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追放された令嬢は鑑定士となる  作者: えだまめのさや
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昼下がり。冒険者ギルドはゆったりとした時間が流れていた

 昼下がり。冒険者ギルドはゆったりとした時間が流れていた。

 多くの冒険者は大体午後三時以降にならないと帰ってこず、夜の喧騒とは違い、マーレとネルが書類にペンを走らせる音だけが響く。

 そんな冒険者ギルドに来客があった。

 まだ少女とも呼べる来客はギルドの扉をくぐると、迷うことなくカウンターへと脚を運ぶ。

 軽装に皮鎧と、この辺りでは新米の冒険者が身に着けるような服装の女性。腰には細身の長剣を佩いている。

 手を止めたのはネル。

 

 「いらっしゃいませ。本日はどんなご用件でしょうか?依頼でしたらこちらで、迷子や緊急の案件の場合は隣りのマーレが受け付けております」

 「えっと……冒険者になりたくて、来ました」

 「冒険者ギルドへの加入をご希望ですか?失礼ですが、ご職業の保持またはご年齢を確認できるものはお持ちでしょうか。当協会は職業を選択していない方、もしくは十七歳未満の方は安全のためご入会できません」

 「職業ならもう就いています」

 「そうでしたか。ではこちらにお手を」

 

 ネルがカウンターから取り出したのは両手で抱えるほどもある大きな丸い水晶だ。

 光が透き通り、乱反射を繰り返して光の破片をあたりに散らすそれに、静かに手を当てる。

 直ぐに変化が現れた。

 水晶に浮かび上がるのは名前、年齢、性別、職業。

 それらを手早く書き写し、マーレへと渡す。

 

 「——ありがとうございます。クラリス・アルマークさんですね。ご職業は鑑定士と、たしかに確認いたしました。すぐにギルドカードを発行いたします。ところで、冒険者ギルドについての説明は必要ですか?」

 「はい、お願いします」

 「では、まずは当協会のランク制から——」

 「いや、いつまで他人行儀なのよネル」

 

 あいた、と悲鳴が上がる。

 マーレが投げたチョークがネルの額に当たったのだ。

 

 「クラリスさんもネルの悪ふざけに付き合わなくたっていいのよ」

 「あ、いえ。公私混同しない人なのかなぁと……」

 

 「この娘がそんなわけないでしょ」とマーレは出来たてほやほやのギルドカードをクラリスに渡す。

 

 「これが今から貴女の身分証よ。ランクはGランク。要は見習いね。Eランクまでは自分と同じランクの仕事を三十回こなすか、評価相当の依頼をこなせば自動で上がるわ。Eランクからはその人の技量と功績に応じて評価される。昇格試験もあるから、強いパーティに入っていれば勝手にランクが上がるなんてこともない、完全な実力主義よ」

 「……はい」

 

 くすんだ色のギルドカードを受け取り、クラリスは大事にバッグへとしまう。

 

 「依頼は同時に三つまで受けられる。依頼受注時と達成報告時はギルドカードを提示してもらう必要があるから、忘れずにね」

 「それで、クラリスさんは早速行くの?」

 「はい。外でエルさんとフィーネさんが待ってくれていますから。あと、最初の依頼は自分で受けなさいって言われました」

 「そうね~。やっぱりどんな高ランクの冒険者の人も、最初に受けた依頼ってのは結構思い出深いみたいで、結構話題になるわ」

 「……っふふ。やっぱりネルさんはそっちの口調の方が似あってますね」

 「そ、そうかしら?」

 「うちのネルを甘やかさないでください。つけあがりますから」

 

 マーレに睨まれシュンと大人しくなるネル。

 姉妹の駆け引きに笑みを浮かべながら、クラリスは入口横、大きな掲示板に歩みを進める。

 ここには中継都市アーライ中の依頼が集められ、中には少し離れた村などからの依頼もあったりする。

 

 「薬草集めはいつでも出ているわ。それと薬草を調合したポーションの納品依頼もね。ただポーションを作れるのは調合士とか薬剤師の仕事だから、正直ポーションが納品されるのは稀ね」

 「そうなんですね。ちなみにGランクがEやFランクの仕事を受ける事はできるんですか?」

 「出来るけどランクは上がらないわ。FやGランクの依頼は半分が冒険者ギルドから出ている依頼で、新米冒険者の能力を見るものとなっているの。ようは基本を押さえなければ次のステップには行けないってことね」

 「なるほど。結構考えられているんですね」

 「ま、冒険者ギルドも無駄に死人を出すのは嫌だからね。クラリスさんはそうでもなさそうだけど」

 

 そうだろうか。

 たしかに武術は骨の髄にまで染み込んでいるが、実際に魔物と戦ったことはない。あくまで訓練でしかないのだ。

 

 (——そういえば、学園だと職業が決まれば魔物相手の実践があるはずね)

 

 必ずしも貴族が戦場に出るとは限らないが、聖リーサリティ学園では貴族の務めとして戦闘訓練がしっかりある。さらにここドラゴニア帝国は建国神話でドラゴンを倒した勇者が興したとされる国だ。

 貴族にとって軍事力と同列に、個の強さを重要視している。

 そういう意味では、あのままクラリスが学園や実家に残っていたところで戦闘系の職業につけないようでは、きっと失望されただろう。

 

 「これと、これにします」

 「じゃあギルドカードを出して。——薬草採取と野ウサギ狩りね。ウサギはエルさんから弓を借りた方が楽よ。はい、カードを返すわ」

 

 ネルからカードを受け取り、二人に見送られながらクラリスはギルドを後にした。

 

 「——無事依頼を受けれたようね」

 「はい、フィーネさん」

 「じゃあ早速いきますか!」

 

 合流した三人は一路、街の南門を目指して通りを下っていく。

 日差しがたっぷりと降り注ぎ、暑くなりそうな空気がふわりとクラリスの頬を撫ぜ、街中を駆けていく。

 これから始まる生活に期待を不安を胸に詰め込んで、クラリスは一息。決意を秘めた瞳で空を見上げる。

 

 (これからよ。これからが私の新しい人生の始まりなんだから)


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