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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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野ウサギを追っていたら、いつの間にか鬱蒼とした

 野ウサギを追っていたら、いつの間にか鬱蒼うっそうとした森の中に足を踏み入れていた。

 はた、と我に返ったクラリスは直ぐに森を出る。

 新米冒険者が一番命を落としやすいのは森だ。

 森には低級モンスターのスライムを始め、ゴブリンやオーク、ウルフと言った初心者が立ち向かうには厳しいモンスターが出る。

 クラリスは追いかけていたウサギを諦め、別のウサギを探す事にした。

 

 「随分慎重ね。私たちがいるんだからもう少し森に入ってもいいのよ?」

 「いえ……、フィーネさん達がいると分かっていても、暗い森の中に一人で入っていくのはちょっと……」

 

 せめて森の中に入ってく道であればまだいい。

 けれど道なき道で枝葉をかき分け森に入ってくのは御免被りたい。

 クラリスは森から少し離れた丘に登る。

 この時期、野ウサギにとっては換毛期であり緑が広がる丘に立てば、すこし色が違うところを探せば簡単に見つかる。

 あとは気配を消して近付くだけだ。

 そう、消せればの話である。

 

 (学園じゃこんなのやらなかったわ……!)

 

 聖リーサリティ学園では座学の他に剣や槍、弓といった武器の扱い方の授業はあったが、気配の殺し方なんてものはない。

 遠くで見つけて野ウサギまで三十メートルほどまで近づくと逃げられてしまう。

 繰り返すこと三度。

 このままでいいのかと自問しながら、しかし職業柄攻撃スキルも罠スキルもない。

 

 「簡易鑑定!」

 

 彼我の距離五十メートル。これくらいなら少し騒いだところで逃げられないだろうとダメもとで簡易鑑定を使う。

 

 『鑑定結果

 種別:野ウサギ

 状態:興奮

 ユビク大陸全土に生息。臆病で近付いてくる者から逃げる習性がある。薬草が好物』

 

 (や、薬草が好物なの?)

 

 瓢箪から駒が出るとはこの事か。

 クラリスはバッグから色つやがいい薬草を手に持ち、野ウサギに見えるようにして近付いていく。

 

 「——お、おぉ?」

 

 薬草に釣られたのか、なんと野ウサギの方からぴょんぴょんと近付いてくるではないか。

 足元まできた野ウサギはクラリスのブーツを叩き、薬草をせがむ。

 

 「こんな方法があるとはね……」

 

 クラリスは薬草を与えながら野ウサギを抱え込む。

 もふもふとした手触りのウサギは、腕の中で抱えられながら薬草を一心に食んでいる。

 

 「やるじゃないクラリス。野ウサギをすんなり捕まえるなんて初心者じゃ早々できないわよ」

 「ということは、冒険者の方は常識なんですね?」

 「そうね。そもそも薬草の採取依頼と野ウサギの狩猟依頼がおなじGランクなのは、最低限この特性に気付いてもらうためだから。ちなみに攻撃スキルが使える人は迷わず野ウサギをぶった切ることが多いわ」

 

 薬草を食べ終わったのか、暴れ始める野ウサギ。

 慌てて次の薬草を採りだして与えれば、大人しくなる。

 問題はここからだ。

 

 「じゃあクラリス。準備はいいかしら」

 

 フィーネが念押しとばかりに問うてくる。

 そう、野ウサギの狩猟を選んだのはエルとフィーネに野ウサギの捌き方を教えてもらうためでもあるのだ。

 クラリスは野ウサギを下ろすと、薬草に夢中な野ウサギの頭を鞘に収まったままの長剣で思い切り叩く。

 初心者ならここで狙いを外してしまい、逃げられることもあるだろう。けれどアルマーク家に生まれ、幼いころから戦いを体に染み込ませてきたクラリスは、外さない。

 ゴンッ、と柔らかいものを叩いた感触が手に伝わり、ウサギが倒れた。

 

 「まずは血抜きね。耳を掴んで持ち上げて。——そう。後ろから抱えて首元をナイフで裂いて」

 

 フィーネの淡々とした解説に、クラリスは無心で従った。

 温かかった野ウサギは直ぐに冷たくなり、命が消えて肉となったことをじかに感じる。

 それでも自分が選んだ道だからと自分に言い聞かせ、なんとか野ウサギを捌き終わる。。

 内臓はクラリスではどうにもできないためにその場で埋め、肉は専用の袋に、毛皮は紐でバックに括り付ける。

 これをあと二回繰り返さなかければならない。

 血の匂いは事前に購入しておいた消臭剤で消し、さらに雑草や土の匂いを手に擦り付けていく。

 

 「次からは薬草に釣られてきた野ウサギをそのまま捌くわよ」

 「はい……」

 

 案外と、フィーネはスパルタだった。


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