第十一話 変化する想い
朝の日の光が、カーテンの隙間から差し込む。
キースはまどろみの中、ゆっくりと目を覚ました。
最近、サラの料理のおかげかよく眠れるようになった。
ベッドに寝そべったまま横を見ると、ガーベラの花たちが今日も綺麗な姿を見せてくれている。
(早く目が覚めたし、少し散歩でもするか)
そう考えたキースは、ベッドから降り身支度を始めた。
城を出たキースは、目的地を特に気にせずに歩き出した。
海から吹く優しい潮風が、城下へ続く道を歩くキースを後押しするように流れていく。
こんなに自然の美しさを感じたのはいつぶりだろうか。
公務で外に出ることは多いが、仕事に追われてそんなことを感じる余裕すらなかった。
偏食を理由に、仕事以外で人と極力接しないようにしており、その分仕事では絶対手を抜きたくなかったのだ。
しかし、サラがキースの前に現れてから少しずつ自分が変わっていくのを感じていた。
(本当におかしな奴だ。俺に意見する女は初めてだ)
毎日のサラの行動を思い出し、思わず笑みがこぼれる。
そんなことを考えながらのんびり歩いていると、見慣れた姿が少し遠くに見えた。
(あれは……)
キースは、その姿に近づくためにそちらへ向かった。
「ここは厨房につながる扉か」
キースは、厨房の窓から中を覗く。
そこには先程見た見慣れた姿、サラの姿があった。
厨房は朝の時間、昼食の仕込みを大人数で行なっている。
サラは、洗い上がったジャガイモの皮をむく作業をしているようだ。
ふと、前にサラから言われた言葉を思い出した。
『厨房の料理人たちは、毎日キース様のために一生懸命料理を作っているんです』
言われた時は特に何も感じることはなかった言葉だが、忙しなく動き回っている料理人たちや、作業をしているサラの姿を目の当たりにすると少し心が痛む気がした。
キースは、複雑な気持ちで厨房の様子を見つめる。
その時、誰かが話しながらこちらに来る気配がしたため、キースはもう一度サラの姿を見てその場を後にしたのだった__。
☆
私は、皮をむいたジャガイモを見ながら考えていた。
(今日の夕食、肉じゃがを作ろうかな? それともコロッケがいいかな?)
キースに新しい料理を紹介することが楽しくて、ウキウキしてしまう。
そんなことを考えながら、大量のジャガイモの皮をむき終わった。
「終わった〜!」
ジャガイモを調理台へ運ぼうと、ふと窓のほうを見る。
(ん? 誰かいたような)
誰かに見つめられていた気配がしたが、すぐに気を取り直して私は調理台へ急いだ。
私がジャガイモを調理台に乗せると、そこではソフィアが何やら料理人たちと話をしていた。
「なんとかならないのかい? 代わりに作れるものはないのかねぇ」
「今日はビシソワーズを作るつもりでいたからねぇ。牛乳が届かないことにはどうしようもないよ。代わりのジャガイモ料理っていっても、今からじゃ時間が掛かるものは作れないし……」
私はその会話を聞き、さっき考えていたことを思い出した。
「あの」
「なんだい? サラ」
「コロッケ、なんていかがですか?」
「コロッケ? なんだいそりゃ」
ソフィアが怪訝そうな顔をする。
「簡単に出来るジャガイモ料理なんです」
私は、作り方を料理人たちに教えた。
「それならすぐ出来そうだ」
料理人たちはそう言うと、すぐさまコロッケ作りに取り掛かった。
揚げたてのコロッケがお皿に盛り付けられる。
(うわ〜揚げたてって美味しいんだよねぇ)
私が揚げたてのコロッケを見てニコニコしていると、向こうからソフィアがやってきた。
「このコロッケだが、騎士たちに好評だったらメニューに追加しようと思ってるよ」
「そうなんですか! みなさん喜んでくれるといいなぁ」
私は、少しずつ食堂に集まり始めた騎士たちを見ながら、新しい料理を気に入ってくれますようにとドキドキしながらみんなの反応を厨房の中から見守っていたのだった__。
☆
数日後、カインはサラから相談を受けていた。
「キース様が、私がよく行くお花屋さんに一緒に行きたいらしいんです」
「え? キースが花屋に?」
プッ
思わず吹き出す。
「あいつ、いつから花好きになったんだ?」
キースの変化に、カインは驚きを隠せない。
「でも、勝手に外出は出来ないですよね?」
「そうだな。王子が護衛もつけずに外を出歩くのはよろしくない」
カインがそう言うと、サラは悲しそうな顔をする。
そんなサラを見て、カインは笑顔でサラの肩に手を置いた。
「大丈夫だ。俺が護衛する」
「いいんですか?」
「ああ。問題ない」
(キースのために、俺も人肌脱ぐか)
いい方向に変わっていくキースを嬉しく思いながら、カインはサラに笑顔でうなづいたのだった__。
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