ジュリアがクラリスを口説いていると
ジュリアがクラリスを口説いていると、思い出したかのように手を打ったのは領主であるゲインだ。
「そうだジュリア、クラリス殿にあれを見てもらったらどうだろうか」
「……お父様、あれというのは、あれですか?」
「そう嫌な顔をするな。あれでも一応代々伝わる由緒あるものなのだぞ」
「そうは言いますがね……」
嫌そうにするジュリアに構うことなくゲインは控えていた執事に何かを言伝、執事が部屋を出ていく。
「はっはっは。これはこれは、またクラリスさんの妙技が拝見できますな」
「ちょっとドーマさん。私のスキルも万能ではないのですからね」
「分かっております。しかしクラリスさんは聖リーサリティ学園にいただけあって博識だ。スキルに頼らなくても何とかなるのが貴女の強みですな」
「まったくだよクラリス。対戦の時に攻撃スキルを使わずして私に勝ったんだ。……なぁどうしてもダメか?リュクロス兵団に来れば給金は安泰だし、何も実践部隊だけではないぞ?それに私付きにだって推薦できる」
「いえ、ジュリアさん付きになんてなったら毎日お相手させられそうなので遠慮します。というかそれが本音ですわよね?」
バレたか、と笑うジュリア。
しかし、と言葉を続けるのはゲインだ。
「ジュリアにここまで言わせるとはな。私はこんな身なりだがもともとラス国の中央にいた文官でね。戦いの事はさっぱりなんだが、ジュリアがここまで言うのであればクラリス殿も相当な冒険者なのだろう」
「盛りすぎです。先日ようやくEランクになったばかりの駆け出しですわ」
「それにその立ち振る舞い。多少言葉遣いは砕けているが、所作の癖は抜けないものだ。——そう、貴族としての癖は」
「——多少、学園で学んだ心得があるだけですわ」
嫌な空気が首筋を撫でた。
自称文官だというゲインに睨まれ(本人は睨んでいるわけではないかもしれないが)、クラリスに緊張が走る。
その空気をタイミング良く打ち破ってくれたのは戻ってきた執事だ。白い布に覆われた、人の背丈ほどある長物を手に持ち、静かにテーブルに下ろす。
布を解いて現れたのは一本の古びた杖だ。
途端、鼻を塞ぎたくなるような異臭が漂ってくる。
「窓を」とゲインが言うのが早いか、手早く執事が窓を開けて臭いは幾分和らいだが、それでも間近で嗅ぐのは遠慮したいほど。
「これは代々伝わる杖でな。なんでも星を降らせる力があると言われている。もっとも星を降らせるなんて魔法はこの世に存在していない事は確認しているがね」
「お父様、代々伝わるからと言ってゴミまで取っておくことは無いのです!こんなものさっさと捨てましょう」
「ジュリアよ、長きにわたり受け継がれてきたものを捨てるというのは難しい事なのだ。それに——星を降らせる魔法なんてロマンがあるじゃないか」
「私はゴミにロマンも何も感じません!」
ギャーギャーと騒ぐ二人を前に、クラリスは何か違和感を感じていた。
いや、胸騒ぎというべきか。
それは聖リーサリティ学園で飾られていた特殊な能力が付与された武器をみた時と同じ感覚。
薬草を長持ちさせるとかよく切れる長剣だとか、そんなものではない。もっと強力な力を秘めていると、直感が訴えかけてくる。
「……これを、私に調査してほしいと?」
「端的に言えばそうだ。もし本当に星を降らせる魔法が使えるのだとしたら、その使い方まで分かれば一番いいがな」
ゴクリ、と喉がなる。
スキルを使えば何かしら分かるだろう。
分かってしまうだろう。
しかしそれが果たして本当にいい事なのかは分からない。
けれど、クラリスもこの杖にロマンを感じていた。
それは鑑定士になった時の本懐。この世にある不思議な武具を鑑定し、秘密を解き明かすというロマン。
「これを、調査してもよろしいでしょうか?」
自然と口は動いていた。
ジュリアが不満顔だが、ゲインは確かに頷いてくれる。
なら構わないかとスキルを発動した。
「——簡易鑑定調査」
浮かび上がる情報。
はっきりと見えて来る前でも情報量が多いことが分かる。
それを読み解こうとした時だ。
突如、部屋に轟音が響き渡り、大地が揺れた。




