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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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リグは襲いかかるウルフを槍で吹き飛ばし

 リグは襲いかかるウルフを槍で吹き飛ばしながら、冷や汗をかく。

 クラリスと別れて村まで戻る途中、畑にいる連中とつい話し込んでいたら突如としてウルフが群となり森から出てきたのだ。

 これまでウルフは誰もいない畑か夜間に出てきていた。だから人が襲われることはなかったのだが、明らかに今までと違う事態にリグの緊張は一気に高まる。

 

 「全員畑から出ろ!俺の後ろまでこい!」

 

 背の低い芋畑ではあるが、延びた蔓で足を取られるため畑の中で戦うのは不利と判断し、すぐに全員を畦道あぜみちまで呼ぶ。

 誰も彼も慌てた様子だが、獣人である彼らはすぐに畑からリグの元へと走ってきた。

 

 「武器があるやつは——いるな。お前が先頭になって村まで走れ。殿しんがりは俺に任せろ。いけ!」

 

 リグの号令により全員が村へと走り、最後にリグが続く。

 さてウルフはどう出るか、と槍を持つ手に力が入った時だ。

 群れの一頭が見向きもせずこちらへと向かってくる。

 

 「くそがっ」

 

 幸い真っ直ぐ向かってくるのはまだ一頭だけ。

 リグは足を止め、ウルフと対峙する。

 足を止めることのないウルフはそのままリグへと飛びかかり、リグは大きな体からは想像できない素早さでステップを踏むことで回避。ウルフが着地する直前に石突でウルフの横腹を力任せにつく。

 穂先を使えば簡単に絶命させられるだろうが、刺さりどころが悪ければウルフの硬い骨によって穂先が折れることもある。

 ウルフは賢い魔物のため、相手が自分より強いとわかればそう易々と手を出してこない。もっとも、群れでくるなら話は別だが。

 今の時期、群れで行動するのはメスと子供だ。

 であれば今襲いかかってきたのはおそらく子供だろう。メスは基本危ない事には近づかないのだ。

 しかし、それも子供が危険に晒されていれば話は別。

 リグはフラつきながらも起きあがろうとするウルフを一瞥し、走る。

 まずは村人の安全が優先だ。ウルフの母親もこちらを襲うよりは子供の心配をするだろうと踏んでの行動。

 結果として、それはうまくいった。

 数頭が吹き飛ばされたウルフに駆けつけ、こちらを睨みつけては来るがそれ以上追ってくる事はない。

 

 「助かったぞリグ、あんたがいてくれて良かったよ」

 「いいから走れ。村まではまだ距離もあるんだ」

 

 言葉ではそう言うが、あの様子ならこちらに追ってくる事はないだろう。

 そう気を緩めた時だ。

 何かを嗅ぎ取ったのか、一斉にウルフが反対方向を向く。

 

 「——なんだ?」

 

 全部で五頭いるウルフが一頭、また一頭と畦道を村とは反対方向へかけていく。

 まるで新しい獲物を見つけたかのように。

 五頭のうち三頭は走り去り、腹を打ったウルフと母親と思われるウルフは畑を抜け、森へと消えた。

 それを見たリグがひとまず安堵した時だ。

 

 「お、おい。あっちはコンラッドの娘っ子がいるほうじゃねえか!」

 「——しまった!」

 

 誰かが切羽詰まった言葉を発すると同時、リグは焦る。しかし焦ったところで今いる村人を放置していけるわけもなく。

 

 (まて、クラリスは冒険者のはずだ。なら……)

 

 足を止め、大きく息を吸う。

 竜の血を引く者が使える咆哮ブレスというものがある。獣人たるリザードマンでは火を吹いたり攻撃に使う事はできないが、こう言う時に役立つ使い方ができる。

 それは、大音量による伝令。

 

 「ウルフがでたぞおおおお!」

 

 * * *

 

 クラリスが小屋から出た時、五十メートル先までウルフが迫っていた。

 

 「ゴーッ!」

 

 すぐさま馬を繋いでいる紐を長剣で切る。

 馬も状況がわかっているのか、全速力で逃げていく。

 ジュリアからもらった馬はしっかりと訓練されているので、あとでちゃんと戻ってくる事はわかっている。

 

 「コレットは家の中にいなさい!」

 

 できれば扉にバリケードも作って欲しいが、目の前に迫るウルフはそんな暇を与えてはくれなさそうだ。

 

 「くっ!」

 

 飛びかかるウルフ。

 こちらの命を狩るために伸びた前足をクラリスは長剣で弾く。

 

 (——切れなかった)

 

 弾いた反動でクラリスは数歩さがり、着地したウルフと向き合う。

 以前に山賊を薙ぎ倒した時は鎧や盾など関係なしに切っていたのに、このウルフにはそれが通じない。

 どう言うことか。

 考えている暇はない。視界の後方からはさらにウルフが二体向かってきているのが見えた。

 待っていては三体一にされる。

 

 「なら——攻めるのみ!」

 

 踏み込み、横なぎの一閃。

 ウルフは素早くバックして躱すと、身を地につけるかというほどに沈めてこちらの足を狙ってくる。

 それを狙ってクラリスは返す手で柄を逆手に持ち、ウルフとの間に突き立てる。急ブレーキをかけてウルフが左へと回避しようとしたところを、長剣を支点に回り込んだクラリスの蹴りがウルフの頭にヒット。

 クラリスの体重を考えれば軽い一撃だが、フラついた隙を逃さず長剣を引き抜いて切る。

 それでもウルフは迫り来る刃に反応して身を翻し、長剣は胴体を浅く切っただけで終わる。

 互いに距離を取る。

 そこにやってきた二頭。

 状況は一気に不利へと傾いた。

 『緑の刃』と行動を共にしていた時でもウルフを狩った事はない。それがいきなり三頭だ。なまじ伝説級の長剣を持っていると悠長に構えているのもいけなかった。生き延びることができたら絶対に盾を買おう。

 三頭が相手となればこちらは受け身しかない。

 そんなことを考えていたら、後から来た二頭は思わぬ行動に出た。

 二頭はその場から離れ小屋へと向かったのだ。次の瞬間、そのまま小屋へと体当たりした。

 

 「きゃあっ!」

 「コレット!」

 

 小屋が大きく軋み、中にいるコレットの悲鳴が聞こえる。

 しかし行手ゆくてを阻むかのように回り込むウルフ。その先では二頭がいたぶるかのように体当たりを繰り返している。

 この光景はまるでどこかの山賊ではないか。

 ウルフにそこまでの知識があるのか、それともただ狩りを楽しんでいるだけなのか。

 睨み合っている間にも小屋はたわみ、崩れ、壊れていく。

 けれどここで焦ってしまっては敵の思う壺だ。

 幼少からアルマーク家の一員として鍛錬を積んできたクラリスははやる気持ちを抑え、呼吸を整える。どのみち今は目の前のウルフをどうにかしなければいけないのだ。

 

 「——簡易鑑定」

 

 『鑑定結果

 種別:ウルフ (子)

 状態:興奮

 ユビク大陸全土にひろく生息。多くは森の中で暮らす。群れを作るのは巣立つ前の親子。夜行性のため日中は視力が落ちるが、この個体は右目の視力が極端に弱い』

 

 活路を見出すために使った鑑定だが、視力が弱いと言っても相手は鼻が利く。

 それでも突破口はそこしかない。

 今の状態は先ほどと同じ一対一。であれば、とクラリスは正面からウルフに挑む。

 ウルフは即座にこちらから見て右に避け、飛びかかってくる。

 あらかじめ予想していた動きだ。

 だからクラリスはバックステップを踏み、ウルフの右目の視界側に回る。ウルフが振り向くことを考えてすかさずウルフ後方へ回り込み、切る。

 狙いは胴体。

 ゴブリンや山賊であればバターのように切れた長剣は、先ほど弾かれた感触とは違ってまさにバターを切る感覚をクラリスに返す。

 ウルフの胴が二つに裂かれたのだ。

 

 「切れない訳ではない、ということですのね」

 

 地面に転がるウルフの前と後ろ。油断なくクラリスは首をねた。

 同時。

 二頭が小屋に向かって体当たりするのとコレットが飛び出してくるのが見えた。

 崩壊する小屋。

 腕には先ほど渡したばかりの弓を抱え、逆に言えばそれしか持っていない。

 

 「コレット!」

 

 コレットの後ろ、崩れた小屋から二頭が飛び出してコレットに襲いかかる。

 間に合わない。

 ウルフの魔の手がコレットに届くかと思われたその時、二頭が同時に吹き飛んだ。

 

 「リグ!?」

 

 人が持つにはあまりに大きい槍が「ビュン」と音を立ててウルフに刺さり、抜け、もう一頭の腹に刺さる。

 一体どれ程の剛腕なのか。それともスキルによるものか。

 なにせリグの姿はまだ畦道の遠くにいるのだ。

 

 「叩き切れ!」

 

 あまりの事に呆然としていたがリグの一声にクラリスは我に帰るとコレットの横を抜け、まずは穂先のみ刺さっているウルフの首を裂く。

 リグには申し訳ないがそのまま槍を踏みつけると、腹を貫通しているウルフの悲鳴が聞こえ、怯んだ隙にこちらも胴と首とを切り離した。

 

 こうして、クラリスの初めてのウルフ討伐は幕を下ろした。

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