万能なスキルなんてものはない
万能なスキルなんてものはない。そんなスキルが使えるとしたら、それは女神リーサ自身だろう。
本来であれば調査員という職業はダンジョン内部や森の中を調査するスキルを持つ者である。
確かに調査という意味では人体を診る、ということも出来なくはないだろう。しかしそれなら医師が適職だ。
しかし医師では呪いの類は分からない。呪いは病気ではなく外的なものだから。
そういう意味ではクラリスがリーマを見るのはドーマにとって幸運だった。クラリスは調査員でもない。医師でもない。鑑定士なのだ。
物体を鑑定するスキル。
これならばその物体がどういう状態であるかを把握するには十分だ。
天幕の後ろ、リーマの住居だという小さな小屋に三人は入り、布団の上に腰を下ろすリーマ。あれこれ必要な物はドーマが買いそろえているとのことだが、狭い部屋におけるものなど限られており、リーマも多くを望んでいないため「なにもない」という表現がしっくりくる。
クラリスはリーマの前に膝つき、鑑定をはじめる。
もっともドーマの前では調査員として偽ることを忘れない。
「——簡易鑑定調査」
『鑑定結果
種別:人族
状態:衰弱
所属:眷属
名前:リーマ
xxxの眷属。契約に従い、生きている限り生命力をxxxに供給する者』
「—どうです、何かわかりましたか」
どう答えればいいか。数舜悩んだクラリスは見たものをそのまま告げる事にした。
「リーマさんに掛けられているのは呪いではありません。いえ人にとっては呪いと同等でしょう。リーマさんは契約に従い、誰かの眷属……いわゆる使い魔と同じような状態となっております」
「眷属……使い魔、ですか?」
ええ、とクラリスは続ける。
「聖リーサリティ学園で聞いたことがあります。熟練の魔法使いは精霊などと契約スキルが使えると。契約者は精霊の生命力を借り受けて能力向上できると言われております。おそらくリーサさんにも同等の契約が成されたのでしょう。もともと精霊向けの契約を人間に掛けたのですから、リーマさんは急激に老化したと考えられます」
「で、ではその契約を解除するには?」
「……分かりません。しかし学園では精霊との契約は慎重にしなければならない、と。どちらか一方の契約破棄は破棄した側になんらかの罰則が発生するはず。もしリーサさんが自分の意思で契約を解除したとしても、今の様子ではペナルティが死を呼び寄せる事も考えられますわ」
がっくりと肩を落とすドーマ。それでも解決の糸口が見つかったのだから、まずは教会にリーマを連れていくべきだろうかと呟く。
たしかに教会の神官も魔術師と同じように魔法が使えるはずだ。系統は違うかもしれないが、精霊との契約についても何か知っているかもしれない。
一方でクラリスには別の考えが思いついていた。
「ドーマさん、解呪に使った塩は、まだ手元にありますか?」
「塩かい?あれならその辺で捨てるのも気が引けるからまだ持っているが」
「あれを一度鑑定させてもらっても?もしかしたらリーマさんを救う手立てになるかもしれません」
* * *
宿の一室。
クラリスは麻袋に入った塩と向き合っていた。
「——して、どういうことかな。。塩がリーマを救うとは」
「ドーマさんはあの宝石を鑑定した時の結果を覚えていますか?」
「たしか生命を呪う、という結果でしたね」
そう。あの宝石に掛けられていた呪いは生命を呪うという、漠然としたものだった。
そして塩で解呪できた。
では呪いそのものは消えたのだろうか。
それも考えられるが、クラリスとドーマはおそらく塩に移ったのだろうと考えていた。本来呪いを落とすには教会に行き、神官による祝福を受ける事でしか解呪できないのだ。
「もしリーマさんの生命が呪われたとしたら、その生命力を受け取っている先にも、呪いの力は伝播すると思いますか?」
「……なるほど。つまりクラリスさんはこう言いたいのですね?この塩を使ってリーマをまず呪い、その呪いを生命力を奪っている者にも向けようと」
ええ、とクラリスは頷く。
「もちろん課題はあります。まずはこの塩がちゃんと呪いの力を有している事。そしてリーマさんの体調——生命を呪うということであれば、リーマさんは今以上に衰弱するはずです。そして本当に呪いが契約者に届くのか」
そしてこの計画を実行するには最後にはリーマの意思が必要だ。曲がりなりにも呪われるのだ。誰も自ら進んで呪われたいと思う者などいない。
まぁそれもこれも、全てはこの塩がちゃんと呪いを宿しているかどうかだ。
「簡易鑑定調査——」
結果は直ぐに見えて来る。。
『鑑定結果
品名:塩
品質:低級
クラス:呪い
呪われた塩。触れた者の生命を呪う力がある。摂取すると呪いが摂取した者に蓄積される』
思った通りだ。
そして幸運なのは触れているだけでも呪われるという事。これなら呪われたい時にだけ塩に触り、体調次第ではやめる事も出来る。
「ならすぐにでもリーマの解呪を——」
「それはいけません」
「な、何故です?確かにリーマに確認する必要はあるでしょうが」
「呪いの効果がどれほどのものか分からない以上、すぐにリーマさんで試すのはいけません。まずは健康な人で試し、どれほどの呪いが降りかかるかを見たほうがいいでしょう。それにリーマさんは明らかに虚弱状態です。生命力を吸われているなら、猶の事解呪に向けて体力を付けねばなりません」
「……もっともですな」
方針は決まった。
けれど事前準備やリーマへの説明、なにより体調面でスラム街ではダメだという事になり、まずはリーマを看病するための宿を手配に走る。
スラムの身なりだとそれ相応の宿にしか泊まれないが、なんとかドーマがそこそこの宿を確保した。
あとは、誰が呪われ役をするかだけ。これについては慎重に議論しようという事になり、結論は先送りされた。




