第十一章 初めての覚悟
彼女の後に続いて、警察に包囲されたコンビニを出る。
外は想像以上に静かだった。
昼下がりに発生した強盗事件となれば、普通なら野次馬でごった返していてもおかしくないはずだ。
だが現実はまるで違っていた。コンビニ周辺は完全に封鎖され、近隣の店舗の店員まで避難済み。
その場にいたのは、数台のパトカーと十数人の警官だけ。
しかも彼女が姿を現すなり、警官たちは一斉に敬礼をして道を開けた。
彼女が警部章をつけた中年警官に何か耳打ちすると、すぐに通行を許された。
驚いたことに、誰一人として僕に話しかけてくる者はいなかった。ただ静かに、整然と見送られるだけ。
これが、噂に聞く「国家権力」ってやつか?うわ…まさか国の闇をこの目で見た。
彼女は群衆が集まっている封鎖線の外へ出ることを避けるように、裏道へと僕を誘導した。
細い路地を縫うように、迷いなく進んでいく。
その姿はまるで、自宅の庭を散歩しているかのような余裕さえ感じられた。
対する僕は、完全に必死だ。
狭い路地に置かれた看板やら箱やらにぶつからないように気をつけながら、彼女を見失わないようついていくのに精一杯。
何度か話しかけてみたものの、彼女は一切反応を返してくれない。
やがて僕は諦めて、ただ黙って後を追うことにした。
それにしても……彼女、足音がまったくしない。
ぱたぱたと靴音を響かせている自分と違い、まるで幽霊みたいに静かだ。
……いや、待てよ。
彼女、別に自分が人間だなんて一言も言ってないよな?
ってことは、本当に幽霊だったりして......うわぁ、考えたくない!!
そうこうしているうちに、彼女はあるビルの地下へと足を運んだ。
そこは小さな室内駐車場だった。
中に停まっている車は、ただの白い四人乗りセダンが一台だけ。
その横には、黒いスーツに身を包んだ中年の男が二人。
僕たちの姿を認めると、無言で後部座席のドアを開け、手で「どうぞ」と示した。
そのあまりに無言なやり取りに、若干の不安を覚える。
でも冷静に考えれば、もし彼らが僕の命を狙う敵だったならここまで手の込んだことはせず、さっさと片付けているはずだ。
あれだけの警官を動かせるような存在なら、僕一人を捕えるくらい造作もないはず。
きっと隊長の差し金だろう。
だったら、心配することなんてない。
そう自分に言い聞かせながら、僕は思い切って車に乗り込んだ。
次に隊長に会えたら、文句のひとつでも言ってやろう、「せめて返事くらいしてくれる人を寄越してください」ってな。
しかし意外なことに、あの女性は車に乗らず、その場に残った。
車が静かに発進しようとした瞬間、ようやくスーツの男たちが口を開く。
「松本様、先ほどはご無事で何よりでした。あとの行動を敵に感知されないため、車に乗るまでは会話を控えさせていただきました。」
「我々は鳳様直轄の者です。昨夜、あなた方の精神状態が不安定であることを受け、密かに護衛を命じられておりました。こうして無事に立ち直られたこと、心より嬉しく思っております。」
その言葉に、胸の奥がぎゅっと締めつけられる。
……そうだ。昨夜の僕は、完全に自暴自棄だった。
もしあのタイミングで誰かに襲われていたら――柳さんまで巻き添えになっていたかもしれない。
背中に冷たい汗が伝う。
隊長。
僕の身勝手を咎めるどころか、ずっと見守ってくれていたんですね。
……本当に、頭が上がらない。
恩に着ます。
「それで……今どこに向かってるんですか?」
窓の外を流れる景色を眺めながら、僕はぽつりと疑問を口にした。
この道は七星寮へ戻るルートじゃない。
隊長に会わせるって言ってたけど……具体的にどこに行くかなんて、一言も聞いてないんだよな。
ハンドルを握るスーツ姿の男は、振り返ることなく淡々と答えた。
「少し距離があります。天草の方です。」
……天草!?って、そんな遠いの!?
「疲れてるでしょう?少し眠っても構いませんよ。今日はずっとラーメン屋で働いてたそうですし。」
その一言に、僕は少し戸惑いつつも黙って頷いた。
正直、朝からずっと立ちっぱなしで体力は底をついていた。
言われた通り目を閉じてみるが――どうにも眠れない。
車内は妙に静かすぎた。
さっきまで話していたスーツの男たちは、それきり口を閉ざし、まるで外界から遮断された密室のような空気が流れている。
聞こえるのはエンジンの低い唸りと、自分の心臓の鼓動だけ。
重苦しくて、どこか息が詰まりそうだった。
僕はシートに背を預けながら、先ほどのコンビニの一件を思い返す。
もし、あのとき鈴の力と彼女の介入がなければ――
今頃、病院のベッドの上か、最悪「若者、強盗事件に巻き込まれ死亡」なんて新聞の見出しになってたかもしれない。
ふと、自分でも驚くくらい穏やかな気持ちでいることに気づいた。
昨日までの俺なら、こんな目に遭えばパニックを起こしていたはずなのに。
もしかして、あの声のせいだろうか。
「なら、その覚悟、見せてもらいましょうか」
あの瞬間、僕は――逃げなかった。
準備も覚悟もできていたわけじゃない。ただ、逃げるという選択をしなかった。
たったそれだけのことだけど、僕の中では確かに何かが変わった。
……それだけでも、十分じゃないか。
そう思えた自分に、少しだけ救われた気がした。
時はゆっくりと、しかし確実に流れていく。
車は高速道路を降り、人気のない古びた商店街へと滑り込むように停まった。
ドアが開くと、冷たい風が車内に吹き込んできて、思わず小さく震える。
スーツの男は、やはり一言も発さず、手で静かに降りるように示す。
僕は深く息を吸い、胸の奥に残った迷いと恐れをひとまとめにして飲み込む。
叱責されるのか、問い詰められるのか、あるいは――
僕にはまだ想像もつかない「何か」を突きつけられるのかもしれない。
それでも、僕は――
今度こそ、自分の意志で向き合うと決めた。
車を降りたあとは、二人の男たちが無言で目線だけを向けてくる。
そのまま僕を先導するように歩き出すが……その歩幅がどうにもおかしい。
歩く速度はそれほど速くないはずなのに、実際について行こうとすると小走りにならざるを得ない。
彼らが時折立ち止まって後ろを振り返ってくれなければ、とっくに見失っていた自信がある。
商店街の道はやけに整っていて、ゴミひとつ落ちていない。
なのに、こんな昼間に人影はまったくない。
営業している店すら見当たらず、窓越しに整然と並んだ商品たちだけが、かろうじて「ここが商店街だった」ことを物語っている。
誰かが一瞬でこの場所から人々を消し去ったかのような、奇妙な静けさ。
彼らのあとを追って、しばらく歩いたころ。
ようやく、ようやく人影が見えてきたーー隊長が数人の人物たちと何やら話し込んでいる。
その周囲に立つ者たちは、全員が巫女装束に身を包みそれぞれ異なる仮面を顔にかけていた。
狐面、中世のペスト医師のくちばし仮面、般若の面――統一感など微塵もない。
ただ一つ、共通しているのは、いずれも顔全体を隠すようなものばかりだった。
それらの姿から、彼女たちが全員女性であること以外、何も分からない。
隊長の装いもまた、今までとは違っていた。
あのビジュアル系っぽい服でもなく、昨日のスーツでもない。
真っ白なロングコートは裾がふくらはぎまで届き、背中には淡い青糸で刺繍された太陽の紋章。
その中心に、大きく羽を広げた鳳凰の姿――威風堂々という表現がまさにぴったりで、見ているだけで圧倒されるような雰囲気を放っていた。
だが、なにより目を引いたのは彼の両手の指に輝く三つのリングだった。
太陽、三日月、星。
それぞれの象徴が彫られた幅広の指輪には、緑、赤、黄の宝石がそれぞれ嵌め込まれている。
見た目は美しいはずなのに、なぜか得体の知れない不快感が胸の奥をざわつかせた。
「主。」
二人の男が静かに横に控え、隊長が会話を終えたタイミングで歩み寄り、声をかける。
ところが、振り返った隊長は不機嫌そうに眉をひそめ、少し苛立ちを込めた声で問いかけてきた。
「お前らどうしてここに?俺は確かに――」
その言葉は僕の姿を視界に捉えた瞬間、唐突に止まった。
一瞬、信じられないものを見たような表情で固まる隊長が数秒の沈黙ののち、ようやく口を開いた。
「……松本?どうしてお前がここにいる?」
「え?だって、隊長が呼んだんじゃないんですか?」
僕が驚いて振り返ると、例のスーツ二人組がどこか悪戯に成功した子供のような顔でニコニコしている。
「主、アイリス様とのご約束を果たしていただくため、松本様をこちらへお連れしました。」
「それに、我々は彼には知る権利があります。ここへ来る必要も、十分にあると判断しました。」
……え?
なにそれ、なんかすごく大事な話が出てきたんですけど。
えっ、僕、今から何かとんでもないことを聞かされる流れですか?
アイリスと隊長の約束?
知る権利?
あの、僕まだ心の準備できてないんですけど?
「……」ふたりの言葉の意味を理解したのだろう、隊長は珍しく短い沈黙に沈んだ。伏せた睫毛の影にその表情は隠れていたが、わずかに動く指先が、袖口の布地を無意識にいじっていた。まるで、飲み込んだ言葉を心の中で何度も噛み締めているかのように。
場の空気は、微かなためらいと重苦しさを孕み、張りつめたまましばし流れていく。
やがて、隊長は静かに顔を上げた。いつもは燃えるような紅い双眸。その鋭さを宿した光は、今だけは不思議と滲み、どこか抑えられた温度に変わっていた。
「お前さえ望むなら、俺が『普通の生活』に戻れる道を用意してやる。」
それは、静かな、けれど確かな言葉だった。
──そしてその一瞬、僕は見てしまった。
隊長の瞳に、これまで決して見せたことのない、はっきりとした「迷い」が浮かんでいたことを。
なのに――
胸の奥が、ぐっと締めつけられるような重さで満たされていく。
喜び?安心?──いや、違う。
僕の中に湧き上がってきたのは、そんな感情じゃなかった。
このチャンスが、どれほど「魅力的」なものか、痛いほど分かっている。昨日の僕なら、いや、ほんの数時間前の僕なら、何も考えずに飛びついていたはずだ。
それなのに今、この瞬間だけは――どうしても、手が伸ばせなかった。
頭の中に、柳が作った醤油ラーメン、部屋の窓辺で半死半生のまま置かれた多肉植物の鉢、いつもの平凡で優しいあの日常。
何の変哲もない、時に煩わしいとさえ感じていた日々が、今となっては黄金に輝く幻想のように見える。
危険と隣り合わせのこの世界から離れられる。
恐怖に怯えながら眠る必要もない。
仲間が、自分のせいで傷つくのを見なくて済む。
この悪夢のような現実から、「戻れる」チャンスが今、目の前にある。
それなのに――
隊長の眼差しに浮かぶその一筋の「迷い」が、僕の胸の奥を細く鋭く突き刺す。
僕は分かっている、隊長は僕のような普通の人間がこの世界に踏み込むことを、本心では望んでいない。
ここまで僕を守るために、きっと多くの犠牲や対価を払ってきたのだろう。
血縁でも、恩人でもない僕のために、あらゆる上層や敵勢力に対抗してきた。
──お前が自分を信じる限り、俺たちもお前を信じるからさ。
あの日、初めて出会ったときに聞いた、あの真っ直ぐすぎる言葉が、今も耳の奥で反響する。
信じてくれているのか?本当に?
あの公園で怯えて震えていた僕を?
コンビニで無謀に突っ込んで、命を落としかけた俺を?
……それとも、隊長のあの「迷い」は、そんな僕を前にしての、最後の優しさだったのか?
これは、きっと「最後の選択」なのだ。
隊長の信頼をまた裏切るのか、それとも、もう一度、成長しようと足を踏み出すのか。
心の奥の「弱虫な僕」が、今にも鼓膜を破りそうな勢いで喚き散らす。
頷けよ、松本!ここで首を縦に振れば、全部終わる!また絶望するのか?また誰かが傷つくのを見たいのか?あの子の悲劇を、繰り返す気か!? お前にできることなんて、何もないんだよ!
その声は、現実味があって、甘くて、あまりに危険で――
今にも僕の理性ごと、飲み込んでしまいそうだった。
僕の唇は震え、声にならない。
何かを言おうとしても、喉が塞がれたように言葉が出てこない。
まるで何トンもの鎖に縛られたように、僕の体は動かない。
選べない。
「残る」か、「戻る」か。
その間で、僕はただ立ち尽くしていた。
まるで、底の見えない崖の縁に、独りぼっちで立っているかのように.....
僕の葛藤をすべて見透かしたかのように、隊長はほんのわずかに、けれど確かに微笑んだ。それが僕の逡巡に対する理解なのか、それともわずかな安堵なのか——眼差しに、ふっと優しさのようなものが滲んだ。
「俺の仕事は、まだ少しかかりそうだ。お前はもう少し、ここで考えてみるといい。」そう言い残して、隊長はゆっくりと背を向ける。
そして一歩踏み出す寸前、ふと思い出したように振り返らず言い足した。「そうだ。ここを自由に見て回っても構わない。鈴をちゃんと持っていれば、そうそう危ない目には遭わないはずだ。」
……これって、一次面接の合格みたいなものだろうか?
聞きたいことは山ほどあった。
でも、隊長はそれを察したかのように、ふっと空気に溶けるように姿を消してしまった。
残されたのは、まだ答えの出せないまま、迷いの中に立ち尽くす僕ひとり。
けれど——
気がつけば、僕の足は自然とある方向へと動いていた。
まだ心の迷いは晴れないけれど、さっきまで胸の奥を押しつぶしていた重苦しさは、いつの間にか少しだけ軽くなっていた。
そうか……
僕は、まだあの人の「信じるに値する存在」なんだ。
それだけで、少しだけ、前を向けた気がした。
うつむいたまま、誰もいない商店街を一人歩いていた。あまりにも静まり返っていて、まるで世界に自分しか存在しないかのような錯覚に陥る。
服屋の前を通り過ぎたその時、視界の隅に白いものがちらりと映った。
何だ今のは?
白い影は、こちらに気づいたように、ゆっくりと近づいてくる。女の人だ。
血の気のない顔、そして、まるで静止した水面のように沈んだ瞳。その奥には光も届かず、ただ静かに、深く、死の気配だけが沈殿している。
僕は一瞬で分かった、相手の正体を。
「……見えるの?」
「み、見えませんけど!?見えませんからぁっ!!」
なんで隊長、こんな大事なことを先に教えてくれなかったんだよ!?
「見えてるじゃない!」
「見えてないってば!こっち来んなああああ!!」
なんで昼間っから幽霊に追いかけられてんの僕は!?
彼女は大きく口を開け、悲鳴のような絶叫をあげながら、こちらに突進してきた。僕は一言も発せず、反射的に全力で逃げ出した。
「この世の薄情な男はみんな死ねばいいのよ!」
この定番の怨念セリフを聞くだけで、だいたい死因が察せられる。でも問題は――僕、そもそも彼女なんていたことないんですけど!?なんで僕がその報いを受けるんだよ!
「へいっ!」走りながらふと思い出した。そういえば、僕、鈴を持ってたじゃん!とっさに立ち止まり、振り返って鈴を前に突き出す。
案の定、彼女は鈴の異様さに気づいたのか、ぴたりと動きを止めた。
「ええと……恨みには筋があるって言うでしょ?君を捨てたその男を探しに行くべきじゃない?」僕は慎重に、まるでテレビドラマのセリフみたいな台詞を口にした。
「……あいつ……どこにいるの……」
彼女はどこか上の空のように呟く。その声は空虚で、聞いているだけで鳥肌が立つ。
その様子は、今やただの幽霊というより、精神が壊れた人間に見えてきた。俺はゴクリと唾を飲み込み、そっと二歩後退する。今は攻撃してくる気配はないけど、油断は禁物だ。
「……あの男……私を騙して、妊娠させて、結局……殺したの……」
――それ、警察に言いなよ!?
僕の頭の中では、彼女の人生ドラマが自動再生されていた。
「まさかさ、そいつって君から金を巻き上げた後、金持ちな女の子と結婚したりしてないよな?」
「なんで知ってるの!?」今度は彼女の方が驚いた顔をした。
「テレビドラマってだいたいそんな感じだし。」
どう考えても、こういう情念系の幽霊は僕の手に負えない。なので僕は、なんとか話を切り上げようとした。「じゃあ……ご武運を。復讐、頑張ってください。」
言い終わるが早いか、僕はくるりと背を向けて逃げ出した。
が――振り返ると、うわっ!
まだ追ってきてる!!
「待ちなさいよ!」彼女の叫び声とともに、次の瞬間、目の前に現れた。「誰も……私の話を聞いてくれないの……」
正直、僕も聞きたくないです。
「その……夢に出てご家族に訴えてみたら?家族なら、きっと話を聞いてくれると思うし……」
僕、なんで真っ昼間から幽霊と人生相談してんの?
「……言えないの……」
彼女はその場に座り込み、顔を手で覆って泣き出した。「家族の反対を押し切って、あの人について行ったのに……まさか、裏切られるなんて……」
「私の貯金を全部騙し取って、家族とも縁を切らせて……なのに……」
「じゃあさ、警察に夢で訴えかけてみない?そしたらそいつ、ちゃんと裁かれるかもしれないよ?」
「死ねばいいのよあの男なんか!!牢屋なんて甘すぎる!!」
彼女の怒りの咆哮と同時に、周囲の気温が一気に下がった。足元が凍りつきそうなほどだ。
──あ、これ、完全に地雷踏んだ。
女の幽霊は突如として発狂したようにこちらに突っ込んできて、怒鳴り声を上げた。
「このクソ男ども、みんな呪ってやるわ!安らかになんてさせないから!」
逆立った髪、血の気が完全に引いた顔は青黒く染まり、その姿はまさに怨霊そのものだった。
バンッ、バンッ、バンッ!!
彼女が突進してくると同時に、鈴が自動的に防御壁を展開したが、彼女はまったく怯む様子もなく、狂ったように両手でバリアを叩き続けた。
触れるたびに、電撃のような閃光が弾ける。それでも彼女は構わず叩き続け、すでに焼け焦げた手のひらからは黒煙が上がっていた。
彼女の瞳から、怒りと憎しみ、無念、そしてほんの僅かな「助けて」の感情が、まっすぐにこちらへと突き刺さってくる。
なぜか、その瞬間——
彼女の姿が、あの子と重なって見えた。
顔も、性格も、境遇もまるで違うはずなのに。
「助けたい」
そんな思いがふと胸に浮かんだ。
それは罪滅ぼしのつもりかもしれない。
あるいはただの自己満足かもしれない。
けれど——
今度こそ、僕はただ黙って見ているだけの人間にはなりたくなかった。
まだ覚悟ができたとは言えない。でも――少なくとも、今回は背を向けなかった。
「B地区、目標確認。俺が処理する。後はお前らが後始末を頼む。」背後から聞こえたのは、隊長の少し嬉しいそうな声だった。「……やっと、ちょっとは見所出てきたじゃねぇか。」