国境の町はリュクロスに負けないくらいの
国境の町はリュクロスに負けないくらいの賑わいを見せていた。
所構わず露店が並び、その列は幾重にも連なり大きな市場となっている。聞けば露店を出している商人も毎日変わり、場所取りで毎日朝早くから多くの商人が詰め掛けるのだとか。
そして人の出入りも活発だ。
行商といっても産地まで自分の足で行って買い付ける人もいれば、国境の町で安く売っている商品を買い入れて引き返していく者もいる。
そのため国境を跨いだ馬車がすぐに荷を入れ替えて引き返していくなどの光景が多く見られた。
ドラゴニア帝国の国境の町ではゆっくりしていられなかったので、とても面白い。
「——お嬢様」
「わ、わかっているわ。さっさと着替えて冒険者ギルドに行くわよ」
まるで長年連れ添ったかのような意思疎通でコレットに急かされ、クラリスは露店を見て回る。
冒険者向けの防具を扱うお店はすぐに見つかった。
「フード付きのローブはないかしら」
「お嬢ちゃん、魔法職かい?それならフード付きよりも帽子は別で用意したほうがいいぞ」
「あら、どうして?」
緑の肌をした商人が無言で後ろを指差す。
その先にはちょうど建物から人目を避けるようにして連行される数人の姿があった。
「最近じゃああいうローブで顔を隠して犯罪者を連行するのが多くなってね。それからか、ローブで顔を隠しているのは悪さをしているんじゃないかって皆陰口を叩くのさ」
「犯罪抑止の一環でしょうか。たしかにフードよりも帽子の方が見える部分は大きいですから」
「そっちのちっこいメイドは、ちっこいのに物知りだな。ま、そんなところだ」
ちっこいちっこい言われたコレットはムスっとした顔をするが、ともあれまずはローブと帽子を購入する。
「いらないローブがあれば買い取るぞ」
「いえ、これは予備で持っていようかと。それとこの子に会うローブはあるかしら」
「ちっこいからなぁ。ローブというよりもケープの類ならいくつかあるが」
それでいい、とクラリスは数着購入し、うち一枚をコレットにかけてボタンを掛ける。
次は食料とコレットが背負うためのバッグ、そして予備の靴を購入する。
なにせ本当にメイド服しか持っていないので旅の装備が何もかも足りないのだ。
支度金として銀貨は預けてあるが、食料に関してはクラリス持ちだ。コレットはどこから流れてきたのか、メイド服専用の露店で今と似たような予備のメイド服を二着購入していた。国は違えどメイドというのはどこでも需要があるようだ。
「じゃあそろそろ冒険者ギルドにいきましょうか」
* * *
冒険者ギルドは多いに賑わっていた。
かなり広めの飲食ブースも併設されているため、すでにあちこちから樽杯をぶつける音が響いている。
ちらと様子を伺うと冒険者というよりは傭兵のほうが多くいるとは思う。傭兵になるには傭兵ギルドに登録することで仕事を斡旋してもらえるのだが、多くのギルドは防具を貸し与えることで誰が仲間かを識別できるようにしている。
そのため一目で誰が傭兵かというのはわかりやすい。ちなみに武器は持参だ。
「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか」
「彼女をポーターとして雇いたいのだけど、お願いできるかしら。期間は二年で」
ギルドカードを預けると、愛想の良い青年はコレットに身分証があるかどうかを尋ねてくる。コレットが差し出すのはリグからもらったミーワ村出身を示す証書だ。
「承りました。コレット様をまずはポーター登録いたします。期間は二年。給金はいかがいたしましょうか」
「月額で銀貨三○枚。支度金は既に渡してあるわ」
「わかりました。ではクラリス様からコレット様の口座に毎月銀貨三○枚の入金で登録しておきます。万一クラリス様の口座残高が足りない場合は、雇用側の契約不履行となりますのでご注意ください」
「わかりました。それと出金もお願いできる?銀貨五○枚ほど」
青年は頷き一つ、一旦カウンターから奥の部屋に引っ込むと、袋に入った銀貨と黒いカードをもて出てきた。
「こちらが銀貨五○枚とコレット様のカードになります。紛失した際は銀貨三枚でお作りできますが、その際はクラリス様も同伴していただくようお願いいたします」
「ありがとう」
受け取り、ギルドを後にする。
銀貨五○枚は二人が一月生活するには十分な大金だが、ドラゴニア帝国の鉱山都市クリシヤに行く冒険者は日当で銀貨十枚出るのだ。冒険者がどれだけ儲かるか分かると同時に、それだけ危険な場所であることも想像がつく。
「ここからはどのような行程でしょうか」
「まずは国境を越えましょう。それからライダル国側で宿をとって、情報収集——」
ふとクラリスは見慣れた姿を目にし、コレットの腕を掴むと素早く身を建物の影に隠す。
帽子を目深に被り、人差し指をたて、
「いい?コレット。無駄遣いはしちゃダメよ?見習いとはいえメイドたる者、己を律して買い物をすること」
「……あの、お嬢様?」
「話を合わせて——返事は?」
「は、はい。わかりました」
「じゃあ最低限買ってくるものを伝えるわね。まずは食料。そして——」
目の前を数名の軽装な騎士が通り過ぎる。
武に精通しているものであれば誰でも知っている姿は、ドラゴニア帝国騎士団の者だ。なにせ身につけているケープにドラゴニア帝国騎士団の紋様が描かれているのだから。
彼らは誰かを探すように注意深く道ゆく人を見て回っている。
「——あとは予備のブーツと魔除けの香も忘れずにね」
「食料、薬草、軟膏、油紙、それとブーツに魔除けの香ですね、わかりました」
「おやつは銀貨一枚までよ?」
「はい、お任せください。——行ったようですね」
途中からコレットも気づいたのか、騎士は既に人混みの中に消えていた。
「あれはお嬢様を探しに?」
「わからないわ。でも可能性は高い」
「厄介ですね」とコレットがため息をつく。
「そう?かくれんぼだと思えば案外楽しいわよ?それに、向こうだって私の顔をしっかりと覚えているわけじゃないわ。あくまで人相とか目撃者の情報を頼りに来ているだけでしょうから」
「……その神経の太さはまさしく貴族ですねお嬢様」
どういう意味よ、と言い返しながらも二人は国境に向かってゆっくりと移動し始めた。




