ドーマと共に私は領主の屋敷を訪れていた
ドーマと共に私は領主の屋敷を訪れていた。
既にドーマが手配した神官は到着しており、三人揃って客間に案内された。
ちなみに今日は護衛だけでなく私の持つスキルについても領主に話すことがあるかもしれないという事で、そのあたりは事前に調整済みだ。
しばらくしてドアが開く。
が、現れたのは良く見知った人物だった。
「クラリスじゃないか!」
「じゅ、ジュリアさん?」
忘れもしないその顔。
こちらを見た瞬間に獲物を見つけたとばかりにジュリアの瞳孔が細くなった気がした。
しかし先日にあったような鎧姿ではなく、今はどこぞの令嬢とばかりに薄緑色のドレスを纏い、頭頂部の耳には金の耳飾りをしている。
「——なんだジュリア、知り合いかい?」
「ええお父様。先日町で知り合いました冒険者のクラリスです。彼女、私より強いんですよ?」
なんと、と言って扉から姿を現したのは、獅子だった。
いや、ちゃんと二足歩行なので獅子という表現はおかしい。
彼、ジュリアからお父様と呼ばれた男はジュリアとは正反対に獣人族の血を濃く体現している。
獅子の顔にふさふさの体毛、シャツに黒い革パンツという軽装だが肌が見えることは無く、全身が体毛で覆われている。
彼、領主ゲインは訝しるように私を見た。
「本当かね?失礼だがとてもジュリアが負けるようには見えないが……」
「いいえお父様。姿かたちに惑わされてはなりません。彼女は間違いなく逸材です。なにせスキルを使わずに私に勝利したのですから」
それは違うと叫びたかった。
ばっちり鑑定スキルは使わせてもらったし、その上でジュリアと武器の弱点を突いたのだ。
頬を引きつらせる私だが、ここで言葉を挟めば余計に拗れると判断し、気づかれないようにそっとドーマを突く。
「領主様、部屋の入り口で立ち話もなんですから、どうぞお入りになっください」
「——ああこれは失礼した。まずは楽にしてくれたまえ」
ソファにどかっと音を立てて座る獅子。
対するジュリアは音もなく座る。とてもガチャガチャと鎧の擦れる音を立てていた人物とは思えない仕草だ。。
「——しかし意外です。ジュリア殿はてっきり討伐隊に加わっているものかと思っておりました」
ドーマの言う事に私も頷く。
あれだけ滔々《とうとう》と討伐について語っていたのだ。当然福団長であるジュリアも行くものだとばかり思っていた。
「ああいや、私としても行きたいのは山々なんだけどね。こういう時に不届き者が蔓延るというのは良くあることでね。今回は団長自らが討伐に行かれるので私は後衛。つまりは留守番といった所だね」
「留守番……」
副団長が留守番とはなかなか思いもよらぬ言葉だが、内紛の絶えぬラス連邦独特の考えもあるのだろう。
「——さて、楽しいおしゃべりもその辺に、まずは本題と行こうか。なにやらとんでもない宝石を持ってきていただいているとか」
失礼、とドーマが前置きしてテーブルに置かれたのは拳大もあるダイヤモンド。
改めてみるとその規格外に眼を見張るものがある。
まずその大きさだ。
呪われていた時は黒々としており小さく見えたものだが、今となっては透き通る光が七色に輝き、実物以上に大きく見える。
さらにダイヤモンドのカット。
このダイヤはただ大きいだけではない。
しっかりブリリアントカットされた状態で大きいのだ。テーブルの直径は掌ほどもある。
「お聞きしているかと思いますが、このダイヤはもともとドラゴニア帝国のとある貴族から購入したものでして。当初は呪われており輝きを失っていたのですが、こちらにいる冒険者クラリスの力をお借りし、呪いを解いたものとなります」
「——お待ちください。呪われていたというのは本当でしょうか?」
口を挟んだのはここまで影の薄かった神官だ。
彼は私とダイヤを交互に見やる。
「呪いの解呪には聖なる力が必要です。それを一介の冒険者が解呪したとは到底考えられません」
「——確かに。ドーマ殿、呪いを解呪したというのは本当なのだろうか?」
「こればかりは正直、私としても信じてもらえるかどうかとは思っている所存です。しかし今回の取引において重要なのはそこではありません。今このダイヤモンドには一切の呪いがなく、領主様が安心して取引できるものであることと、私はそう考えております」
確かにここで私の鑑定結果云々を話したところで、呪いは既に塩に移ってしまったのだから証明のしようがない。
それよりも商売人にとっては、これから取引する物にはもう呪いなんてものがないことが重要である。
それに呪われた塩をこの場で出すわけにもいかない。取り上げられたなんてことがあればリーマを救う手立てが無くなってしまう。
「お父様。クラリスは調査員のスキルを使えます。調査員は遺跡発掘で出土した呪物を独自のスキルで無効化できる、という話を耳にしたことがあります」
ジュリアにはスキルの話を一切していないのにこちらを調査員と断定してきたのは、やはり立ち合いでスキル発動のために呟いた言葉を聞き取っていたのだろうか。
「確かに呪いの類は原因が様々だ。作為的な物でなく自然界において呪いがこのダイヤに蓄積していた、と考えれば調査員のスキルでも解呪……いやこの場合は無効化といった方がいいのかな、それが可能ということか」
私は話に合わせて頷いておく。ここは根掘り葉掘り聞かれたら答えようがない所でもあるし、職業スキルを詳しく聞くのはマナー違反でもある。
「では神官殿、頼めるだろうか」
「——わかりました」
神官は頷くとダイヤモンドの上に手をかざす。
ポウッと手が光り、ダイヤモンドを包み込んでいく。これもスキルなのだろうが、言葉を発せずにスキルが使えるとなればこの神官も相当な熟練者なのだろうと当たりがつく。
なにより神官のスキルをはっきりと見るのが初めてである私は、輝かしい光に見入っていた。
白から始まり黄、橙、赤、紫、青、緑と七色に変化し、再び白に戻ること三度。
ふっ光が消えた。
「——たしかに呪われていた形跡の様なものが確認できます。呪いの残滓、と言えば良いでしょうか。しかし人に害を為すほどのものではなく、時が立てば残滓も消えることでしょう」
「そこまで分かるものなのかね?」
「たまたま今回は呪いの残滓が見つかった、という程度です。私もたくさんの呪物を見てきたわけではないのですが、過去似たような物は見たことがあります。大抵はひと月もすれば残滓も消えることでしょう」
胸を撫でおろしたのはドーマ。
これでようやくこのダイヤモンドに取引できるというものだ。
「神官殿、ありがとうございます。これで取引も前に進むという者です」




