宿の一室には所狭しと多種多様な草花が置かれ
宿の一室には所狭しと多種多様な草花が置かれ、コレットがクラリスの鑑定結果に聞いては筆を走らせている。
(ほんと、よく教育してあるわね)
メイドなら読み書きができることは当たり前である。しかし大半は見習いメイドとして雇われたときに読み書きを覚えることが多く、苦労することが多いと聞く。
「——これで全部ね。どうだったかしら」
「はい。まとめると解熱鎮痛効果のあるハーブと樹皮がそれぞれ一種類ずつ。化膿に聞く野草が一つ、気だるさに効く気付け効果がある根っこが一つ。それと単体では効果がない眠り薬の元となる野草もありました」
手あたり次第に採取してきたのだが、案外と効能があるものが多い。いや、それすらも鑑定スキルがあったからこそわかったことか。
「じゃあ次に、具体的に作れそうだったものは?」
「はい。解熱鎮痛効果の薬はどちらも乾燥させて煎じれば効果が出ます。また煮出しても良いと。化膿に効く野草はすり潰して塗るようですが、乾燥してしまっては効果が薄くなるため、在庫として持つのは難しいかと。気付け薬はよく洗い、お酒につけておくと効能が染み出すようです」
「気付け薬なのにお酒につけておくと言うのもねぇ。お酒も薄めればいいかしら」
この辺りのお酒では気付け前にベロンベロンに酔ってしまうだろう。
現状としては常備薬として三つ、化膿にきく薬は受注となってしまうが仕方ない。あとはポーションにと軟膏を置けば少ないながらも売り物は揃えられるか。
「物件はどういたしましょうか。ギルドで紹介してもらったところで?」
「ええ。家賃はすこし高いけど、店舗兼住居の空きが丁度あるのならそこの方がいいわ」
噴水がある大通りに面した店舗に空きがあると紹介されたのはすぐだった。
一年ほど前までは雑貨屋が入っていたとの事だが、別の町で商売するために移住したために空きになっている。店舗も兼ねているのでなかなか借主が見つからないと、長らく空き家になっているそうだ。
「この宿にいる間に薬の採取と店舗の掃除をしてしまいましょう」
「それなら店舗の掃除は私が」
「そう?ならお願いしようかしら」
午後。
賃貸契約を終え鍵を受け取ると、早速店舗へと向かう。
掃除道具はギルドから貸してくれ、足りないものは買うとしよう。
「ここね」
二階建ての小さな店舗。一階のほとんどが店舗でキッチンだけは下にある。外からはよく見えるようにガラス張りの大きなショーウインドが取り付けられている。
住居スペースは二階で小さな部屋が二つ。本当に最低限のスペースしかない。
鍵を差し込み開戸を開ければ、薄く積もる埃が宙を舞う。
「二階の様子も見ておきましょう」
カウンターを通り過ぎ、階段を上がる。
二階は二部屋しかないのでそのままクラリスとコレットが一部屋ずつ使う予定だ。
扉を開ければ、どちらも同じように埃が積もっている。
「コレットは窓をあけて。私は水を汲んでくるわ」
ありがたいことにこの物件には裏庭に井戸がある。
井戸だけは管理人が整備していたとのことで、すぐ使える状態だ。これならポーション作りもだいぶ楽になる。
バケツに水を汲んで二階に上がれば、既にコレットはハタキを持って掃除を始めていた。
鍵をコレットに預け、クラリスは買い出しに出る。
店舗スペースには残された棚はそのまま使わせてもらうので、買うものは小物。
欲しいのは秤と分銅、それに匙と薬を包む包装だ。
「陶器の方が安いかしら」
紙は高い。
薬を包むとなれば粗悪品の紙ではなくそこそこの物をとは思うのだが、なにせ紙も流通量が少ないのだ。
それなら大量生産されている陶器を使えないだろうかと悩むが、問題は少量でも嵩張ることか。
悩んだ末、紙にした。同じ店でくすんだガラス瓶も少量揃える。こちらは低級ポーション用で見た目重視だ。小分け販売はその場で使ってもらう前提だが、一応低級ポーション単体でも売らないことはないので、そこそこ見た目にも気を遣う。
あとは軟膏入れの小壺。これも少量。たくさん作れるようになったらまた買いに来よう。
結局あれやこれやと買い込んだら両手で抱え込むほどになり、何度か店舗とお店を行き来することになった。
掃除も順調に進んでコレットは一階の掃除にも手をつけ始めており、クラリスが買い物を全部終える頃にはコレットも掃除を終えていた。
「お嬢様、大切なことを忘れています」
「えっ?」
「お店を開くと言うことは人前に立つと言うこと。追われている身であるのなら、せめて髪を隠したり色を変えたりしてください」
翌日は村にいる魔法使いの老婆を訪ねて髪色を明るい茶髪から黒を多めに入れてコレットと合わせることにした。
老婆は魔法と薬剤を合わせて使うことでこのあたりでは評判の髪染め師らしく、聞けばこのカラーリング剤にはスライムを原料とした液が使われているとか。
それを聞いたらいてもたってもいられず、すぐさまクラリスはコレットを連れてスライム探しに出たりと、開店の暇では慌ただしく過ごしたのだった。




