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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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休憩で立ち寄った町にリュクロスの兵がいた

 休憩で立ち寄った町にリュクロスの兵がいたことで、処理は早く進んだ。突き出された御者の証言と現場を慌てて確認してきた兵の証言により、事件そのものは虚偽ではないと受け取ってもらえたが、しかし傭兵切りの一件でクラリスはリュクロス兵の詰め所へと連行される。

 

 「——だがな嬢ちゃん。たかがEランクの冒険者が山賊二十人を前に立ちまわるなんて芸当、とてもじゃないが考えられないんだよ」

 

 ガイと名乗った兵士。

 兜を脱いだ時の第一印象は、なんというか疲れたともやさぐれているとも表現できる男性だ。

 これでもこの近辺を任されている隊長らしい。

 

 「そうは言われましても、なにぶん冒険者になったばかりでして。そもそも腕に覚えがあればあの程度の山賊なんて、造作もありません。それとも隊長さんは私を疑っておいでで?それでは山賊全員を斬ってしまった私は益々意味がわかりませんが」

 「かーっ、その貴族みたいな口調どうにかならんのか。やり辛くてかまわん」

 「そういう環境で育ったものですので、こればっかりは直そうと思って直るものではありませんね」

 

 ガシガシと頭を頭を掻くガイ。

 溜息一つ、手元にある書類に目を落とす。

 

 「他の乗客からの証言からも、お前さんが山賊にたった一人で立ち向かったのは証言出来ている。ドーマとかいう商人からもお前がドラゴニア帝国から来ていると証言している。けど、気になっているのは別だ。現場を見てきた兵からは「繋げば元通りになるのではないかと思うぐらい、断面が滑らかな死体がごろごろと転がっている」ときた。そんな腕前の冒険者がEクラスなんて到底考えられん」

 「だからギルドカードを提示しているではないですか。登録日も確認していただいたでしょう?二か月も経たないのにEクラスでいる事の方が珍しいくらいですよ」

 

 そう、既にこの町にある冒険者ギルドには当然の如くクラリスと切られた傭兵についての照会が行っており、ギルドマスターの判子付きで確認書類が届いている。

 傭兵についてはこの一帯では有名なごろつきらしく、最近は金回りが悪いことで他の冒険者からも警戒されていたことが添えられている。

 一方でクラリスについてもドラゴニア帝国の中継都市アーライで登録され、アーライのゴブリンスレイヤーの称号を持つ者と来ている。

 

 (なんですかゴブリンスレイヤーって!}

 

 ガイに確認書類を読み上げられた時は顔を赤くしたが、エルがそんなことを言っていたことを思い出す。。名誉なんだかお笑い者かわからない称号だ。

 ともあれ、このままではらちがあかない。

 

 「——ではこうしましょう。要は死体にあった妙に綺麗すぎる切り口が不思議なんですよね?それをお見せできれば隊長さんも私の技量を疑う事もないでしょう。なんなら私が使っている武器を隊長さんが振るってもいいですよ」

 「……そうだな。ここで話していてもお前さんは真っ白だ。お前さんの言う通り、ここは一つその技量とやらを見せてもらおうか」

 

 連れてこられたのは詰め所の中庭。

 藁束わらたばの案山子が数本あるここは狭いながらも簡単な訓練施設の様になっていた。

 そしていつの間にか湧いているギャラリー。

 「体長が女を連れているぞ」と噂は狭い詰め所では一瞬で広まり、窓や廊下から溢れんばかりに兵が顔を覗かせている。

 

 「じゃあ嬢ちゃん、まずはその長剣を貸してもらえるか」

 「——どうぞ」

 (どうか効果発揮されませんように!)

 

 薬草のナイフはクラリスが持っていない時しか効果を発揮しない。しかしこの長剣を鑑定した時に出てきた結果にあったのは伝説級レジェンダリー

 それほどの物だと他人が扱っても効果を発揮しそうにも思う。

 長剣はクラリスが持てばそこそこに大きいと感じるのだが、大柄な体調が持つと短刀にも感じられるほどだ。

 

 「——見た感じ普通の剣だな。どれ」

 

 ガイの構えはとても綺麗だった。基礎を疎かにしていない者という印象で、流れる一閃が案山子を襲う。

 ポトリと藁束が上下に別れ、ガイは近付いて断面を指でなぞる。

 

 「お世辞にも名剣とは言えないな。見た目はどこにでもある普通の剣だし、切り口も普通……」

 「では次は私が致しましょう」

 

 剣を受け取り、狙いは今斬られた案山子の左隣にある案山子。

 抜く。

 斜め上からの袈裟斬りだ。

 藁を通過する際、抵抗は一切感じない。中に芯として木の棒が入っているはずだが、それすらも感触が来ない。

 思わずすっぽ抜けそうになるのを堪え、鞘に戻す。

 落ちた藁束を手に取れば、たしかにクラリスも唸る。

 切り口があまりに綺麗すぎるのだ。こういう繊維質の物は切られた時に斬る力の方向に流れて繊維がぴょろぴょろと飛び出すのだが、それが一切ない。

 一番良い表現は、良く研いだ包丁で腕のいい料理人が赤み肉を引き切った時のそれに近い。

 どうぞ、とクラリスが藁束を渡すと「嘘だろ」とガイも唸る。。

 ここは嫌みも込めて大口を叩いておこう。

 

 「剣も包丁も同じです。使い慣れてくれば剣の個性を感じ取れ、その個性に合わせて腕を振るう。そうすれば扱う人によって技量の差がはっきりと」

 「……俺は剣を扱いきれていないと?」

 「そうではありません。隊長さんはこの剣の個性を感じ取れていないだけ。長年愛用した武器が手に馴染むことはよくある事でしょう?そこまでして初めて武器は真の力を発揮できるもの、そういうことです」

 「——この歳になって、嬢ちゃんから剣の極意を教えられるとはな。恐れ入ったよ」

 

 その後、詰め所で山賊討伐の報奨金として金貨十枚。冒険者ギルドでは寝返った傭兵の討伐量として金貨二枚を受け取り、ほくほく顔でクラリスは宿へと帰っていった。


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