夕暮れが迫る空のもと、コレットは両親が
夕暮れが迫る空のもと、コレットは両親が眠る墓前に静かに弓を立てかけ、胸に手を当てる。
ウルフの襲撃から一夜開けた今日。
ミーワ村には宿がないのでリグがたまに使っていると言う仮眠室を借り、クラリスとコレットはそこで一夜を明かした。
怯えるクラリスを寝かしつけるのは骨が折れたが、それが普通の反応なのだと思うと自分との違いに苦笑が漏れた。
そして今、死んだ両親に祈りを捧げる姿を見てもそう思う。
自分は両親が死んだとして、こんな風に祈ることができるのだろうか。
家から追い出した父とあまり接点のない母。
思えばアルマーク家の子は皆、母と接点が薄い。
妹にすら既に専属の執事がいるのだ。母が何かをするようなこともないし、屋敷の中で見かけることも少なかったと思う。
「もう、大丈夫です」
いつの間にか祈りを終えていたコレットが目の前に立っていた。
持ち物は身に付けているメイド服だけだというのに、何が大丈夫なのだろう。
頼られない事への苛立ち、というよりかはクラリスはコレットがそこまで一人で生きてみせるという覚悟が不思議だった。
何が彼女をそうさせるのだろうか。
獣人が多い中で人族というデメリットを抱えていながらも、ここで強く生きていこうとするその姿勢。
だからこそ、クラリスはコレットにどこか惹かれるものを感じたのだろう。
「コレット。貴女がこれからどう生きるかは詮索しませんわ。けれど一ついいかしら——貴女、メイドとして私に仕える気はない?」
「メイドとして、ですか?」
「昨日話した通り、私は実家から逃げている途中なの。この後はライダル国に行く予定なのだけど、いつまでも一人というのは大変でして。そろそろ従者の一人や二人と考えていたところでしたの」
どちらかといえば一人旅を楽しんでいたところだが、あながち嘘でもない。
ソロで冒険者として活動しているものは案外と少なく、それなら傭兵として身を立てるのが一般的だ。普通はパーティーを組み『緑の刃』のようにパーティで家を借りたりなどするのも珍しくない。
けれどクラリスはまだ知らない誰かとパーティを組もうとは思えずにいた。
貴族出身であることと逃避行の身という事情もある。
だから欲しいのはパーティーではなく、クラリス個人に仕えてくれる従者。
「——給金はいくらでしょうか?」
「月に銀貨三○枚。支度金として銀貨二○枚でいかがかしら」
以前にドラゴニア帝国が冒険者を集めている時の条件がDランク冒険者で銀貨一枚の日当だった。メイドがどれくらいの給金相場なのかはわからないが、初心者から抜け出した冒険者で銀貨一枚ならそこまで間違った相場ではないだろう。
「とは言っても冒険者の旅路よ。野宿もあれば雨の中進むこともある。結構過酷よ?」
「その割にはクラリスさんは楽しそうです」
「もちろん楽しいわ。だって貴族の柵から解放されて自由なんですもの」
「……ふふっ、そうですか」
コレットから笑みがこぼれる。
「——初めて笑ったわね」
「勘違いです忘れてください。メイドたるもの、感情に流されてはまだまだです」
「そ、そんなことないわよ……?」
アルマーク家のメイドも多種多様だったと思う。確かに落ち着いたメイドが多かった気はするが、中にはよく笑う者や鼻血をよく流すメイドもいたものだ。
(……結構変わったメイドもいたわね)
それを思えばコレットは可愛いものだ。
打ち解けていければ笑うようになってくれるだろうか。
「それで、お返事はいただけるかしら」
「——わかりました。不肖コレット。クラリスお嬢様にお仕えいたします」
「ふふっ、これからよろしくお願いするわ。それと、私はもうお嬢様でもなんでもないのよ」
「いえ、平民でも貴族でも、お嬢様はお嬢様です」
小さなメイドにそう言われると、どこかくすぐったさを覚えるクラリスであった。




