第十八話 キャサリンの執着①
キースが席を立った後、キャサリンは怒りに震えていた。
(この私がこんな目に遭うなんて! でも近くで見たら本当に綺麗な方だったわ、キース様……絶対にあきらめないから!)
サザーランドに滞在する時間は残り少ない。
その間になんとかしないといけない。
キャサリンはすぐに立ち上がり、父親であるイーストン国王の元に向かった。
「お父様。少しサザーランド城の中を見てくるわ!」
「キース王子と行くのかい?」
「え? ええ……そうなの! キース様に案内していただくわ」
(結婚を断られたなんて絶対言えないわ)
キャサリンはそれだけを言うと、足早に大広間を後にした。
(キース様の部屋はどこかしら)
次の日も、キャサリンは城の中を歩き回っていた。
昨日の夜は、キースの部屋を見つけることが出来なかったのだ。
(悔しいけど、うちの城より大きいのよね)
その時、目についた城の使用人にキャサリンは声をかけた。
「ちょっと。キース様のお部屋はどこかしら? 案内してくれない?」
「はい?」
声をかけられたレンは、訝しげにキャサリンの顔を見た。
「失礼ですが、貴方様は?」
「あなた、私を知らないの? 信じられないわ! 私はイーストン王国のキャサリンよ!」
(これがキャサリン姫?!)
レンは、キャサリンがキースのお見合い相手だと聞いたばかりだった。
「これは失礼いたしました」
頭を下げるレンに、キャサリンはイラついて言った。
「もういいわ! 他の者に聞くから!」
そう言って、キャサリンはレンの前をスタスタ歩いて行ってしまう。
「なんなんだよ、あの姫。それにしても、あれがキース様のお見合い相手なんてな……」
キャサリンが歩いていく姿を目で追いながら、考えるような仕草でレンはつぶやいた。
「全く! なんなのよ、あの失礼な使用人! 気分が悪いわ!」
キャサリンは怒りながら再び城を歩いていると、料理のワゴンを運んでいる料理人を見つけた。
料理人は、料理をある部屋の前まで運ぶと部屋の中に声をかけた。
「キース様、失礼いたします」
(キース様?)
キャサリンは、聞き耳を立ててその様子を見ていた。
そして、まわりに誰もいないことを確認すると、キースの部屋のドアに耳を押し当てた。
「私、キース様のことが好きです」
キャサリンが、ドアにしばらく耳を当てていると部屋の中の声がはっきり聞こえてきた。
(は? なんですって?)
キャサリンは、咄嗟にドアをノックした。
「キース様! キャサリンです! 中に入ってもいいかしら?」
キャサリンが少し大きめの声でキースを呼ぶと、中からキースが困惑した顔で出てきた。
「キャサリン姫。いかがなされましたか?」
「こんばんは、キース様。急に来てしまってごめんなさい。実は一緒に夕食でも、と思いまして」
そう言いながらキャサリンは、キースの部屋を隅々まで覗いた。
テーブルには二人分の料理が並んでおり、部屋の隅に女料理人が立っている。
(この女ね! さっきキース様に告白していたのは! 料理人の分際で!!!)
「まぁ! 美味しそうなお料理ですこと! 私もご一緒させていただいても?」
キースがサラの顔を見ると、サラはうなづいた。
「お口に合うかわかりませんが、よろしければどうぞお座りください」
「お優しいのね。ありがとう」
(ふん。この女が作った料理なんて食べたくないけど、仕方ないわ)
キャサリンは二人の間に座ると、サラが作った料理を眺める。
(見たことがない料理ばかりだわ……)
そう思いながら、料理を思い切って口の中に放り込んだ。
(んっ? 何よこれ、美味しいじゃない)
そして、見事に料理を完食してしまった。
(いけない。私としたことが!)
キャサリンは、自分を見ている二人に咳払いをしてから話しかけた。
「こほん。すごく美味しくて、つい食べるのに夢中になってしまってお恥ずかしいわ。あなたの名前を教えていただいても?」
「サラと申します」
「サラさんね、よく覚えておくわ」
(絶対忘れないわよ!)
「キース様、今度はイーストン王国に遊びに来てほしいわ。お父様もあなたのことを気に入ってるし、きっと私たちいい夫婦になれると思うの」
キャサリンは、一方的にキースに話しかけた後、席から立ち上がった。
「では、今日はこれで失礼いたしますキース様。サラさんもまたね」
(二度とここにいられなくしてあげるから、待ってなさい!)
「では、ごきげんよう!」
キャサリンはドレスをひるがえし、優雅にキースの部屋から外に出る。
(サラ、ね。さて、どんな目にあわせてあげようかしら……)
意地悪な笑みを浮かべながら、キャサリンはその場を後にしたのだった__。
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