夜。ドーマが宿の食堂で見たのは
夜。ドーマが宿の食堂で見たのは意外な組み合わせだった。
「これはこれは、一体どういう風の吹き回しで……」
「あら、ドーマさん。ええと彼女は——」
肉、肉、肉と並んだテーブルに座るクラリスが紹介してくるのは美しいブロンドヘア―を持つ女性。この町では有名な獣人だ。
「存じておりますとも。齢十三にしてリュクロス兵団に入団、職業が選択できる十七歳になると同時に副団長にのし上がりったジュリアさん、ですよね」
「……予想よりはるかに有名人ですわね」
「そんな私を打ち負かしたんだ。君はもっと有名になるよ。——ああドーマ殿、突っ立っていないで良ければ一緒にどうです?」
促されるままに座れば卓にはさらに料理が運ばれてくる。
そして怒涛の如く平らげていくジュリアと半ばあきれ顔のクラリス。
ドーマは自分のオーダーを追加しつつ、この奇妙な組み合わせをどうしたものかと眺めていた。
方やリュクロス兵団の副団長を務めるジュリア。一方でクラリスは冒険者としてはEランク。しかしその実力は目の当たりにしているし、さらには調査系のスキルを使える有望株。
さて、どこにこの二人の接点があろうか。
「——お手上げですな。クラリスさんは今度はどんな魔法をつかってジュリアさんと?」
「そう、まさにあれば魔法だった!」
「いえ絡まれただけです」
「ああっ、今思い出してもクラリスの剣技は惚れ惚れするよ。こちらの本気を軽々といなして、いなし続けるのだから。どんなに打ち込んでも涼しい顔して受け流す姿はまさに芸術だよ」
クラリスの盛大な突っ込みを受けながらこれまでの経緯を知らされたドーマは、これもまた女神リーサの巡りあわせかと思う程のものだ。
ちなみに試合をした後ジュリアはクラリスの事を呼び捨てになっていた。なんでも「打ち合った後は友」とかいう格言だとか。
「そういえば露店で聞きましたけど、森に強い魔物が棲みついたので討伐隊が組まれるのだとか」
「んっ……ごくん。ああそうさ。ちょっと厄介なのが流れて来てね。なあに心配はいらないよ、今回討伐隊の隊長は団長自ら指揮をされるからね」
「おや、まさか『剛盾の騎士』ことヨシダル団長自ら出られるのですか」
物凄い勢いで料理が減っていくのでドーマは少しづつ取り分けてクラリスに渡す。人族と獣人族では戦闘スタイルも違うが、食事スタイルもかなり違う。慣れていないと食べようとしていた料理がいつの間にか無くなっているなんてのは日常茶飯事だ。
「その、ヨシダル団長とはどのような方なのでしょうか?」
「そうだね……。彼は『剛盾の騎士』、『ラス連邦の守り』と呼ばれていてね。内戦が絶えないラス連邦の小競り合いをいつも止める人だ」
「その通り。団長がいるからラス連邦は国としての体を保っていると言っても過言ではない。——逆に言えば、小競り合いと言えない争いが起きている事でもあるが」
「なんか途端、苦労人に聞こえてきますわね……」
間違っていないとドーマは頷く。
そもそもラス連邦において国の首都たる都はどこかと言われれば、連邦評議会が設置されているミワジョーと答えるのが正解だ。しかしかのミワジョーは長く続く部族間対立で首都機能の不全に陥っている。
そうなると必然的にどこかの町が担わなければならないのだが、それがここリュクロスだ。
交易で発展しつづけているここは経済的にも地理的にも首都機能を補完するのに最適であり、さらに保有する兵団の練度は高い。
故にリュクロスの兵団でありながらラス連邦国内の事態収束に頻繁に駆り出されているのだ。
「——ああそうそう、討伐隊が出るとしばらくは南門と西門は封鎖、街道も通れなくなるから、もしリュクロスを離れる予定があるのならすぐに立つか、ひと月の逗留は準備しておいた方がいい」
「なんと……今回の討伐はそこまで時間がかかるのですか」
「討伐自体はおそらく三日もあれば事足りるだろう。問題はその後。強い魔物が流れてきたせいで元いた魔物たちがあちこちに散らばっていてね。それらを討伐するまで街道は使えないだろう」
「それは、クラリスさん弱りましたな」
「——あっ」
クラリスが目指しているライダル国はリュクロスから南へと下る街道を進む必要がある。
そこが通行止めになるのだ。馬車はまず出ないし街道にリュクロス兵がいる事を考えれば通してもらえるとは思えない。
無理に通ったところでリュクロスとライダル国はまだまだ距離がある。とても女性が一人で歩いていける距離ではない。
「ちなみに討伐というのはいつからでしょう?」
「うむ、明後日だな」
つまりリュクロスを離れるなら明日に立たねばいけない。
今日来たばかりだというのに、それはかなり乱暴な選択だ。それに今からでは保存食などを買い込むお店もやっていないだろう。
「しばらくは逗留生活になりそうですわね」
頭を悩ますのはお金の問題だ。
小金持ちとは言え一か月も浪費していたらそこそこに目減りする。とはいえ冒険者ギルドで受けられる依頼だけでやっていけるか。
ドーマとの雇用契約も長くて一週間、短くて三日程度との話だ。
とはいえ無一文なわけではない。宿も安い所に変えたりすれば生活に困ることはないはずだ。
「まずは稼ぎ口ですわね。ギルドに行ってちゃんと依頼をみることにしますわ」
「なんとクラリス!お金に困っているのか。それならいい働き口を紹介「丁重にお断りさせていただきますわ」——そうか……」
シュンとなるジュリア。
「ま、まぁクラリスさん。良ければ私の伝手でも仕事を紹介できるかもしれませんので」
「いえ雇い主であるドーマさんにまでご迷惑をおかけしては」
なんのこれしき、とドーマは首を振る。
そもそもクラリスに解呪してもらったダイヤモンドが破格の値段で取引できそうなのだ。金額によってはクラリスにもボーナスを出そうと思っていたし、この程度は協力させてもらわなければ寝覚めが悪い。
そういうとクラリスは「それなら、無理のない範囲で」と頷いた。




