表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/20

第七話 近づく距離

 次の日の昼の食堂。

私はエリックに呼ばれて厨房に入った。


「昨日、何人かの騎士たちがサラさんのまかないご飯を食べさせてくれって食堂に来たんだ。なんでも執事見習いのレンくんから聞いたとかなんとか言ってたけど」


 私は、この間の出来事を思い出した。

豆腐のお味噌汁を作って、ご飯を炊いて……。

そこにレンが入ってきたのだ。


「あ、この間夕飯をここで作ったんです。この国に来る前に住んでいたところでよく食べていた料理なんです」


 (料理っていうほどじゃないけど!)


 私の話にエリックは興味を持ったらしく、それを作ってくれと言う。


「わかりました。ちょっと厨房の隅を使わせてもらいます」


 私は、厨房の隅でこの間の手順で調理をした。

そして、出来上がったご飯とお味噌汁をエリックに差し出す。


「わぁ、初めて見る料理だよ! 食べてもいいかな?」

「こんなものでよければどうぞ」


 私は、照れながらエリックにうなづいた。


「いただきます!」


 エリックは、料理人らしく細かく観察しながらご飯とお味噌汁を食べている。


「うん、美味しかった! ごちそうさま」


 エリックが食べ終わったところで、ソフィアが私たちのところに様子を見にやってきた。


「どうだい? エリック。ここの食堂で出せそうかい?」

「そうですね。味が濃いものばかりなのでこういうあっさりしたものもいいと思います」

「そうかい。じゃあサラ、明日からこのメニューを増やすから調理を手伝っておくれ」


 ソフィアは、私のほうを見るとそう告げた。


「え? あ、はい。それは構いませんけど」


 私が戸惑うのもお構いなしに、ソフィアは話を続ける。


「これ以外にも何品か作れるなら頼むよ」


 こうして私は、厨房の料理人としての仕事も任されることになったのだった__。


           ☆


 昨日買ったペチュニアのブーケを持って、キースの夕食を届けにいく。

部屋に入ると、キースは私のほうを向いた。

今日は読書をしていないようだ。

キースは私の手元にあるブーケを見つめ、興味深そうに尋ねた。


「それは何という花なんだ?」

「これはペチュニアという花なんです。『心のやすらぎ』という意味があるんですよ」


 私は黄色いバラを一輪挿しから取り出し、代わりにペチュニアのブーケをそこに挿してテーブルに置いた。


「『心のやすらぎ』か。では、黄色いバラにも意味があるのか?」

「あ、えっと、その、」


 (『友情』なんて言ったら引かれるかも。どうしよう)


「わからないのか?」


 キースが残念そうに私を見る。

そんなキースの顔を見て、私は思い切って花の意味を告げた。


「『友情』です! ごめんなさい! 私、キース様ともっと仲良くなりたくて!!!」

「は? ふっ」


 早口でまくし立てる私を、あっけにとられながら見たキースが思わず吹き出す。


 (あ、笑った……)


 私は、恥ずかしくて真っ赤になりながらもキースが笑ってくれたことがすごく嬉しかった。


「お前、夕食はもう食べたのか?」

「あ、いえ、まだです」

「じゃあここで食べていけばいい」

「え?」


 (今、ここでって言った? 一緒に?)


 意外な言葉を言われて少し困惑をする。


「どうした? 嫌なのか?」

「い、いえ、嫌だなんてとんでもないです。ご一緒します!!!」


 私は、緊張しながらもキースの前の席に座る。

そんなぎこちない私たちに、テーブルの真ん中にあるペチュニアの花はやすらぎを与えてくれるように可憐に咲いているのだった__。


           ☆


 レンは、執事見習いの仕事を終えると自分の部屋に戻っていた。

その途中、サラがキースの部屋から出てくるところを見かけた。


 (あれ、サラじゃないか。キース様の部屋から出てきたけど知り合いなのか?)


 レンはキースとは接点がない。

噂に聞いたのは、キースが極度の偏食だということだけだ。

レンにふと考えが浮かんだ。


 (サラにキース様との仲を取り持ってもらえば、早く執事になれるんじゃないか?)


 自分では頑張っているつもりでも、なかなか執事になれないことにレンは焦っていた。

王子直々の推薦があれば、上の連中も口は出せないだろう。


「俺にも運が巡ってきたんじゃないか?」


 レンはそうつぶやきながら、自分の部屋へ鼻歌混じりで戻っていくのだった__。




読んでいただきありがとうございます。

感想・コメント・ブックマークなど

よろしくお願いいたします!


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ