいく。

 覚えているのは、父の言葉。


『あのヴェスペーロのご令息と縁を作れるとは……いや、それよりも。よく帰ってきてくれたね、ステラ。どこへ行ったのかと、本当に不安だったんだ。よかった、本当によかった……』

 さんざん嫌って、遠ざけて、そんな態度はよくないと乳母から教わってからも極力関わろうとしなかった父から抱き締められて、挙げ句に涙声で安堵の言葉を伝えられて。


 そんな温もり、以前の私(川口明希)は知らなかった。

 たぶん、それが転機になったような気がする。


 そこから、私は少しずつ(ステラ)として生きられるようになったように思う。


   * * * * * * *


「きっと、覚えてないでしょうね」

 だってあの日のことは、始まりに過ぎなかったから。


 それからも彼は言葉通りに、何度も私を“守って”くれた。貴族の子女が通うことを義務付けられていた学園や、それから社交の場でも、意地の悪い人や粘着質に絡んでくる人と度々遭遇していたけど、いつの間にかいなくなっていた。

 それがジーノのお蔭であることは、薄々察していた。けれど、どうして彼がそこまでしてくれるのかは、未だにわかっていない。こうして互いの全てを見せあうようになっても尚、彼の“優しさ”の理由を聞けないでいる。


 私は、彼のことは愛しているつもりだ。

 それに、愛しているなら秘密を共有しなくてはいけないわけでもない。私だって、“夢”の内容を彼に話してなんかいないのだし。

 それでもどこか(やま)しいような、心許(こころもと)ないような、小さな苦しさが胸に付き(まと)う。さすがのジーノも、その苦しさまでは私から遠ざけてくれないみたいだ。


 なんて、意地の悪いことを考えてしまった自分をも忘れたくて、彼の背中に回す腕の力が強くなる。

「ん、」

 胸を締め付けてしまったのだろう、彼の小さな呻き声が聞こえた。何だか妙にその声に安心して、いつしか私はまた眠りに就いていた。


 どうか、この幸せが夢でありませんように。

 そんな風に、願いながら。

 前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただき、ありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪


 この頃、時々ではありますが昔観ていたようなコッテコテの学園アニメを観たくなったりする作者です。某だんご大家族なアニメ(学園アニメなのか?)を観ていて、展開もわりとしっかり覚えているのになんだか感動してしまい、いつの間にか1話から最終回まで一気に観てしまったりしたものでした(終わり方は劇場版もめちゃんこによいのでわりと推しています)。王道ではありますが、テレビ放送版の1期最終回で秋生さんが叫ぶシーンを観るとついつい胸と目頭が熱くなってしまいます。


 閑話休題。

 満を持して(?)ジーノ登場です! いやぁ、少し前に話題になった『ヒロインにだけは優しい●人鬼』なんていうワードがあったじゃないですか。あの概念、実は作者にもクリーンヒットというか、もはや弱点並みの刺さり方をしてしまったんですよね。それに加えて、SNSで見かけた『愛が重いヒーロー』なる概念に惹かれたのもあって、ジーノはこういう子になりました。

 ステラのことを“守る”ジーノ、たぶん彼は従者とか暗殺者の力など借りることなく自らの手で彼女の「敵」を手にかけているのでしょう。それが彼にとっての……何なのでしょう、それはこの先出てくるかも知れませんね。


 ちなみに作者、今季はわりと新アニメを観られていますよ。何やかんやで前々から楽しみにしていたものが多いですからね、もう……そうですね。強いて言うなら、今後作者は遊月奈喩多(21)と名乗った方がよいかなと思ったりした次第ですね。


 (21)……伝わる方にはきっと伝わるはず!


 ということで、また次回お会いしましょう!

 ではではっ!!

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