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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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今までに経験したことが無いことを目にすると

 今までに経験したことが無いことを目にすると、人は驚くだけの者とそれをどう生かしていくかと逡巡する者とに分かれる。

 もっとも、それが良し悪しどちらに傾くかは、その者次第だが。

 『緑の刃』パーティの家。そのテーブルにはしなびた薬草とまだまだ青々とした薬草が並べられている。

 

 「——興味深いわね。伊達に長い事冒険者をしてないけど、こんな現象を見たのは、それこそ国宝級とか呪いの武器とか言われているものだけね」

 

 クラリスがエルとフィーネに簡易鑑定結果を相談したのは昨日。鑑定士というマイナーな職業のスキルなので分からないことだらけだと色々相談していたが、エルが「実際にナイフで取って、一晩おいてみたらいいじゃん」とのことで決着した。

 ギルドで追加の薬草採取依頼を受け、今回はちゃんと野ウサギを納品用として狩り、ギルドへ無事報告を終えて帰ってきた。

 そして机の上に薬草をいくつか置いた。

 一つはクラリスが普通に手で採取したもの。

 一つはクラリスがナイフで採取したもの。

 さらに同じ条件でフィーネが採取した薬草の、合計四種類。

 

 「さらに分からないのは、私がナイフを使って採取した薬草も、他と同じように萎びていることね」

 

 そう、青々とした薬草はクラリスがナイフで採取した物のみ。

 同じナイフで同じようにフィーネが採取した薬草は萎びているのだ。

 

 「持ち主を選ぶのかしら?いえ、それよりもそもそもどうしてナイフにこんな性能が付与されて?」

 「でもこれってクラリスちゃんが武器屋のおっちゃんからおまけでもらったナイフだよね?しかも大量在庫品だったし」

 

 エルの言う通り、このナイフは長剣を買ったときにタダで貰ったものだ。たくさんあるからと半ば押し付けられるように貰ったのを覚えている。

 

 「——どの道もう少し検証が必要ね。そもそも本当にこのナイフの性能が正しいのかどうかも、実験が足りないわ。今日はもう少し多めに薬草を採取して、比較してみましょう」

 

 「——なにやら面白そうな事をしているみたいだね?」

 「あ、バルさん」

 

 階段から降りてきたのは昨日まで入院していたバル。

 一週間の安静期間を経て、ようやく退院が許された。普通の人なら一か月程度は入院していそうなものだが、『緑の刃』パーティが持っていた中級ポーションのおかげで治りはだいぶ早いそうだ。もっとも、中級ポーション一つで今いる家が半年借りられる額だと知ると、気軽に使えないものだとは思う。

 

 「——なるほどなるほど。クラリス君の鑑定スキルを使った所、薬草の鮮度を保つ能力があったと……。にわかには信じられないけど、このテーブルの上の薬草の結果が本当だとしたら、かなり冒険者向きなスキルな」

 「そう?薬草が一日長持ちしたって、ポーションの品質に影響なんてそんなにないよ?」

 

 そんなことはない、とバルが薬草を手に取る。

 

 「Eランクまでの冒険者は薬草と狩りが収入の下支えなんだ。まだクラリスはGランクだけど、Fランクになれば泊りがけでのクエストも出てくる。その時に鮮度が一日長く持つってことは、それだけ複数のクエストを受けやすくなるんだ」

 「……そういわれれば、そうかも?」

 

 冒険者ギルドも薬草の採取を何も慈善事業としてやっているわけではない。その後ポーションとして加工するために依頼を出しているのだ。当然、品質の悪いものは買い叩かれるか、そもそも受け取り拒否だってある。

 

 「それに薬草単体でも一応は傷薬として使えるわけだし、常備していて悪いものじゃ——」

 「——そんな貧乏人の苦労話はいいからクラリス、もっと実験しましょう。長話していたら日が暮れてしまうわ」

 「フィ、フィーネさん?」

 

 そこには目を爛々《らんらん》と輝かせているフィーネがいた。

 身長がクラリスよりも低いことも相まって、まるで妹が姉におねだりしているような、そんな感覚を受けてしまう。

 

 (——そういえば、うちの妹も来年はあの学園に通うのよね)

 

 ふと実家の事を思い出した。

 二人の兄は既にドラゴニア帝国の騎士団に、姉は魔術研究院に行った。由緒正しいアルマーク家だけあって周りからの視線はかなり厳しいものがあるのだが、クラリスの兄姉けいしはかなり優秀だ。

 スキルが全くの籤運くじうんということもあり、貴族はこぞって子供をたくさん産むのだが、当代のアルマーク家に限っていてば、すでに豊作状態である。

 さらにクラリスの下にもあと二人、妹と歳の離れた弟がいる。

 弟妹にはよく懐かれていたもので、学園に入る前までは今のフィーネと同じように、いろんなものをせがまれたものだ。

 

 「——ああ、どうしてナイフ一つでこんな事になるのかしら。付与魔術?確かに職業として魔法職人はいるけれど、あれは魔法を使った物作りなだけで、出来上がったものになんの魔法的な効果はないものね。だとしたら作り手のスキル?けれど大量生産品のこんなナイフにまで効果が宿るのかしら。ううん、そもそもこのナイフはクラリスが鑑定する前からこの効果を発揮していたのかしら。もしそうじゃないとしたら、それを見つけるのがクラリスのスキル……?ああ!考える事が山積みね!」

 

 違った。

 フィーネのそれは完全に研究者としての目である。

 未知の減少を前にして、その秘密を解き明かさんと意気込む者の目だ。

 

 「あー久々にスイッチ入っちゃったかぁ」

 「え、エルさん?スイッチって何ですか?というかフィーネさんは大丈夫なんですか!?」

 「ああうん、別に問題はないよ、うん。まぁクラリちゃん、強く生きてね?」

 「ど、どういう——」

 「さぁクラリス!さっさと薬草採取にいくわよ。ギルドの依頼なんてどうでもいいわ。報酬なら私から出してあげるから」

 

 あれよあれよとフィーネに引き連れられ、二人は家を飛び出していく。

 「あ、まってよ!私も行く!」とすぐさまエルが続き、残されるバル。

 

 「……いや、ランク上げるためにも依頼は受けろよな?」 

 

 依頼の代理受理は可能だったろうか。

 バルも凝り固まった体にリハビリを兼ねて、身支度を整えて冒険者ギルドへ向かうのであった。


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