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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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一人旅かと思われた馬車には、見知った顔の

 一人旅かと思われた馬車には、見知った顔の男性がいた。鉱物商のドーマだ。

 

 「ドーマさんじゃないですか。ダンさんとは?」

 「おや、奇遇だねクラリスさん。ダンとはここでお別れだ。私はライダル国やドラゴニア帝国との交易で栄えているリュクロスに向かうところでね」

 

 馬車がゆっくりと動き出した。

 幌の合間から顔を出し、まだいた三人に手を振る。

 

 「クラリスさんは『緑の刃』ではないのですか?」

 「ええと、話すと色々あるんですが、仲間ではありますがパーティメンバではありません」

 

 胸を張って仲間だと言えるのにどこか誇らしさを感じ、頬が緩む。

 しかし知り合いがいるというのは案外と暇つぶしになるようで、小一時間程はドーマと会話が途切れることが無く、馬車はぐいぐいと進んでいく。

 そんな二人であったが、そういえばと思い出したかのようにドーマが聞いてきた。

 

 「この前の調味料の件ですが、あれはもしやクラリスさんのスキルによるものでしょうか?」

 「あはは……やっぱりわかりますか?」

 

 そうでしたか、とドーマは頷く。

 

 「いえね、こういう商売柄、こういっちゃなんですが人を疑うと言いますか、見抜くのには長けているんです。それでもクラリスさんはそのあたりさらっとしていますので、半分賭けみたいなものだったんですが、そうですか」

 

 キラリ、とドーマの目が光った気がした。

 嫌な予感ほどあたるもので、ごそごそと大きな荷物に手を突っ込んだかと思えば、ドーマは一握りの布にくるまれた何かを出してきた。

 

 「——失礼、あまり人には見られたくないもので」

 「いや、あんまり変な物出さないでくださいね?」

 「ご心配なく。見た目は宝石です」

 

 そういうとドーマはクラリスの隣りに座り、他の客から見えないよう、膝元で布をめくる。

 出てきたのは黒光りしてはいるものの、その輝きはどう見てもダイヤモンド、それもこぶし大もある。

 思わず驚嘆が漏れそうになるのを「しっ」とドーマが口に指をあて、牽制してくる。

 

 (ど、ドーマさん、なんてものを持っていらっしゃるんですか)

 (はっはっは。商人たるもの、これくらい扱うのは当然ですよ)

 

 どこか自慢げにひそひそと語るドーマだが、次第に表情は暗くなる。

 

 (とはいえ実はこの宝石、曰く付きでして)

 (曰く付き、ですか?たしかに黒光りするダイヤモンドは見た事も聞いたこともありませんが、呪いのたぐいとかでしょうか)

 (いえ、そこがはっきりとしないのです。しかし持っている物を不幸にするとかで、実はこれも半ば押し付けられたように買い取った者でして、扱いに困っているのですよ)

 

 曰く、付き合いのある貴族から結構な額で無理やり交わされたドーマ。しかしこの宝石を知っている者は欲しいとも思わず、かといってドーマと付き合いのある他の貴族に売るにも、あとからこの噂を聞きつけたらと思うと売るに売れない。

 

 (もしこの宝石の事が何か調査できるようであれば、金貨一枚をお出しします。どうですか?)

 (いや、でも何も分からないかもしれないですよ)

 (その時はその時です。貴女にとってはただスキルを使うだけ。何もわからなくてもデメリットはなし。どうです?)

 

 確かにデメリットはない。分からなくてもそれで終わりだ。

 しかし、とこれまでのフィーネとの検証作業が頭を過る。もしこれでこの宝石に何かしらの呪いがあれば、それが発現してしまう恐れがあるのだ。今のところ発現した能力は私にしか効力を及ぼさないが、果たして本当にそうなのか。

 もし宝石に呪いか何かが鑑定で宿ってしまったら、それこそドーマは売るに売れなくなる。

 

 (しかし呪いか何かが分かってしまえば、それこそ売るに売れなくなるのではないでしょうか。それはドーマさんにとっても損失でしょう?)

 (それは心配無用です。そうした類のものは教会に寄進すれば、清められることでしょう。これほどのダイヤであれば私の顔の覚えもよくなるというものです)

 

 商魂たくましいとはこの事か。鉱石商が教会と繋がるというのはあまり聞かないが、こういう事がきっかけで商売を広げていくのだろうか。

 

 (……わかりました。何もわからなくても恨まないでくださいよ)

 (ええ、お約束いたします)

 

 ふと、このまま簡易鑑定というのはまずい気がした。そしてその勘は当たることになる。

 

 (——簡易鑑定調査)

 

 『鑑定結果

  品名:ダイヤモンド

  品質:最高

  クラス:呪い

  呪われたダイヤモンド。品質は最高級だが生命を呪う力がある。多量の塩につけると呪いが解ける』

 

 (——なるほど、クラリスさんは調査員の方でしたか。それなら冒険者の恰好も納得がいきますな。して結果はどうでしょうか)

 

 スキル名を少し改変して発動したのがよかったのか、ドーマは私の職業を調査員と勘違いしたようだ。

 こうやって相手のボロを誘うのが商人か、と私はドーマに対して警戒感を一つ上げた。

 

 (あまり関心しませんわね、そうやって職業を推測するのは。——結果ですがやはり呪われています。内容は生命を呪う……生命を呪うとはどういうことか詳細には分かりませんが、しかし塩につけておくと呪いが解けるとも)

 (ほ、本当ですか!?)

 

 慌ててドーマは大量の塩が入った袋を持ってくる。

 

 (下手したら塩が使い物にならなくなりますよ?)

 (ラス連邦にいれば塩などいくらでも手に入りますよ。それよりも、早速この中に入れてみていいですかな)

 

 言うのが早いか行動が先か。

 ドーマはポトリとダイヤモンドを塩が大量に入った袋の中に入れ、埋めていく。

 

 (……どれくらいかかるものですかな)

 (そればっかりは私にも。取り出してみて再度調査してみればわかりますが、次回からは調査スキルの使用は金貨一枚としましょうか)

 (ぐっ……分かりました。お願いしましょう)

 

 これで呪いが解けていようがいまいが、金貨が手に入ることになる。旅費としては十分な稼ぎだ。

 

 「しかしクラリスさんは相当若いようにお見受けしますが、本当に聖リーサリティ学園に?」

 「ええ、そこは本当です。ちょっと特殊な出自でして、幼いころから聖リーサリティ学園で働いておりました。職業を決めた時に先生からは『調査員なら現場を知ってこい』と追い出されまして。今は修行の身、というところです」

 「なるほどなるほど。通りで所作が貴族然としておられて、言い方はあれですが、最初見た時はどうして冒険者の恰好をした貴族がいるのかと思いましたよ」

 「ああ……。まぁ聖リーサリティ学園で働く以上、貴族以上の振る舞いが求められますので」

 「よかったらどうです?他の鉱石も見られますか?」

 「生憎と、スキルの安売りはしないと決めておりますので。それに万が一のためにも、スキル回数は温存しておかないと」

 「はっはっは。それなら心配無用ですな。今通っているリュクロスへと続く道は、リュクロスの兵が頻繁に見回りしている交易路です。山賊や盗賊なんかは滅多に——」

 「山賊だあああああ!」

 

 遠くから響く悲鳴。

 他の客たちがなんだなんだと騒ぐ中、さーっとドーマの顔から血の気が引いていく。

 

 「——山賊、出ましたね」


メリークリスマス!

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