第十五話 すれ違うふたり
「どこに行くんだ? キース」
サザーランド国王が、席を外そうとしたキースを呼び止める。
「父上……」
キースは背筋を伸ばし、サザーランド国王に軽く頭を下げた。
「今日はこれから私と一緒に同行してもらう。ついてこい」
「父上、これからどちらかへ行かれるのですか?」
「お見合いだよ。お前の」
サザーランド国王は笑顔でキースの顔を見た。
「は? お見合いですか? 私の?」
「そうだ。イーストン王国のキャサリン姫とお見合いしてもらう」
(なんだって?)
キースは、突然のことに戸惑った。
「ヘンリーもグレゴリーも婚約が決まっている。あとはお前だけじゃないか」
「それは、そうですが……」
キースが兄たちのほうを見ると、兄たちはキースから目を逸らした。
(くっ。兄さんたちは知っていたのか)
自分だけが何も知らされていなかったことに怒りがわく。
「さあ、イーストン国王とキャサリン姫がお待ちだ。行くぞ」
サザーランド国王はそう言うとマントをひるがえし、側近たちを引き連れて先を歩いていってしまう。
キースは、ただその後をついて行くしかなかった……。
☆
私は、再びベッドに横になったものの、キースのことばかり考えてしまっていた。
何かしていないと落ち着かない。
その時ふと、ステラの笑顔を思い出した。
「そうだ、ステラさんのお花屋さんに行ってみよう」
私はすぐに身支度をすると、ステラの花屋に向かった。
「こんばんは……」
誰もいない花屋の店内に、私は小声で挨拶をする。
(もう夜も遅いし、店じまいかな?)
そう思いながらお城に帰ろうとすると、私を呼び止める声が聞こえた。
「あー、ちょっと待ってサラさん」
私が店内をもう一度見ると、そこにステラが現れた。
「ごめんね。今から遅い夕食を食べようと思ってたんだ」
ステラが申し訳なさそうに私に言った。
「私のほうこそ、こんな時間に来てしまってすみません。夕食の邪魔までしてしまって……」
「いいんだよ。それより、どうかな? 一緒に夕食を食べていかないかい?」
これ以上、ステラに迷惑はかけられない。
グ〜〜〜
しかし、私のお腹の音が私を引きとめる。
(こんな時に!)
「ごめんなさい! 今日何も食べてなくて!」
「良かった! たくさん作ってしまってね。サラさんが食べてくれると助かるんだ」
ステラが優しい笑顔で私に微笑みかけた。
「ありがとうございます。じゃあご一緒させていただきます」
私は、恥ずかしさで少し下を向きながらステラの店に入ったのだった__。
☆
パーティーが行われている大広間からは、来賓たちの歓談やオーケストラの演奏が警備中のカインたちにも聞こえてくる。
こんな盛大なパーティーはいつぶりだろうか。
国のために、我々騎士団が厳重に警備をしなければならない。
カインは気持ちを引き締めながら城を眺める。
「なぁ、カイン。お前、キース様とは幼馴染なんだろ?」
すると、隣で警備をしている騎士仲間がカインに話しかけてきた。
「あぁ、そうだが、それがどうした?」
「さっき大広間から出てきたメイドの子から聞いたんだけど、キース様、お見合いするらしいぜ」
「は? お見合い?」
そんな話はキースから全く聞いていなかった。
「イーストン王国のキャサリン姫だってさ。いいよなぁ、美男美女で」
「不謹慎なことを言うな。誰が聞いているかわからないんだぞ」
カインは仲間の騎士を諭すと、再び警備をしながら考えていた。
(キースがお見合いだと? どういうことだ)
ここ最近、第一王子のヘンリーが婚約。
それに続き、第二王子のグレゴリーも隣国であるノルディー王国の姫君と婚約をしたばかりだ。
(隣国と手を結び、サザーランドを確固たる国にしようとする国王陛下のお考えはわかるが……)
その時、カインはふと思い出した。
(サラはこのことは知っているのだろうか)
「少し城の周りの様子を見てくる」
カインはそう仲間の騎士に言うと、サラの部屋に向かうのだった__。
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