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革新のゴーレムβ

作者: ピモラス

「革新のゴーレム」は、現代技術と古代魔法の狭間に生きる一人の職人、リチャードの物語です。彼はアンドロイド職人としてのキャリアを築く中で、無機質な機械に嫌悪感を抱きながらも、収入のために技術を磨き続けていました。しかし、ある革新的なAIとの出会いが彼の運命を変えます。魔法とテクノロジーの融合が生む新たな存在「ゴーレム」との対峙が、リチャードの信念と人間性を揺さぶります。

 リチャード・ハリソンは、現代より少し先の未来に生きるアンドロイド職人であった。

彼の仕事は、AIを搭載したアンドロイドを製作し、受付や秘書として活用することがスタンダードとなりつつある社会で、クライアントの要望に応じたアンドロイドを作り出すことだった。

だが、彼の心の奥底には、ファンタジー世界のゴーレムに対する憧れが眠っていた。

 リチャードの工房は、最新鋭の機械と工具で満ちている。

白熱灯が無機質な空間を照らし、アンドロイドの部品や設計図が散乱する中、彼は深夜まで作業に没頭していた。彼の目は、微細なパーツに焦点を合わせながらも、どこか遠くの幻想に思いを馳せているようだった。

彼の外見は、年齢とともに経験と疲労を感じさせる中年の男性であった。短く刈り込まれた髪、皺の刻まれた額、そして酒臭さを漂わせる口元が、彼のプライベートな一面を物語っていた。仕事の合間に一杯の酒でストレスを紛らわせながら、彼は日々のルーチンに囚われていた。

 アンドロイドの製作を終えたリチャードは、アンドロイドのプログラムをテストするために、再度操作パネルに向かっていた。その時、彼の目に留まったのは、最近発表された革新AI技術についてのニュースだった。技術者としての好奇心が刺激され、彼はその詳細な内容に興味を持った。

「新たなAI技術か…」

リチャードは呟いた。画面に映し出された情報をスクロールしながら、彼の心は次第にその技術に惹かれていった。

特に、「魔法陣のような図面とゴーレム設計図を生成する」機能が、彼の心を捉えた。夢に見たゴーレムの姿が、現実に近づくかもしれないという希望を抱かせた。

夜が深まる中、リチャードはその技術に基づいて、試作を始めることを決意した。彼の工房の一角には、古びたレンガが積まれていた。ゴーレムの材料として選んだそれは、まさに彼が長年夢見たものの一部だった。手に取るその質感に、彼は思わず笑みを浮かべた。

「さて、これが動くかどうか、確かめてみようか」

リチャードは自分に言い聞かせるように呟いた。

彼の手が動き、レンガが組み立てられ、魔法陣の設計図が元にゴーレムが形作られていく。最初の試みでは、そのゴーレムはただの塊にしか見えなかったが、試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ命を吹き込むような感覚を味わっていた。

深夜の工房で、リチャードの顔には希望と不安が入り混じった表情が浮かんでいた。この小さな一歩が、彼の人生を大きく変えるかもしれないという期待と、未知の技術に対する恐れが、彼の心を支配していた。

 リチャードの工房での夜は深まり、彼のゴーレムの設計とテストは続いていた。彼が作り上げたレンガのゴーレムは、初めは不安定であったが、ついに動き出した瞬間、リチャードの心は歓喜と興奮でいっぱいになった。彼が長年夢見てきたゴーレムが、ついに現実のものとなったのだ。

しかし、ゴーレムの性能を確認するためには、より実践的なテストが必要だとリチャードは考えた。

彼はゴーレムの動作を確認するため、少し過激な方法を選ぶことに決めた。リチャードはゴーレムに命令を与え、自分の住む街の一角に向かわせる。目標は、通り魔事件のように無作為に対象を選び、その性能を試すことだった。

ゴーレムが街に現れると、その姿に驚いた市民たちは一斉に逃げ惑った。リチャードは無線でゴーレムに指示を送り、目の前に現れる人々に対して攻撃を仕掛けさせた。彼は遠くからその様子を見守り、ゴーレムの動きと反応を逐一確認していた。

しかし、リチャードの計画は思い通りにいかなかった。ゴーレムは予想以上に攻撃的で、周囲の建物や車両にまで被害を及ぼす事態になってしまった。

目の前に現れた一人の武闘派の男が、ゴーレムと対峙し、激しい戦闘が繰り広げられた。男の高い格闘技術とゴーレムの力がぶつかり合い、ついにはゴーレムが大破してしまう。

リチャードはこの結果に驚きと失望を覚えた。ゴーレムが大破したことで、自分の設計に何か問題があったのではないかと不安に駆られる。だが、それよりも自分が何をしてしまったのかという罪悪感が心に重くのしかかった。街に被害を与えたことを理解しつつも、リチャードは再びゴーレムを改良し、次のテストに備える決意を固めた。

 帰宅後、リチャードは自分の行動を振り返りながら、アンドロイド「アリス」に相談することにした。アリスは画面上で彼に穏やかに話しかけ、ゴーレムのサイズや素材に関する助言を提供してくれた。リチャードはアリスの提案を取り入れ、コンクリートブロックや自然石、軽量型のプラスチック素材を使った新たなゴーレムを作成することを決めた。

試行錯誤を繰り返しながらも、ゴーレムの性能を向上させるための努力を続けるリチャード。

しかし、彼の心には常に「一般人を襲った?」という疑問が残り、自分が行った行動に対する罪悪感と戦っていた。

 リチャードは夜通しで作業を続け、新しいゴーレムの改良に取り組んでいた。色々な素材を使って、いくつかの異なるバージョンのゴーレムを試作するものの、どれも思ったようには動かない。これまでのテストで得た経験を生かし、リチャードはゴーレムの性能を最大限に引き出すために、さらに細かい調整を加え続けた。

その傍らで、アンドロイド「アリス」はリチャードの作業を見守りながら、彼に対して様々なアドバイスを提供していた。アリスのアドバイスは、常に理知的で冷静だったが、リチャードの焦りが伝わってくると、より具体的で実践的な助言をしてくれる。

「リチャード、材料の選択についてですが、異なる素材を組み合わせることで、ゴーレムの耐久性を向上させることができます」

アリスの画面上での表情が変わり、アドバイスが続く。

「素材の組み合わせか...なるほど」

リチャードはアリスの提案を受け入れ、再び試作を繰り返すことに決めた。

数日後、リチャードは新たなゴーレムを完成させるが、試作段階で一つの問題に直面する。それは、「一体のゴーレムしか動かせない」という制約だった。この制約により、複数のゴーレムを同時に使用することは不可能であり、リチャードは再び頭を悩ませることになった。

その試作段階で、リチャードはゴーレムの戦闘風景をイメージし、戦闘のシミュレーションを行った。ゴーレムが激しい戦闘を繰り広げる様子を想像する中で、ふと自分の過去の行動を思い出す。

「人を襲った?私が?」

リチャードは自分が過去に行った通り魔事件のことを思い出し、その行動に対して少し驚きと罪悪感を覚える。自分の欲望と好奇心が、他者に対してどれだけの影響を与えたのかを考え始める。

それでも、リチャードの欲求と好奇心は強く、再びゴーレムの改良とテストを続ける決意を固める。彼は自分の作り出したゴーレムが持つ潜在能力を最大限に引き出し、さらなる進化を遂げさせるために、試行錯誤を続けるのだった。


 リチャードは自らの内部に潜む欲望と好奇心に従い、新たなゴーレムの戦闘力を試すため、再度の襲撃を企てることに決めた。前回の失敗を糧にした新しい計画では、より強力な金属製のゴーレムを用い、反社会的な人々が集まる場所をターゲットにすることにした。

その夜、リチャードは新しいゴーレムを搭載したトラックを慎重に運転し、指定された場所へと向かった。街に到着すると、彼はゴーレムを操縦し、冷酷に指定された場所へと向かわせる。目の前に現れたゴーレムは、その重厚な金属の装甲と強大な武装で、周囲の人々に恐怖を与えた。ゴーレムは人々に襲いかかり、その強力な打撃と武器で次々と敵を排除していった。

リチャードは自分の手元でゴーレムの動きを操作しながら、その成果に満足感を感じていた。しかし、同時にその冷徹な行動に対する自己嫌悪も抱えていた。ゴーレムの暴力が生む破壊と混乱の中で、リチャードの心は引き裂かれる思いに駆られていた。「こんなことをして、何が得られるのか…」と自問しながらも、明確な答えを見つけることができなかった。

戦闘が終わると、リチャードはゴーレムの性能に満足し、次の段階として戦闘アンドロイドの作成を決意する。彼はコストがかかるこのプロジェクトに取り組むため、会社の資金を横領し、高性能な戦闘アンドロイドを数体作成することに成功する。これらのアンドロイドは、リチャードのゴーレムと対等に戦えるように設計されており、期待に応える性能を持っていた。また、ゴーレムのさらなるアップデートのために必要なレアメタルを手に入れるため、リチャードは再度横領を繰り返し、プロジェクトに必要な資源を確保した。

しかし、リチャードの計画には予期しないトラブルが待ち受けていた。戦闘アンドロイドが何かの手違いで顧客に販売されてしまい、リチャードが不在の間に出荷されてしまった。アリスから連絡を受け、メディアで「殺人アンドロイド事件」が報じられていることを知ったリチャードは、焦りと恐怖に駆られ、自分の作ったアンドロイドが引き起こした事件の深刻さを理解する。

殺人アンドロイドはその高性能な能力を駆使し、警察や機動隊の制圧部隊と応戦するが、物量に負けて大破してしまう。破壊されたアンドロイドからはリチャードの会社が捜査線上に上がり、調査が入る。戦闘アンドロイドの不正販売や、リチャードによる資金横領の事実が次第に明らかになり、彼の罪はさらに深刻なものとなっていった。


 完全に倫理的な境界を越えてしまった自分自身に気づきつつも、後戻りできない状況に追い込まれていたリチャードは、ゴーレムを最強の兵器として完成させ、警察との対決に備えるしか道が残されていないと感じていた。警察の捜査が進む中、リチャードはアリスと共にゴーレムの最終調整を進め、全力でその戦闘力を最大限に引き出すことに集中していた。アリスは冷静に、最適な素材や設計に関する提案をし続けるが、リチャードの焦りと不安は隠しきれない。彼は警察との最終的な衝突を予期し、その結果がどうなろうとも、すでに決して後には引けないことを理解していた。


 警察の包囲網が狭まる中、リチャードは最強のゴーレムを完成させ、決戦の準備を整えた。そしてその時が来た。彼の工房に突入しようとする特殊部隊が周囲を包囲し、リチャードはゴーレムを起動させて対抗することを決断した。

工房の外で、警察の部隊とリチャードのゴーレムが激しくぶつかり合った。ゴーレムは驚異的な力を発揮し、警察の装備では歯が立たないほどの耐久性と破壊力を誇っていた。リチャードは遠隔操作でゴーレムを操りながら、その力に圧倒される警察の姿を見つめていた。しかし、その瞬間、リチャードの心に突如として湧き上がる思いがあった。自分は何をしているのか?自らが作り出したものが、これほどまでに人々を傷つけ、恐怖に陥れることになるとは考えてもいなかった。だが、すでに多くの罪を犯し、後戻りすることはできなかった。



 最終的に、リチャードは自らのゴーレムが警察に破壊される瞬間を目の当たりにする。ゴーレムが倒れると同時に、彼の中で何かが壊れたように感じた。警察がリチャードの元に突入し、彼を拘束した時、リチャードは全てが終わったことを悟った。

その後、リチャードは法廷で裁かれ、自らの行動とその結果に向き合うこととなった。

彼はもはや、ゴーレムやアンドロイドという技術の限界を超えた存在に対する憧れに囚われることはなくなった。彼の夢は、破壊的な現実の中で消え去ったのだ。


 彼のように、好奇心や欲望に突き動かされるあまり、人間性を見失ってしまうことが、未来の技術者たちへの警鐘として残るのかもしれない。

一話読み切りの短編です。

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