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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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明らかに不機嫌な顔のコレットを宥めつつ

 明らかに不機嫌な顔のコレットを宥めつつ、二人は馬を揺られてカッポカッポと歩いていく。

 なぜか商団を探しに行ったクラリスが連れて帰ってきたのは馬だった。

 焦茶色で足首が白い馬は多少気が荒いものの、クラリスであれば十分に乗りこなせる馬を見て遠い目をしたコレットを慰める言葉を、生憎と持ち合わせてはいなかった。

 

 「と言うわけで馬での移動にするわ」

 「いやお嬢様、わけがわかりません」

 「気にしなくていいわ。ちゃんと買ってきた馬だから」

 

 馬の需要はどこにでもある。

 交易で盛んな二国の国境ともなれば突然馬が必要になったとか、台地を上がってくる間に怪我をして替えが必要になったなどよくあることだ。

 その分お値段も張ったがリュクロスで稼いだ金貨があったので金銭的な問題はないが、値切ることも忘れない。

 その日は新しい馬のためのサドルバッグを調達し、保存食や魔除けの香を多めに買い込み、野宿用のテントを買って準備を整えた。もちろん、ポーション作りのためのビンや鍋もしっかりと買い込んだ。

 その間コレットの機嫌をなんとかしようとあれやこれやと美味しいお菓子を買ったりしたのだが、結局直らず終いで今日に至る。

 

 「そもそもお嬢様は、なんでわざわざ時間の掛かる方法にしたのですか」

 

 コレットは乗馬経験がないし、十二歳ほどに見える彼女は馬に乗れるギリギリの体格だ。

 そのためコレットの乗る馬、シルフィーと名付けた彼女はゆっくりと歩いている。一方で伴走するクラリスの馬、ブラウは何故こんなにもゆっくりしているのだと先程から嘶きが増えている。

 

 「一つはちょっとポーションを作ってみたくなってね」

 「……はい?」

 「実は一昨日の夜に新しいスキルを覚えてね。うまくいけば低級ポーションが作れるみたいだから、ちょっと作ってみようかと思って」

 「な、な、なんでそんな大事なこと、教えてくれなかったんですか!」

 「だって、そっちの方が面白そうだったんだもの」

 

 あっけらかんと笑うクラリス。

 

 「あとはちょっとした私のスキルの検証に付き合ってもらいたくて。ほら、私のスキルの特徴、教えたでしょ?」

 「鑑定スキルで鑑定した効果が、他人には使えないという現象ですね」

 

 そう、とクラリスは腰に佩いている長剣に手をかざす。

 

 「この子も鑑定してちょっとした能力を付与してあるんだけど、それがコレットでも使えるかどうか試したいの」

 「——私が使えたら、どうするんですか?」

 「そうね、その時は……この剣を再鑑定して能力を付け直すか、叩き折るわ」

 

 * * *

 

 場所は変わって街道沿いに立つ一本の木の下で二人は佇んでいた。

 目の前には頭部ほどある大きさの石がすぱっと真っ二つに切られており、コレットが青い顔で剣を構えている。

 

 「お、お嬢様?話には聞いていましたし実際にウルフの首もこれで落としたように見えていましたが——どうして剣で石を叩き切れるのです、か?」

 「大丈夫よコレット。落ち着いて剣を持ち上げて、ゆっくりでいいから石に当ててご覧なさい」

 

 今日は本当にコレットの表情がコロコロと変わると、クラリスはご満悦だった。もっともその中に笑顔がないのが唯一の不満ではあるが。

 ガクガクと震えるコレットだが、意を決して剣をそこそこに振り上げると、切れた石へと振り下ろす。

 へっぴり腰で全く様になっていないのだが、それでも長剣はしっかりと石に当たり、カアァンと良い音をあげた。

 

 「……予想通りね」

 

 クラリスが長剣を振り下ろした時は音も立てずにスッと石が切れたので、これで武器に関しては基本的に鑑定したクラリスが扱う時のみしか効果を発揮しないことが証明された。

 あとは防具だが、長剣への鑑定であっても防具への鑑定であっても「物への鑑定」と考えればおそらくは同じ。あくまでクラリスが身に付けていないと効果を発揮しないと考えられる。

 余裕があれば違う武器でも検証して、本当にクラリス以外には効果がないと確認できれば露店で売られている武器などを片っぱしから鑑定して有用なものを厳選することもできるだろう。

 

 「ありがとうコレット。じゃあ次はいよいよポーションね」

 

 コレットから長剣を受け取ると、クラリスはサドルバッグから小さな陶器製の瓶と鍋を取り出し、組み立て式のコンロを設置する。

 

 「火をつけてくれるかしら。薪はさっき拾ったわよね?」

 

 コレットが素早くコンロの下に薪を準備して火を付ける。鍋を置いたらビンの中に入っていた薬草汁を開け、煮詰めていく。

 この薬草もクラリスが昨日こっそりと採取したものだ。どの程度入れればいいかわからなかったので冒険者ギルドで納品する時と同じ一組につき五枚を入れてある。

 とは言っても少量なので煮詰めるのもそんなに時間はかからない。

 適度に煮詰まってきたら薬草を取り出して捨て、さらに煮ていく。

 色としては濃いエメラルドグリーン。おもったよりも綺麗な色をしていた。

 

 「……もういいかしら」

 

 五分の一ほどにまで減った溶液を冷まして、再度ビンに入れる。

 

 「簡易鑑定」

 

 『鑑定結果

  品名:薬草のポーション

  品質:低級

  薬草から作られたポーション。裂傷や打撲した部位にかけると即効性の治癒効果がある。飲むと滋養強壮や内臓の回復に効果がある』

 

 すんなりと出来てしまった。

 十分に冷めていることを確認してからクラリスはコレットを座らせると、靴を脱がし捻挫した右足に垂らす。

 薬草の煮汁だけだだというのに粘度が高い。ひとます数滴垂らして右足に揉み込んでいく。

 

 「どう、かしら」

 

 治りかけだったとはいえ「まだ少し痛む」と訴えていたコレットだったが、表情を見れば効果は劇的のようだ。

 

 「すごいですお嬢様。鈍く続いていた痛みが全くしません……本当にポーションを作られてしまったのですか」

 「そうね。一応私の鑑定結果でも低級のポーションとなっているから、ポーションなんでしょう」

 

 とはいえクラリスもコレットもそもそも低級ポーションの実物を見たことがないので、本当にポーションなのかはどこかで確かめる必要がある。下手をしたら出回っているポーションとはまったく違うもの、なんてことも考えられるからだ。

 

 「でもこれで、少しはお金稼ぎができそうね」

 「しかしお嬢様。ここまでなんでも出来てしまうと少々問題もあるのでは?」

 

 乾いた布で右足を拭き、靴を履き終えたコレット。

 背筋を伸ばした佇まいはもはや見習いメイドとは言えないレベルだ。

 そんなコレットが懸念するのもわかる。

 クラリスの職は鑑定士だ。そしてクラリスが見聞きする限りでは鑑定士というのは一般的ではないし、今までに会ったこともない。商人や戦士といった汎用職が主流の世の中でマイナーな職に就いている人はいわゆる変人だ。

 そんなクラリスが物の価値を鑑定でき、付与魔法みたいな高位の魔法職にしか使えないような事ができてしまい、さらには薬草からポーションまで作れてしまうのだ。

 一見すれば金儲けまっしぐらの道だと思われるが、その道を進めば進むほど左右には大きな藪が数多く茂っていて、こちらを食い物にしようとする者で溢れかえるだろう。

 

 「——そうね。このポーションを貿易都市トーマで流すのは私もどうかと思うわ」

 「ご理解いただけているのなら何よりです」

 

 ありとあらゆる情報が行き交う貿易都市。そんな中で能力を隠してポーション職人として身を立てることがどれほど目立つものか。わからないクラリスではない。

 しかし、ポーションがお金になるのも事実なのだ。

 

 「いっそ王都に……?いえ、そこまで行くと商業ギルドがうるさそうね」

 「貿易都市トーマに行く間までにいくつか町や村があったはずです。そこで少量生産して商人に流しますか?」

 「それも手ね。商人に直で卸せば販売ルートの秘密も守ってくれるでしょうし。あとは空き家ね。流石にこれを宿に泊まりながら作ると言うのは、問題よねぇ」

 

 煮詰めるのに火を使うのもあるし、作っているのがポーションだと知られれば面倒なことにもなる。薬草を取りに行くついでにどこかで煮詰めてもいいのだが、それだと毎回薪だなんだと持っていく必要もありそうだ。

 

 「小さくても冒険者ギルドがある村で、一端の冒険者として活動できれば御の字かしら」

 

 二人は一直線に貿易都市トーマを目指す予定を変更し、道のりにある村々を回ることことにした。

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