二人がやってきたのは国境の町から徒歩二週間
二人がやってきたのは国境のまちから徒歩二週間ほどの距離にあるイカルズ村だ。
それまでに二つほど村があったのだが、いずれも宿はあるが冒険者ギルドはない小さな村だった。それでも流石はライダル国と言うべきか、村の防備には屈強な騎士が常駐し、巡回でドラゴンを繰る騎士が数日に一度訪れると言う。
「それだけ魔物の脅威が近いということね」
事実、立ち寄った村で買い出しをしているときに二人旅をしているといったら非常に驚かれた。思い返せばリュクロスに流れてきたドラゴンはライダル国からきたのだ。
少し危機感を持つべきかもしれないと再確認する。
そのためイカルズ村まで来るには丁度一緒に向かう商団に声をかけ、同行をお願いしたのだ。お代は作ったばかりの低級ポーション。
商団をまとめているファス商会のタカグという肥えた中年にだけ渡し、他の商会にはファス商会から代金を払って同行してもらうと紹介してもらった。
どうしてお金でやりとりしなかったと言えば理由は複数ある。
一つは低級ポーションが市販されているものと同じものかどうか見てもらうため。
二つはお金がないながらも、しっかり準備して旅をしていたが、流石に不安になったので商団に同行させて欲しいと嘘のストーリーを演出するため。ちなみに低級ポーションはこのあたりでいくらなのかと村で聞いたところ、銀貨二十枚だというではないか。つまりこれを二つ売ればコレットの月収を超える。
三つ目は、ファス商会といえば中堅どころで大陸全土に小さいながらも店舗を持ち、幅広い商品を扱っている商会ということだ。
向こうもクラリスの立ち振る舞いとメイド見習いと見えるコレットから事情を汲んでくれ、快く同行を引き受けてくれた。
道中は馬を馬車に繋ぎ、暇そう御者台に座ってたタカグからさりげなくドラゴニア帝国のことを聞いてみたりした。
ドラゴニア帝国では大々的に拒絶山脈の開発に取り掛かっているとのことで、どの商会も物資を売りにいく算段や、拒絶山脈から採れる貴重な鉱石をいかに確保するかなどで饒舌に語ってくれる。
一方でCランク以上の冒険者がみなそこに集中しているせいで、冒険者相手に商売をしているところはだいぶ苦労しているとも。なにせお金に余裕が出てくるCランクが皆山脈に向かうのだ。いい商品を揃えても買ってくれる人が町から消えてしまえば売れるものも売れなくなる。
そんなことをして政治的にいいのだろうか、と聞いたら「ニア国に追いつけ追い越せで騒いでいるから、当面はそれで大丈夫」と笑っていた。
なんだか自分がいない間に随分と国が変わってしまった気かするが、追われている身からすればどうでもいいことか。
タカグから聞いた限りではどこぞの令嬢が出奔して追いかけられているという話は聞かなかったので、どうやらクラリスが逃げていることは表向きまだ秘密のようだ。この手の噂話は娯楽のない庶民にとってみれば数少ない刺激なので、知っていても話さないと言うことはないだろう。
そうして過ごした四日。
商団はイカルズ村へと着いた。
「まずは冒険者ギルドに行って、泊まれる宿を聞きましょうか」
ここイカルズ村は、村という割にはそこそこな大きさがある。小さな町といっても差し支えないほどだ。
商団と別れた二人は一路冒険者ギルドを目指す。
村の中央は小さな噴水が置かれ、円形の広場となっていた。
そこだけは石畳が敷かれ、ベンチが並び、色とりどりの花が植えられている。目の前にはそこそこ大きい教会があり、村の規模を漠然と感じ取れた。
ギルドは教会を通り過ぎ、しばらく歩いた先にある。
村の西口に近い位置だ。
「いらっしゃいませ。本日はどうされましたか?」
ギルドの中は閑散としていた。
時間もお昼を過ぎたあたりなので冒険者がいることもなく、ギルドとしてもそこまで大きいところではない。
「先ほどこの村にきたEランクのクラリスと申します。こちらはポーターのコレット。今日はご挨拶と宿をご紹介いただけないかと」
「挨拶、ですか?」
「ええ。どれくらいになるかわかりませんが、しばらくイカルズ村で過ごそうかと考えていますの」
そうでしたか、と青年はどこか値踏みするような目つきへと変わる。
それを隠そうともしないのだから彼がいい性格なのか、こちらが舐められているだけか。どちらにしろ相手にするだけ時間の無駄か。
いくつか宿を教えてもらい、二人は村の西口から目と鼻の先にある宿に向かう。理由は簡単。ここならすぐに薬草採取に出れるからだ。
「二人一部屋をお願いしたいのだけど、いいかしら?」
「あらー可愛い冒険者さんね。ふたりだと朝食付きで銀貨一枚だけどいいかしら?」
「ええ。ひとまず五日分お願いできるかしら。あと厩も使わして欲しいのだけど」
出迎えてくれたのは妙齢の女性。夫婦で切り盛りしている宿らしく、奥の厨房らしきところには大柄の男性の姿も見える。
「部屋は二階ね。夜はレストランもやっているから是非来てね。宿泊してくれたお客さんは割引サービルもあるわ」
鍵を受け取ると早速部屋へと向かう。
階段を登って突き当たりを右の部屋。角部屋らしく外がよく見える出窓が特徴的な部屋だ。
「お嬢様。お湯をもらってきました」
「ええ、ありがとう」
お風呂なんてものはどこにもない。ここ二ヶ月の冒険者生活ではお湯を使って体を拭ければいいほうだ。
コレットが一緒に旅をするようになってからは野宿している時でもコレットがお湯を沸かし、清潔さを保てるようになったが別の問題もよく目につく。
コレットの細い体。
そして食の細さ。
なにせクラリスの半分も食べずにコレットは満足するのだ。それでは体もいつまで経っても成長しない。
(いえ、そのような体になってしまった、ですわね)
クラリスが使い終われば残り湯はコレットが使う。
そこまでメイドに徹することもないのだが、そこはコレットのこだわりらしいので仕方がない。最近は背中を拭いてあげることをなんとか説得させたくらいだ。
骨が浮き出る華奢な体。
宿のレストランをコレットが気に入って、少しでもたくさん食べてくれることを祈るばかりだ。




