死んだ魚のような目をしているコレットを引き連れ
死んだ魚のような目をしているコレットを引き連れ、クラリスは村でも評判がいいと聞いた飲み屋に来ていた。
原因はそう、宿のご飯がまずかった。
とてつもなくまずかった。
なのにそこそこに客が入っていたのはおそらく女将さん目当ての客だったのだろう。察した客がそっと殴り書きしたメモをテーブルに置いてくれ、「あがががが」と壊れたコレットを連れ出したのだ。
「ほ、ほらコレット。このウサギ肉の煮付けなんてとってもおいしいわよ?」
「あが……あがが」
治ってはいないが素直に口に運んでくれるのでよしとする。
飲み屋なのでつまめるものしかないのだが、事情を話したら「あんたら、まさかあの宿に泊まっているんかい?」と飲み屋のおばちゃんに同情の目を向けられ、メニューにない料理を出してくれている。
「——申し訳ありませんお嬢様。取り乱しました」
「ああうん、そういうこともあるわよね。人だもの」
コレットが幼い頃両親から聞かされていた逃避行。そこには必ずと言っていいほど宿で食べた食事がどれだけ温かくて美味しかったかを聞かされており、どうやらあの宿にコレットは過度な期待をしていたようだ。
それにようやく落ち着ける村まで来たという安堵感もあった。
「あんた達あんな宿に泊まるってことは冒険者だろ。なら夜は別の場所に食べに行きな。あそこは旦那が味音痴でね。それが癖になるとかいう変わったやつもいんるだが、大抵は他で食べてるよ」
おばちゃんによると朝は女将さんが作るので普通に美味しいらしいのでそこだけは安心した。どうして夜も作らないのか。それだと旦那が何もしないのか。
ちなみにライダル国でもお酒は十七歳から飲める。なのでクラリスは飲めるのだが、この国特徴としては非常に強いお酒しかないことだ。
国半数が竜人であり、竜人はとにかくお酒に強い。さらに人族と竜人の血を引くものが多いため、今ではアルコール度数が生半可なお酒は置いていないというわけだ。
「ところでお嬢様。やはりポーションをギルドに卸すということは危ないと見ていいのですね?」
追加でもらったサラダと柔らかくした干し肉をつつきなあら、クラリスは頷く。
ポーションを作れるのは限られた職業のみ。
別に鑑定士でも作れないことはない、ということはクラリスが証明しているのだが、無用な疑いを産むだけだろう。
それこそ、どこからか盗んできたんじゃないのか、と。
身分を隠して売ろうにも、売買時には必ずギルドカードが必要になるのだ。そこに書かれている鑑定士を見ないギルド職員はいないだろう。
「売り先の商人にしても、毎日この村に来るわけじゃないだろうし、どうしたものかしらね」
商人は基本移動しているのだ。不特定多数の商人に相手をするならそれでもいいかもしれないが、クラリスとしてはなるべく売る相手を限定したい。ポーション作りが出来るとうのはそれだけ利用価値が高く、狙われやすい。
「……いっそのこと、ポーションの小分け販売でもしたらどうでしょう?」
「小分け販売?」
コレットがサラダボウルをポーションに見立てて言う。
「私の捻挫もそうでしたが、ポーションまるまる一つを使うほどではない怪我というのもあると思うんです。そう言うときに、買ってその場で使うとか、そういうお店であれば少ない在庫でもそこそこに利用されるのではないかと」
「小分け、ねぇ……」
それに、とコレットが続ける。
「私の村にはポーションとは別で、病気の時に熱を下げる薬や冬に手足を守る軟膏もありました。そういうのも、お嬢様のスキルで作ることはできないのでしょうか」
解熱薬や軟膏であればクラリスもよく使ったことがある。
これでも貴族だったので、何かあればすぐに医者を呼んで色々と苦い薬を出されたものだ。
「作れるかどうかで言ったら、可能性としては作れるかもしれないわ。けどポーションよりは安いわよ?」
「安いからいいんです。ポーションだけだと空き巣や盗賊に狙われるだけなので、一般的な薬も販売するんです」
「……ほんとに薬屋さんね」
案としては悪くない。
問題は鑑定スキルで作った薬が、ちゃんと薬として機能するかどうか。
いや、その辺りも最後に鑑定で見極めればいいのか。
あれ、案外いけそうではないか?作れるかどうかも、作った後の薬に効能があるかどうかも鑑定スキルでわかるのだから、性能はある程度保証できる。
それに薬であれば多少高価なのは仕方ないと思ってくれるし、なによりポーションの小分け販売による集客高価も高いだろう。本当にポーションを買ってきて小分け販売するなら赤字だろうが、作るのだから原価なんてほとんどかからない。
となればあとは解熱薬の材料や軟膏の素材がこの村の周辺にあるかどうかだ。
「じゃあ明日からはその素材を探しに行きましょうか」




