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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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事態が急変したのは三日後の事だった

 事態が急変したのは三日後のことだった。

 順調にゴブリンを狩り続け、森の入り口辺りには一時的にゴブリンが見つからない程にまでなり、この日は北の森に出ていた。

 北の森と言えばクラリスが山賊の根城から救出され、避難している時にサイクロプスに襲われた森である。

 しかし本来は北の森も浅い所ではゴブリンが多く、強い魔物が出てくることはない。

 しかしサイクロプスを討伐した直後は多くの冒険者が魔物の掃討のため北の森に入り、根こそぎ狩った経緯がある。

 そのため最初から北の森に行ったとしても、ゴブリンなどは全く見かけなかっただろう。

 一か月ほど経ってようやく、他の地域にいたスライムやゴブリンが北の森に住みつき始めた、という所だ。

 そしてこの日、クラリスはゴブリン二十体討伐を終えていた。

 昨日は十五体なので、これで三十五体。

 Eランクまでは折り返しだ。ちなみにスライムはあまり加点されないため狩っていない。ただ最低討伐数みたいなものはあるので、その分だけは先日の夜の森で狩ったのだ。

 町に戻ってきた一行が目にしたのは、とにかく忙しなく動き回る冒険者だった。

 ある者は道具屋に走り、ある者は行商や傭兵募集の依頼主へ、ある者は武具屋に新しい武器の調達へ、と。

 

 「なんか騒がしいわね。何かあったのかしら?」

 

 例えば魔物が攻めてきたなどの緊急事態があった場合、街中にある鐘楼が鳴らされるといった事があるのだが、なっていない所を見るとそうではないようだ。

 

 「——ああ、クラリスさん良かった」

 「何かありましたか?」

 

 ギルドに入るとマーレが慌てた様子で詰め寄ってきた。

 そのままクラリスはう腕を引かれ、受付から隣りの応接間へと案内され、『緑の刃』の三人も続く。

 

 「国からの招集です。Cランク以上の冒険者を至急拒絶山脈のふもと、鉱山都市クリシヤまで集めろと。ギルドは町の防備に影響が出るからと抵抗していますが、一部の冒険者は給金目当てで移動を開始しています」

 「Cランクか……。思ったよりも絞ってきたね。Dランク以上は強制招集かと思ったけど」

 「そこは事前に冒険者ギルドが横やりを入れました。けれどギルド側も、ここまで早く召集が来るとは思っておらず……。さらに悪いことに、国は冒険者の国外退去を封じる気です」

 

 ぎょっとした顔になる一行。

 それをみてマーレは予想が当たったとばかりに得意げになるが、事態の切迫差が許さない。

 

 「国は招集を拒否した冒険者やランクが満たない冒険者に対して、各地の防備に当て込むようです。そうなるとクラリスさんの正体がバレる可能性が高まります。なにせ、各地の防備には騎士団が数名ずつ派遣されるそうで」

 「それは……そうだろうね。もともと騎士団の中では知名度抜群のアルマーク家だ。剣技の流派としても有名だし、見る人が見ればすぐにわかる」

 「まったく、戦争でもないのに戦時下になったみたいね。——当然、逃げる手立てはあるんでしょ、マーレ?」

 「はい。国境封鎖は早くても一週間後。ギルド側が最大限抵抗して引きずり出しました。しかしその対価としてギルドは今回の招集を喧伝しており、やはり給金目当てで国に残る冒険者は多いと踏んでいます」

 

 鉱山都市クリシヤに行く者は日当で銀貨十枚。

 各地の防備に当てられた冒険者でも銀貨一枚。

 例えばクラリスが今日倒してきたゴブリン二十体だが、換金すると銀貨一枚。防備という名目で町にいるだけでお金が稼げるのだ。

 さらにそこで依頼をこなせば、依頼報酬もそのまま入るという。

 

 「ここから隣国のラス連邦へは馬車で二、三日。しかしこの状況だと馬車が捕まるかどうか、か」

 「そこはご安心を。各地のギルドが最大限動き、国外へ行く冒険者を後押しします。逆に国外から来る冒険者への足にもする予定ですが」

 「なら時間はまだあるわけか……。ちなみにクラリス君。今の時点で君はどうしたいとか、考えがあったりする?」

 「私ですか?」

 

 当事者なのだから、とバルに言われれば確かにそうだ。

 しかしもとより答えが決まっていたので、妙に人ごととして見ていた事に気付く。しかしそもそもクラリスはどうしてこのような状況になっているかを本来は知らない。そう、本来は。

 

 「ええと、いまいち話の流れが読めないのですが、もしこのままだと国外に行けなくなるというのであれば、私は国外へ行きます。このままでは冒険者として動けなくなるでしょうし、実家に見つかったら面倒ですので」

 「——案外と、すぐ決断するね」

 

 盗み聞きしてからずっと考えてました、なんていえない。

 

 「それに今の職業ではアルマーク家に戻ったところで、爪弾つまはじきにされるのが目に見えていますから。問題は、向かう先がラス連邦でいいかという所ですね」

 「それについては一旦家に帰ってから話そうか。僕ら『緑の刃』も今回の招集は対象になっているわけだし、今後の身の振り方についても教えられることも多いと思う」

 

 

 * * *

 

 「まずはこんなことになっている状況から話そうか」

 

 席につき、お茶を用意したところでバルがそう切り出した。

 ニア国の拒絶山脈の開拓と、それに対抗心を燃やすドラゴニア帝国の思惑と最近の噂。

 

 「噂は少し前からあってね。僕たち『緑の刃』としてはここで正直、拒絶山脈に行く気はない」

 「拒絶山脈と言えば、大陸の北、ドラゴニア帝国からニア国にかけて広がっている未踏の山脈ですよね?ニア国も今更どうしてそこを開拓するのでしょうか」

 「それは分からない。今言えることはドラゴニア帝国とニア国にいる冒険者はどちらにしろ何かしら活動しにくくなるという事だろう」

 

 はっきりしない以上、ニア国に退避するのも難しい。それにここからニア国は三週間ほどかかる。どの道一旦は南のラス連邦に行くしかないのだ。

 そして、バル達が私をすんなりとパーティに加えてくれると考えてないのであれば、ここは私自身の考えを話した方がいいだろう。

 

 「このまま国を離れるようでしたら、私はライダル国まで行こうかと思います」

 「——いきなりだね。いや、クラリス君としてもう考えがあるのかな?」

 「一つはラス連邦は内戦が絶えない国だから、というものです。ダンジョンは魅力的ですが、攻撃スキルが無い私にとってはダンジョン攻略というのは重荷でしょう。それにランクが低い状態では、ダンジョンの外でも治安が不安定というのはリスクでしかありません」

 「……そうね。確かにそういう意味ではラス連邦は稼げるところではあるけど、安全に暮らせるかと言われればそうではないかしら」

 

 それに、と私は続ける。

 

 「ラス連邦は隣国です。ダンジョンの噂話は屋敷でもよく耳にしていましたし、聖リーサリティ学園にまで届くほど。おそらく各国の間諜もいるでしょうから、やはり私が直ぐにダンジョンに行くのは得策ではないでしょう」

 「とは言っても、ライダル国は知っての通り、ドラゴニア帝国の者には厳しいところだぞ」

 

 そう、私が目指すライダル国は、かつてドラゴニア帝国が勃興する際に、ここを追い出された竜人族と、逃げた先で出会った人々が興した国だ。

 故にドラゴニア帝国の者たちに良い思いを頂いておらず、またライダル国の周辺は強い魔物が出るという事で半端な冒険者は食っていけないと有名である。

 

 「それでも、です。流石にドラゴニア帝国の者だからといって取って食われることはないでしょう?」

 「それはそうだが……」

 「どうしても我慢できなくなればまた移動すれば良いだけです。ニア国とドラゴニア帝国の拒絶山脈開拓も、数年もすれば全貌が見えて来るでしょうし、それこそ冒険者から不満が募って瓦解しているかもしれません」

 「クラリスちゃんは、私たちと一緒に来る気はない?それとも私たちの事は嫌い?」

 

 そんなことはないと首を振るが、エルが沈んだ顔でこちらを見てくる。

 

 「山賊から助けていただき、そして右も左もわからない私を冒険者として育ててくれた事、とても感謝しています。けど、私がいたら『緑の刃』はとても活動しにくいでしょう。そしてそれを一番感じているのは、バルさん」

 「——痛い所を突かれたね」

 

 苦笑するバルに、フィーネが続く。

 

 「正直に話をすると、そろそろ私たちの資金も余裕がなくなってくる所だったわ。それにバルが本格的に復帰できそうとなれば、私たちも本来のBランクパーティとして活動に戻る予定だった。そうなればクラリス、貴女は任務には連れていけない。——別に一緒に暮らすだけならいくらでもいいんだけどね」

 「いえ、それはきっと負担になります。実力が伴わない私が一人で行動する事で余計な心配を生むでしょう」

 「そう。そこまで貴女が考えているなら私からは一つだけ。——もしどうしても辛くなったら私たちを頼りなさい。十年後でも二十年後でも。バルはどうなっているか分からないけど、少なくとも私とエルはきっと冒険者を続けているだろうから」

 「……ありがとうございます」

 「——そうと決まればだ!」

 

 バルが勢いよく立ち上がる。

 ポカンとする三人、バルは宣言した。

 

 「出立は四日後。それまでの全てで、クラリス君をEランクまで引き上げる」

 「そう、だね!私たちに出来る事と言えば、クラリスちゃんを強くしてあげる事だもんね!よーし、がんばっちゃうよっ!」

 「え、ええと皆さん?」

 

 そっと、フィーネの手が肩に乗り、顔を振られた。

 

 「ごめんなさい。たぶんあの二人は止められないわ」

 

 地獄の特訓メニューの始まりだった。

 

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