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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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ラス連邦とライダル国の国境は荒地が広がる

 ラス連邦とライダル国の国境は荒地が広がる高山地帯だ。

 もっとも険しい山々が連なるというのではなく、一帯が巨大な台地となっているためなだらかな坂道が延々と続いている。

 緑も多く、街道の随所にある休憩所には湧水わきみずがしみだし、道ゆく人に潤いを与えている。

 流石に国境近くとあってかすれ違う人も多く、クラリスは馬にコレットを乗せ、自分は手綱を持って歩いている。

 

 「あの、お嬢様。私は大丈夫ですので」

 「ダメよコレット。無理と無茶を一緒にしてはいけないわ。国境の町に着くまでは大人しく乗っていなさい」

 「……申し訳ありません」

 

 いいのよ、とコレットは手を振る。

 昨日足を挫いてからコレットはずっと馬に乗せられている。体格と育ちも合っていないためになだらかとは言えいつまでも続く上り坂は負担だったようだ。

 乗馬にも慣れていないため、クラリスはゆっくりと歩みを進める。

 

 「町に着いたらまずは冒険者ギルドで登録ですわね」

 

 冒険者になるには女神リーサの宣託を受けたものでなければいけない。

 しかしそれだとスラムの子供たちなどが稼ぐ手段を失うため、対象外の子供達のために荷物持ち(ポーター)という登録制度がある。その場合は雇用主の冒険者がポーターの身の安全を保証する事になっており、それを破ると厳しい罰則が課せられる制度もある。

 もっともその罰則も裏取りができなければ意味をなさず、有名無実となっているのは広く知られていることだ。

 ポーターの雇用は依頼単位と期間単位があるのだが、今回は期間単位でまずは二年を予定している。二年も立てばコレットも宣託を受けられる十七歳となるためだ。その後どうするかは、また二年後に考えればいい。

 

 「——休憩しましょうか」

 

 広く開けた場所でクラリスは足を止める。

 馬に乗りなれていないコレットをサポートしながら下ろし、手近な石の椅子に腰掛ける。

 遠くなだらかな丘の向こうに見えるのが国境の町だ。

 ゆっくりいっても午後には入れるだろう。

 

 「さあコレット、足を見せてちょうだい」

 

 スカートから覗かせる細い足。

 その右足にはもみ込んだ薬草と包帯が巻かれていた。

 クラリスは手際良く包帯をほどき、湿らせた布で綺麗に薬草を拭い取る。最初は令嬢だというのに手慣れた手つきで包帯を巻いていくものだからコレットに不思議がられたものだが、怪我が耐えないアルマーク家のものであればこれくらい造作もないことだ。

 患部はそこまで腫れているわけでもなく、これであれば医者にかかる必要もないだろう。

 クラリスは馬の荷から新しく薬草を取り出すと、くしゃくしゃともみ込んで同じようにコレットの右足に巻いていく。

 薬草はポーションにならなければ効果が低いのだが、無いよりはましだ。

 

 「不思議です。お嬢様が採取した薬草は一日立ってもとても青々としています」

 「ふふっ、ちょっとした特技よ」

 

 薬草専用のナイフについてはまだ説明していない。

 鑑定については説明してあるが、そもそも鑑定スキルは人に見えるものではないので説明したところで納得してもらえるかどうかは別だ。

 それでも最近はなるべくたくさん鑑定を行うようにしている。

 コレットに見せる意味合いもあるが、もう一つは無詠唱で鑑定スキルを使えるようにするためだ。

 スキルは使い込めば能力が伸びていく。それと同時に無詠唱でも使えることができるようになるという。

 昨今の使い方からどうしても人前で鑑定を使う必要が出てくることを否が応にも体感したクラリスは、どうにかして回避できないかを模索している。

 調査員という名目で活動するためでもあるのだが、もし本物の調査員と出会ってしまえばスキルの詠唱が違うと、すぐにバレてしまう。

 冒険者で戦闘スキルがないことがそもそも珍しいのに、さらに鑑定スキルが持つこの能力を知られてしまうのが今や最大のリスクとなっていた。

 

 (とはいえ神杖ミディオライの鑑定結果はじっくり見てみたかったわね)

 

 簡易鑑定スキルですら長々とした長文だった。それを斜め読みして必要な部分だけをあの時は読んだだけであったが、許されるならちゃんと全部読んでみたかったのものだ。

 とはいえ神杖ミディオライはあの後すぐに返却したし、そろそろ早馬がニア国に到着して神杖の扱いについて協議が始まっている頃合いだろう。

 つまり、クラリスの情報がアルマーク家へと伝わるには十分な時間が経っている。

 

 「気をつけなければいけないわね……」

 「お嬢様、そう言う割には口元が笑っています」

 「あら」

 

 コレットに言われるまで気づかなかった。

 そう、クラリスにとってこの逃避行でさえ楽しいのだ。

 死んだはずのクラリスが生きていた。しかもラス連邦でリュクロスの町を救う英雄となっていただなんて、土産話にするには滑稽だがそれを馬鹿正直に調べていると思えば笑い話だろう。

 

 「お嬢様は、そもそも真面目に逃げる必要があるとお考えで?」

 「もちろんよ。これでも商家に売られた身なんですもの。生きていたら私の人生は鳥籠の中よ」

 「その割にはおぐしを隠すだとか色を変えるだとかはしていないようですが。山賊に捕まった時に髪を切ったとはお聞きしましたが」

 「……そうね」

 

 すっかり有名人になってしまったのを忘れていたが、このままギルドに顔を出せばまた余計な騒ぎを生んでしまうのは目に見えている。

 中継都市アーライで買ったローブにはフードがないため、国境の町に着いたらまずはフードつきのローブを買おうか。

 

 「それなら装いも変えたほうがいいのでは?お嬢様の話からリュクロスで活躍したお嬢様はまさに今の格好だったのならば、ライダル国に入ってしばらくするまでは魔法職の方のような格好をするなど。長剣を持っていても護身用といえば通るでしょうし」

 「……コレットって案外と知恵が回るのね」

 「——父様と母様から、雨の日はよく二人が世界を巡ったことを聞かされていましたので」

 

 なるほど逃避行の先駆者の娘だった、これは心強い。もっとも先駆者は愛の逃避行だったようだが。

 

 「じゃあまずは町に着いたら服装を見直して、さっさと国境を超えてしまいましょう」

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