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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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天気は良好

 天気は良好。

 初夏も過ぎ強い日差しが照り付けるが、馬に乗っていると爽やかな風が草原を抜けるので不快感はない。

 遠く鳥の声が聞こえ、目を凝らせば夏毛になった野ウサギをちらほらと見かける。

 村を出た翌日。相変わらずの足取りでクラリスは街道を進む。

 たまにすれ違う人もいるが、先日までリュクロスへ向かう街道を封鎖するという触れ込みがあったせいか、その数は半日に一組見かけるかどうか。

 リュクロスは交易で栄えているというのにこれほどまでにすれ違う人がいないと、まるで人里離れた場所に迷いこんでしまったのではないかとも感じる。

 午前中には行商をしているという熊族の大柄な男性と軽く話をしたが、見かけによらずとても親切でミーワ村へ行く道も教えてもらった。

 ラス連邦と言えばダンジョンと内戦の国という印象だったが、案外と道行く人は親切だしリュクロスでも昨日の村でも、種族で対立しているようには見えなかった。

 

 「このあたりが交易で栄えたから?となると内戦とか内紛が激しいのはラス連邦の西はどうなのかしら。ダンジョンは南と西にあると聞いたけれど」

 

 何はともあれよそ者だからと言って毛嫌いされるといった事態にはならなさそうなので安心する。

 

 「——ここかしら」

 

 三叉路さんさろに差し掛かる。

 片側はよく踏み慣らされた街道。もう一方は馬車の轍が微かに見える程度のものだ。

 熊の行商人曰く、ミーワ村は特産とよべるものもないので余程のことが無い行商が赴くような事はないのだとか。ミーワ村の人も買い出しは街道沿いいの村まで出て来るらしい。

 クラリスは草が生え途切れ途切れになっている街道を注意深く、わずかに残る轍を辿りながら馬を進めていく。

 もっとも馬の足取りはしっかりしたもので、もしかしたらこのは以前にミーワ村に来たことがあるのかもしれない。

 緩やかな丘陵をいくつか越え、すこし木々が出てきた時だ。遠くの景色に集落が見えた。

 景色はすぐに畑へと変わり、左右には青々とした芋の葉が広がっている。

 

 「とまれ!」

 

 村まであと少しという時だ。

 突如として村の入り口に立っていた大男が叫ぶ。

 竜の血を引いているのか、リザードマン風の男はどう見ても気が立っており、さらには皮鎧に槍まで持っている。

 なにかあったのか、とクラリスは馬から下りる。

 

 「冒険者か。この村に何の用だ」

 

 何をしに来たのか、と言われるとリュクロスで見つけた誰かの形見であろう弓を返しにきたのだが、果たしてそれが通じるだろうか。

 それよりも見せた方が早いか、とクラリスは「これを」と馬に乗せていた弓を指さす。弓を手に取ってしまえば警戒されるので、あくまで指さすだけだ。

 

 「この弓に見覚えはないでしょうか」

 「弓だと……?」

 

 リザードマンが警戒しながらもこちらへと歩み寄る。

 馬の背丈よりもさらに頭ひとつ分も大きい男だ。手に持っている槍も普段クラリスが目にするような物とは違い、相当に長い。

 リザードマンがおもむろに弓を手にし、その表面をなぞる。

 弓の表面に彫られた紋様。本来はもっとはっきりしていたのだろうが、使い古されてすっかりすり減り、今や目を凝らさないと見えないほどだ。

 しかし、彼の手がそれを懐かしむように、なぞる。

 

 「——これはコンラッドの弓だ。 どうしてお前が持っている?」

 「リュクロスで売られていました。形見の品だとも。お節介かもしれませんが、形見ならやはり家族の元にあるのが良いと思いまして」

 

 実際は鑑定で分かった事だが、商人から聞いたことにしておくのが無難だ。

 

 「それで返しに来たって訳か、変わっているな」

 「けれど、貴方を見れば来た甲斐があったというものです」

 

 そう、先ほどの怒気はどこへやら。

 リザードマンは打って変わって柔和な顔つきである。

 

 「いやはや、すまなかった。実はここ最近ウルフが良く出るようになってな。やつら、食べもしないのに畑を荒らし、羊を襲い、鶏を食らっていてな。人はまだ襲われてはいないが、それも時間の問題だろう」

 「話には聞いていましたが、そんなに酷いのですか?」

 

 リザードマンが弓を返し、ついてくるように促す。

 手綱をもって村に入ればあまりにも閑散とした様子が見て取れた。昼間だというのに静かすぎるのだ。

 どこの民家も木戸を締め切り、空いているのは小さな商店だけ。その商店も普段なら表に商品を出しているのだろうと見える大きな棚があるのだが、そこには何もない。

 

 「男衆おとこしゅうは固まって畑で作業しているが、女子供はウルフを怖がってこの有様だ。こんな村でも普段なら子供が走り回って元気な声を響かせているんだがな」

 「そうですか……。ウルフはいつくらいから?」

 「かれこれ二週間といったところか。もっとも、二年前にコンラッドが死んでからは森に狩りに行く者もいなくなっていてな。——っと、まだ名乗っていなかったな、俺はリグ。もともとリュクロスで兵士だったが今はこの村で暮らしている」

 

 リグと名乗るリザードマンはそのまま村を突っ切り、反対側の畑へと進んでいく。

 

 「あの……村から離れているようですけど?」

 

 「もう少しだ」とリグは構わずに進んでいく。

 途中ウルフを警戒しながら畑仕事をする村人を見かけるが、誰も彼も男性ばかり。そして畑の一部には荒らされたような跡もある。

 ウルフが荒らしたのだろう。茎は齧られ、根は掘り返されている。

 男性陣はそれを一つ一つ確かめては埋め直せるか捨てるしかないかを調べているようだ。

 

 「酷いもんだろう?やつら、遊びとばかりに掘り返しにきてはぐちゃぐちゃにして去っていくんだ」

 「何か対策は?」

 「している。だが柵は突き破られ罠は鼻が利くやつらにはかからなくてな。これ以上ひどくなるようならリュクロス兵団に討伐依頼も、と考えているところだ」

 

 リュクロスの冒険者も討伐仕事などは兵団から受けられるため、荒事は全てそちらに依頼するのだとか。

 しかしそれも対処療法だという。

 もともとミーワ村には森の中に狩りにいく者が少なく、誰も彼も畑を耕して生活してきた。それでも狩人は常に一人二人いたものだが、コンラッドが魔物に襲われて以降、村に狩人がいなくなったとか。

 これでは森の中で起きている異変が全くわからず、村の防備は常に後手に回ってしまうとのことだ。かといって畑しか耕したことがない村人が、森に行くとしてもキノコや山菜をたまに採るくらいしか経験のない者がいきなり狩人になれるわけもなく。

 結局のところ、どうすることもできないというのが現状らしい。

 二人は畑をさらに進み、見えてきた森と畑の境まで来た。

 

 「あそこだ」

 「あれ……ですか?」

 

 指差す先、とても家とは呼べないボロ小屋がある。

 どちらかといえば物置に近く、小屋の壁にはさまざまな器具が掛けられていたのも物置と見えるのに拍車をかける。

 リグが小屋の扉を叩く。

 

 「おおいコレット、おるか?」

 

 「少々お待ちを」としっかりした声が響く。

 十数秒後、ギギィと立て付けの悪い扉を開けて出てきたのは、小さなメイドだった。

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