はねて、とんで。
皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申すものでございます!
人生が辛い女の子が異世界で幸せになるお話、2話目の公開です! 明希ちゃんの恋はどうなるのか、そして彼女はどういう風に異世界へと旅立つことになるのか……
本編スタートです!!
待ち合わせ場所にいたのは、あまりにもミスマッチなふたり組。絶対に会ってほしくなかった──引き合わせたくなかったふたり。
お母さんが、本郷くんにしなだれ掛っている光景なんて、悪夢か天罰かのどちらかに違いなかった。
楽しそうなお母さんと、青ざめた本郷くん。よく見たらお母さんは何かスマホみたいなものを見せていて……。
「何してるの?」
思わず声が漏れて。
振り向いたふたりの顔は、対照的だった。
「あ、明希! ちょうどよかったぁ~!」
楽しそうに笑うお母さんと。
「……っ、川口さん……」
私を一瞬見て気まずそうに目を逸らす本郷くん。
いやな予感がした。
「……行こう本郷くん。早く文化祭の、」
「明希。この子、明希が気になるみたいなの。だから教えといたよ、お金払えばなんでも好きにできるよって」
「……は?」
「いつもの料金表と、あと先週のお客さんときの様子見せたげてんの。ほら、あのお金持ちの人! 明希も頑張ってたもんね、お蔭で追加でお金貰えて、ほんと上手なんだから~!」
「よりによって、…………」
「お母さん感心しちゃった~♪ 漣くんもじっと見てたよ、あ、ほら! 凄いねぇ~、ほんとの恋人みたいに……、ほら明希も見る?」
目の前が真っ暗になった気がした。
足場が崩れて、まっ逆さまに墜ちて。
開けた道が鎖された。
「あ、あたしお邪魔か! それじゃ漣くん、考えといてね~!」
馴れ馴れしく彼を呼んで去るお母さんを、慌てて追いかける。本郷くんの顔は見られなかった。
線路を跨ぐ歩道橋でやっと捕まえて、問い質す。
「なんで本郷くんと……ううん、なんで知ってるの!?」
「スマホ見たから」
当たり前のような声。
「あのさー、隠れてこっそり彼氏作るとかやめてよね、お母さん見捨てる気? いつも言ってるでしょ、明希がお金作ってくれないとあたし生きてけないって────」
その声に、何かが切れた。
気が付くとお母さんは階段の下に落ちていて。
真っ赤なお母さんの傍で、本郷くんが呆然としていた。怯えた顔で私を見つめて、辺りを見回して。
「……大丈夫」
小さく呟いた。
「大丈夫だよ川口さん、俺……」
は?
「何が大丈夫なの」
「え、えっと俺、誰にも言わないから! あんなの川口さんの意思じゃないんだろ、わかってる、大丈夫!」
「大丈夫じゃない」
知られたくなくて。
見られたくなくて。
頑張って隠してたのに。
私がどれだけ努力してたか。
なんでわかってくれないの。
そうか。
目の前の男に向き直る。足下に落ちていたバールを拾って、階段を昇ってくる彼と距離を詰めて。
あぁ、最悪だ。
重なる。
今まで肌を重ねさせられた、たくさんの顔が、記憶が。
違うと思ってたのに。
こいつもだったのか。
「わかってる、俺はわかってるよ! だから川口さん、それ置いてさ……こっち、こっち来てよほら! 大丈夫だよ、きっと助ける……俺が助けるから!」
上っ面ばかりの、聞き心地のいいだけの言葉。
何度も聞いた台詞だ。
“大丈夫”?
“わかってる”?
“助ける”?
下卑た欲望を張り付かせた笑顔を隠しもせずに、欺瞞まみれの聞き心地のいい言葉ばかりを並べ立てる……そんな汚ならしい連中と同じ言葉をペラペラ、ペラペラと……ッ!!
信じてたのに。
救われてたのに。
好きだったのに。
…………ッ!!!
「便所コオロギの痰カス同然の下心股からぶら下げたゴミクズが!! この私に知った風な口を利くなぁぁっ!!」
振り下ろした手に嫌な感触が伝わって、反動で骨まで痺れて。奇妙な達成感と、胸を突き刺すような痛みとが混ざり合う。叫び出したい衝動の正体は何なのか、私自身にもわからなくて。
だから胸のなかで渦巻くものは、ずっと胸を重く縛り付けて、締め付けて、崩して。
いっそそのまま、壊れたかったのに。
生ぬるい風が、意識を冷ます。
歩道橋の上で男が倒れていた。泣きそうな顔から色が失われて、やがて瞼も動きを止めて。
汗が引くのと同時に、現実が押し寄せてくる。
私の足下に倒れているのは。
え、……なんで?
「え、えっ、嘘……?」
よく見ると倒れているのは男は本郷くんその人で。歩道橋の下から何かザワザワ声が聞こえて。
逃げなきゃ。
人のいない方へ、上へ。
慌てて柵に昇ったらよろけて。
ゆら、と身体が空気を撫でて。
あ、電車
* * * * * * *
また、同じ夢を見た。
ううん、きっと……。
「大丈夫か、ステラ? またいやな夢を?」
「ありがとう、ジーノ。ちょっとね」
「何かの予兆だといけない、明日にでも夢見の占い師のところへ」
心配そうに端正な顔を歪める青年──最愛の夫・ジーノの、月明かりのような銀髪に触れ、逞しい背中に腕を回す。
「ステラ?」
「ありがとう、でも大丈夫。こうして貴方に触れると、とても安心するの。だから……」
夢の内容はきっと、そういう類いではない。
それがわかっているから、私は。
夢の私がかつて強いられたように。
「全部、忘れさせて」
吐息をまぶしたキスで、再び彼を誘う。
苦い記憶を塗り潰すために。
窓越しの月が煌々と輝き、全てを見ていた。
前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪
いやぁ、とうとう明希ちゃんが異世界へ旅立ちましたね! 作者は普段あまり異世界ものって書かないのですが、やっぱりわざわざ世界を跨ぐわけだから並々ならぬ事情があるのでは?と考えてしまうタイプなので、ついつい異世界に旅立つ前の話を凝ってしまいがちだったりします。
べっ、別に!? 「最終的に幸せになるんだから明希ちゃんには何か自発的に手放してほしいなぁ……。そうだ、同じクラスの男の子への恋心を命ごと捨ててもらうか!」とワクワクしながら書いたわけじゃないんですからね!?(華麗なる自白)
ということで、そうですね。
昔遊んでいたRPGのHDリマスター版が出るという情報を受信したばかりなので(この後書きは2025年の4月2日から3日にかけて書いています)、テンションがとても高いですね。
素直にありがとうと伝えたいところです。ありがとう、今まで積み重なってきたヒトの営みが、今こうして私を喜ばせてくれているのです。人類、存在してくれてありがとう……。この世界、捨てたものではありませんね。
そしてもちろん、拙作を閲覧してくださる皆様への感謝も胸に抱きつつ……
また次回お会いしましょう!
ではではっ!!