表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
50/51

朝一番。見回りの兵士は装いを新しくした

 朝一番。見回りの兵士は装いを新しくしたそのお店が「OPEN」となっている事に気がついた。

 まだ冒険者すら起きてこないような時間。

 それなのにもう開店しているとはどれだけ商魂逞しいのか。

 昨日はまだ「CLOSE」となっていたのを覚えているし、何よりOPEN時間が書かれている立て看板があるので、ちゃんと営業しているのだろう。

 気になった兵士は物見遊山がてら店の扉を開ける。

 カランコロンと扉についていたドアベルを鳴らして入ると、独特の香りが鼻につく。

 それがなんなのかよく知っている。

 過酷な長期訓練などで魔物に派手に吹っ飛ばされたときに担ぎ込まれた医療テントでよく嗅いだ、あの香り。

 思わず腕に残る古傷をさする癖が出る。

 

 (今でも痒いんだよなぁ)

 

 すでに治っている腕だが、新しい皮膚は何かと敏感であり、服の擦れやストレスですぐに痒くなる。

 それを何度も何度も掻いてしまうと血が出て膿むのだ。それがまた痒い。

 今では薬草貼り付けてぐるぐると包帯を巻かなければいけないほどの時もある。

 

 「いらっしゃいませ」

 

 店に入るなり出迎えてくれたのは、一人のメイドだった。

 いや、メイドにしては背が小さい。子供がお手伝いで手伝っているのだろうか。

 

 「ここは薬屋か?」

 「はい。まだOPENしたてですでの種類は少ないですが、解熱鎮痛薬や軟膏、それに低級ポーションを取り揃えております」

 「おいおい、ポーションなんて庶民が手に取れるようなもんじゃないだろ」

 

 子供に言っても分からないか、と苦笑する。

 しかし子供のメイドはその反応にどこか得意げに言ってきた。

 

 「当店では庶民でも低級ポーションをご利用いただけるように、ポーションを一滴から小売りして販売しております。また効果を実感していただくために初回は銅貨三枚、二階目からは銅貨五枚と非常にお安くお求めいただけますよ」

 

 はたから見ればその光景は少し異様に見えただろう。まだ少女とも呼べる子がスラスラとお店で扱う商品の説明を、丁寧に説明してくれるのだから。

 しかし兵士はそれよりもポーションが使える、という言葉に耳を疑った。

 

 「おいおい嬢ちゃん、いくら客寄せだからって冗談はやめた方がいい。ここいらでも下級ドラゴンぐらいは平気で出るし、そこそこに強いモンスターも多くて怪我も絶えねぇ。ポーション一滴から販売するなんて言ったら、俺含めて兵士や村人が押し寄せちまうぞ」

 「はい。まさに皆様のお役に立てるのであれば薬屋冥利に尽きると言うものでしょう。先ほど言った通りに、一滴で銅貨五枚。初回なら銅貨三枚です」

 

 ここまで言われて、ようやく兵士は目の前の少女に得体の知れない何かを感じ始めた。

 けれどここで引き下がっては、とも思う。

 ライダル国の兵士は強靭な魔物に勇猛果敢ゆうもうかかんに挑む事で有名だが、筋力一辺倒という兵士が少ないわけでもない。どちらかと言えばどれだけ大きな怪我を負って、強敵を倒せたかという武勇伝を言いふらしたいがために戦っているような者もいる。

 兵士もまさしくその一人だった。

 

 「——おもしれえ、だったら俺の腕をなおしちゃくれねーか?今も痒くて堪らねえんだ」

 

 兵士はポケットから朝食代としてとっておいた銅貨三枚を指で器用に弾く。

 少女は慌てる事なく三枚を掴み取ると「ではこちらに」とカウンター横に置いてあるテーブルへ促した。

 

 「随分と手荒な治療ですね。まずは水で綺麗にしましょう」

 

 手早く包帯を解かれ、冷たい水を含んだ布で腕を拭われる。顔を顰めたくなるような痒さが来る。

 

 「それだけ痒そうにしているのに、軟膏一つ塗らないとは。薬草も万能ではないのですよ」

 「へいへい。かーちゃんみてえなこと言わんでくれ」

 

 しっかりと拭われたのち、少女がガラス瓶を手に持つ。

 

 「これが低級ポーションです。垂らしますのでよく揉み込んでください」

 

 低級ポーションは非常に粘度が高い。

 まるでスライムが垂れるかの如く瓶から落ちた一滴は想像よりお大きく、片腕であれば薄く塗るのには十分な量だ。

 とはいえこれが本当にポーションかどうかを兵士は疑っている。

 たとえ一滴の小売り販売だとしても定価で銅貨五枚はどうなのか。それで元が取れるのか。もし効果が無いようであれば詐欺ではないかと問い詰めることも、なんて考えていてた。

 しかし効果は如実に現れた。

 

 「……なんじゃこりゃあ」

 

 みるみる腕の掻き痕が消えていき、痒みがなくなったではないか。

 一分もしないうちにすっかりと右腕は綺麗な肌を取り戻し、怪我をした後にできた傷跡がはっきりと浮かび上がる。

 

 「低級ポーションで治せるのは一時的な炎症です。継続的な治療でしたら是非こちらをお使いください」

 

 コトリ、とテーブルに置かれるのは手のひらに収まるくらいの小さな壺。

 軟膏だ。

 

 「痒くなったら少量を取り、同じように揉み込んで使いいただければ痒みが次第におさまります」

 「……いくらだ」

 「こちらは大銅貨一枚です」

 

 兵士はしばし逡巡し、「二つ買おう」とその日のお昼代を差し出すのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ