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苦しくて、痛い。

 皆様こんにちはこんばんは、遊月奈喩多と申す者でございます! 今回は匿名で好きなものを書こうぜというSNS企画に応募させていただいたお話を、自作として改めて投稿させていただいております。


 そして、お正月に頂いた創作お題“不幸なヒロインが幸せになっていく異世界恋愛”のお話を兼ねていたりして……?


 それでは、本編スタートです!!

「けほっ、えほ、」

 やっと終わった。

 口のなかの粘っこい感触、鼻の粘膜までおかしくなりそうな悪臭。舌や喉が腐っていく不快な温度と味……全身の倦怠感。

 死にたくなる苦しさのなか、今日の『日課』が終わった。いそいそと服を着込む影を横目に、私は不快感を隠さず口を濯ぎ、目を(つむ)って何秒か数える。


 何年もやってるんでしょ、いい加減慣れれば?

 去り際、嘲笑混じりに言われる。

 聞こえよがしに舌打ちをしてみせても、男は笑うばかり。言い知れぬ虚しさに打ちひしがれていると、隣の部屋から「ごめんね」と声がする。


「ごめんね、大変だったでしょう。お金さえあれば明希(あき)に苦労かけないで済んだのに……」

「…………大丈夫だよお母さん。昔からやってるし、さっきのも、どさくさに紛れて変なこと言ってきたから……、だから気にしないで」

「ごめんねぇ。ほんとにもう、明希がいないとお母さん生きていけないかも」

「……大丈夫だよ。大丈夫」


 お金を数え終わって、何枚もあった紙幣のうち1枚だけを私へのお駄賃として鏡台に置いて、お母さんは外へ出ていく。小柄な背中を丸めて、いかにも自分は可哀想な弱者だという格好をして、お母さんはどこかへ行く。

 いや、お母さんもきっと弱者(ヽヽ)なんだ。私が更に弱いだけで。


 ねぇお母さん、今日はいくら負けてくるの?

 そう訊いたら──お母さんが夜のパートと言っているのは嘘でしょと伝えたら、どんな顔するだろう。

 何度も思う。

 そのたびに機嫌がいいときの優しい顔や、背中を丸めた惨めったらしい姿が脳裏を(かす)める。恫喝(どうかつ)するような眼差しや怒声で萎縮させられた記憶が甦ってくる。

 小さい頃は怒ったり不機嫌そうな態度で、私が大きくなってからは(すが)り付いたり甘えるような態度で、私をこき使ってきたお母さん。どこかに行く宛も、家族の繋がりを絶って生きていけるほどの(したた)かさもない私は、そんな最低で惨めなお母さんを見限れないでいる。

 まだ本当に幼くて、商品価値(ヽヽヽヽ)すらなかった頃の私に優しくしてくれた記憶と、最近のすっかり弱々しくなった惨めなお母さんの姿が、頭を変に鈍らせる。


『明希がいないとお母さん生きていけないかも』


 なら、生きるのやめたらいいじゃん。

 そんな風に切って捨てられない自分が嫌だ。

 そろそろ慣れれば?

 そう侮られても仕返しのできない自分が嫌だ。


 切って捨てて、その後私もひとりになるのが怖い。

 何か仕返しをして、更に痛め付けられるのが怖い。


 何かの拍子に突然消えてしまえたらいいのに。

 消えるタイミングが完全にわかればいいのに。

 そうしたら、きっと何にも怯えずに済むのに。


「……いやだ」

 だって、私にはまだ救いがある。

 こんな最低な人生でも、まだ光を感じさせてくれる人がいる。シャワーを浴びた身体を冷まして、少しでもさっきまでの痕跡を落としてから、彼から貰ったメッセージを見返す。


『明日はよろしく!』


 本郷(ほんごう)(れん)くん。

 きっと彼からしたら、ただ文化祭の買い出しを一緒にするクラスメイトに送る気安いメッセージだけど。

 でも、誰もがうっすら私を遠巻きに見てくる中でも普通に接してくれる本郷くんに、どれだけ救われたか。彼の約束してくれた『明日』にどれだけ希望を見出だせたか。


 いつか伝えたいと思ってたけど。

 明日、伝えてみようかな。

 本郷くんとふたりになる機会なんて、もうなさそうだし。


 伝える言葉が、溢れて止まらなさそう。

 どうしよう、なんて言ったらいいだろう。

 明日、不安だけど楽しみだな。


 伝える言葉を探しているうちに夜は更けて、朝起きるのが少し辛かったけど。

 それすら、なんだか胸を弾ませた。


 だってそうでしょ?

 この日の為にかなり頑張った。


 払いのよさそうな客に吐き気がするほど媚びてチップを払わせたり、お駄賃から食費を削ったり、その分今日の服とか昼食代とか貯めたりして。

 いつもの苦痛を思えば彼にお金を出しても(ばち)は当たらないし、私なんかが本郷くんにあげられるものはそれしかない。


 ……ううん、違う違う!

 今日は買い出し。買い出しだから!

 必死にそう言い聞かせて、待ち合わせ場所に着いた私が見たのは、引きつった顔をした本郷くんと。


「……え?」

 そんな本郷くんに構わず楽しげに話す、私のお母さんだった。

 前書きに引き続き、遊月です。今回もお付き合いいただきありがとうございます! お楽しみいただけましたら幸いです♪


 本作のヒロイン・明希ちゃんが異世界に行くのはまだ少し先なので、この辺りで裏話(?)など。

 前書きで書かせていただいた経緯もこのお話を執筆した理由なのですが、より大きなきっかけとしては、職場での休憩中にオタク仲間である先輩から「最近は『これが現実』みたく異世界でも主人公が苦しむ話多いけどさ、異世界でまで苦しまなくていいのにね」という言葉を聞いたことでした。


 作者自身は異世界でも苦労どころかいわゆる異世界ものを書くこと自体が稀な人間なのですが、たぶん異世界ものを書くとすれば『どうにもならない現実に絶望しながら転移または転生した主人公が、前世から引きずる業と己の弱い心とに翻弄されていく』みたいな話を書くだろうなと思っているクチなので、そういう物の見方もあるのかと目から鱗が落ちるような気分だったんですよね。


 異世界で幸せになる主人公がいたっていいじゃない。


 その言葉は、なんだか作者にとって蒙を啓かれたような出会いだったんですよね(さすがに大袈裟かな?)

 そして、ちょうど観ていたガールズバンドアニメでも心を浄化されるような回が放送されたばかりだったのも相まって、いくぞ新世界!というノリで書き始めたのが本作となります。まぁ、そのアニメの心浄化回は次エピソードで新たな呪いとなってしまったわけなのですが、それはそれ。


 心が浄化されて、光のオタクモードで書き始めたのが本作となります。そう、ハッピーエンドになりますわよ!!

 ということで、今日この日(投稿日時をご参照ください)だからこそ宣言したいですね。この物語は、ハッピーエンドで終わります。そのつもりで書き始めてますからね!


 ということで、また次回お会いしましょう!

 ではではっ!!

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