安心はどこに
「死にたい」
もがき苦しみ、こぼれ落ちたようなか細い一言は、早兎の過去の記憶を蘇らせるには十分だった。
目の前にいる少年は、苦しみと絶望のとても暗い場所にいるのだろう。
「……だろうね」
とっさに出た自分の言葉に、驚きと安堵の感情が湧き出る。
どんなに親しく大切な家族や友人、多くを救い成功者と呼ばれる人たちやその地位にいる人たちの言葉でさえ救えない、届かない場所に彼はいる、はずだ。
そもそも彼は救いを求めていないのかもしれない。
人の気持ちはわからない。それでも知りたいと、触れたいと思うのは遺伝子や本能なんだろうか。
「……本当に死ねる……?」
相手の心の傷や苦しみを無視し、土足で踏み入る。おそらくさらに傷つけ苦しめてしまったかもしれない。
過去の自分を救うにはどうすればいいか、脳が焼き切れたと思うほど考え、探してきたが見つからなかった。
自分に期待してはいけない。目の前の今にも消えてしまいそうな少年を救えるとは思っていない。いけない。
どれだけ努力しても、運が良くても届かないモノが、ここにはある。
現実はそこまで良い場所ではない。
どこまでいっても生物はいずれ全てをなくすことが確定している。
「……もし死ねないなら……」
それでも
「……話し相手くらいには、なるよ」
独りは、寂しいから、ね。