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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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マーレとネルが欠伸を噛みしめる夜。慌てた様子で

 マーレとネルが欠伸を噛みしめる夜。慌てた様子でフィーネがギルドに飛び込んできた。

 肩で息をする彼女はカウンターまで来ると慌てた様子で叫ぶ。

 

 「マーレ、ネル!クラリスを見なかった!?」

 「クラリスって……朝のあの子?見てないよねマーレ姉?」

 「え?ええ、そうね。ギルドには来てないと思うわよ」

 

 そう、とフィーネは焦った様子で考えこむ。

 ここまで慌てた様子のフィーネを見るのは珍しいと、姉妹はフィーネを伺う。

 

 「クラリスさんをお探しですか?それなら手配した宿とかにいませんか?」

 「宿にはさっき行ったわ。お昼過ぎまでクラリスとは一緒にいたのだけど、宿は狭いから私たちの家に来ないかって誘ったの。ほら、私たち『緑の刃』が借りてる一軒家ならまだ部屋が余ってるじゃない?そうしたらクラリス、用事を済ませてから行きますって。でもまだ来ないのよ」

 「まだ来ないって……もう夜の十時ですよ?宿に——って、それはいないんでしたね。じゃあどこに?」

 「だから探しているんじゃない。エルも街中を探してもらっているわ」

 

 時間が惜しいのか、フィーネがきびすを返してギルドから出ようとするのをマーレが止める。

 

 「ちょ、ちょっとフィーネ少しは落ち着きなさいよ。貴女らしくない。普段のフィーネならもっと頭を使うはずよ」

 「マーレ、言っていることは正しいんだけど……結局考えるのは私よね?」

 「そ、そんなことないわよ」

 

 とはいえマーレに何も考えない事は図星である。

 それでも中継都市アーライでは迷子も多い。それゆえギルドにはしょっちゅう迷子の捜索依頼が駆け込んでくるし、だいたいの対策は知っている。

 

 「まずは、クラリスさんと別れる直前を思い出して。彼女は何かに興味を持っていなかったかしら」

 「マーレ、いくら何でも幼児の迷子じゃないのよ?そんな直情的にクラリスが動くとでも——あ」

 

 ぽんっ、とクラリスが何かを思い出したように手を打った。

 

 「——っ!なんで気づかなかったの私っ!」

 「ちょちょちょーっと待った!」

 

 今度こそをギルドを飛び出そうとする彼女をネルがカウンターから身を乗り出して掴みとめる。

 

 「フィーネさん落ち着いて!一人よりも二人、二人よりも三人です。迷子は数が勝負です!私たちも手伝いますから、状況を教えてください!」

 「あ、ありがとう。ごめんなさい、取り乱して」

 

 マーレは直ぐに紙とペンを取り出し、ネルは余所行き様にコートを羽織る。春から夏に向かう季節とは言え、夜はまだ冷えるのだ。それにコートには冒険者ギルドのマークが入っており、何かあった時も一目で身分が分かるものとなっている。

 

 「お昼にクラリスと一緒に歩いていた時なんだけど、山賊に捕まっていた洞窟に彼女、とても大切なものを落としてきたというの。家を出る時に父親からもらった大切なものだと聞いたわ。けど今あの洞窟に戻るのは、山賊は根絶やしにしたけどサイクロプスが出た森を抜ける必要があるから、諦めるしかないって言い聞かせたの」

 「まさか、クラリスが一人で洞窟に?流石にそれは考えられないんじゃないかしら」

 「そうよフィーネ。ネルもマーレ姉と同意見。女の子一人で昼過ぎから洞窟に行こうだなんて、普通は考えられないよ」

 「いえ、クラリスはただの女の子じゃないわ、正真正銘の貴族よ。それもかの有名なアルマーク伯爵家出身。まだ職業はないみたいだけど、あの武家一門であるアルマーク家のお嬢様なら、それこそ魔物だって敵じゃないわよ」

 「「……うっそー」」

 

 唖然とする二人を差し置いて、フィーネは更に説明を続ける。

 

 「そして今日、たまたま立ち寄ったお店でクラリスが見つめていたものがあったわ。魔よけのローブと俊足ブーツね」

 「俊足ブーツって、もしかしてあの子供だましの?」

 

 ネルが思い浮かべるのは魔法の効力が何もない、ただの商品名の俊足ブーツだ。

 そういう名前で売り出せば子供受けがいいからと、また親は子供に魔法が掛かったブーツだよと言ってプレゼントすると喜ばれるからとギルドではあまり問題にしていない物だ。

 これがもっと詐欺まがいなら注意するところだが。

 

 「おそらく貴族の彼女は気安く町に出る事なんてない。であればあの靴を初めて見たはず」

 「つまり、それを買ってあの洞窟に?いやそんなまさか——」

 「フィーネいた!」

 

 マーレの言葉を遮ってギルドに飛び込んできたのはエルだ。

 余程慌てたのか髪には葉っぱが付いており、道なき道を駆けてきたのが分かる。

 

 「道具屋のおっちゃんがクラリスちゃんが魔よけのローブと俊足ブーツ、それに隣りの武具屋で短剣を買っていったの覚えてた!クラリスちゃんはあの洞窟に行ったのかも!」

 

 その言葉にフィーネは片手で顔を覆う。

 予期していたことが現実になってしまったと言わんばかりだ。

 

 「落ち着いてエル。私たちも今それを考えていたところよ。——そして確信に変わったわ。最悪のパターンでね」

 「もしそうだとしたら直ぐに連れ戻さないと!夜の森は危険ですし、それに山賊の残党がいたとしたら!」

 「そうね、マーレの言う通りだわ。エル、準備できる?」

 「まさかお二人で行く気ですか!?いくらBランクパーティの貴女たちだからといって、バルさんがいない状態では危ないですよ!せめてDランクパーティを付けてください!」

 「分かってる。けど時間がないわ。マーレとネルはまだ起きてそうなパーティに依頼をお願いできるかしら。依頼料はこっちから出すわ。もし夜の森を抜けるようなら、絶対に二パーティで編成させて。いいわね?」

 「ネルちゃん、ギルドで予備に持ってる矢貰えないかな?朝の戦闘でだいぶ消費しちゃって」

 

 エルとネルがギルドの倉庫へ姿を消す。

 すぐに矢筒を抱えたエルが戻ってきた。

 

 「私たちは一旦家に帰って、装備を整えたら出るわ。北の門からでるから、可能なら衛兵に連絡をお願い」

 「分かりました。どうかクラリスさんをお願いします」

 「——ええ。短い付き合いだけど、私たちが助けた命ですもの。見殺しにはさせないわ」

 

 そう言い残し、フィーネとエルは闇夜に姿を消した。

 

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