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 パァァアアアアッッッ!!!!

 彼女が「妖精」と呟くのと同時に妖精らしき小人とベリティの左手の薬指が眩しい光に包まれた。

「何!?」

 思わず右手で小人を支えながら左手を振り払うも光は収まる気配が無い。小人に包まれた光とベリティの指の光がまるで糸のような光に結ばれ、段々と輝きが収まってくると、ベリティは指に違和感を覚えてきた。

 指輪だ。

 プラチナの三つ編み柄のリングに、3つの白い宝石が埋め込まれている。

「指輪?」

 彼女は小人を左手に移し替え、まじまじと指輪を観察しようと外そうとしたが、

「え。嘘でしょ」

 外れない。それ程キツく指に嵌められている感覚は無いのにどんなに強く引っ張ってもピクリとも動かない。

「何で外れないの!?」

 すると突然、ピクッと小人が目を見開き、透明な羽根を羽撃かせて浮かび上がった。

「おまえ、その指輪………!?」

 まだ痛むのだろう、片手で頭を抑えながらよろよろと浮かんでいる。


「まだ火が残っているかー!?」


 突然、大人の男達の大声が聞こえた。荒々しい足音が夜の森に響き、次第にベリティにも振動が伝わってくる。

「いたぞ!」

「ベリティ!!」

 男の集団の中に彼女の父親の姿もあった。彼女を見つけるなり

「またお前の悪ふざけか!!」

 父の手は彼女の頬をバチンと叩いた。ベリティにとって親の手の存在は抱く為ではなく、子どもの戒めの為。赤く染まってじんじんと疼く頬を彼女は自分の手を添えた。夜に溶け込んで見えない程小さく震えながら。

「大変申し訳ございませんでした!! キツく罰しておきますので、今後ご迷惑をかけぬように努めますので!!」

 そしてベリティに背を向け、大きな背中を曲げて他の大人達に頭を下げた。大人にとって1番大事なのは世間体。父にとっては娘の言い訳を聞くことよりも、騒ぎを起こした娘にキツく叱るのを見せつけ頭を下げる方が重要なのだ。


 ただ、同年代の男女を救いたかっただけなのに。


 けれど、もし話したら今度は彼等が叩かれるかもしれない。頬を痛ませる手を知らない方が良い。それに、話したところで信じてもらえないかもしれない。

 だったら何も話さない方がいい。

 ベリティは熱くなってしまった頬を泥だらけの手で添えながら父親の後を無言で付いて行った。

「お前なんかが貴族として産まれるべきではなかった」

 顔も見ずに前方から罵られる。


 ―――――私だって妖精として生まれたかった。


 そっと指輪を見て、彼女は目の輝きを失せながら煌びやかな屋敷へと戻って行ったのだった。




「はぁ…………」

 部屋に着くなり汚れた服のままベッドにうつ伏せに倒れる。「どうしてわざとベッドを汚すようなことをするの!?」と明日母に叱られるだろう。それでも彼女の心と身体は倒れることを選びたかった。もう立ち上がる気力さえ残っていなかった…。


「おい、どうして人助けをしたからって言わなかったんだよ!」


 声がして仰向けになると、天井にパッと先程の小人が姿を現したのだった。痛みが消えたのか滑らかに宙を浮いている。

「あなた、妖精!?」

 思わず上半身を起き上がらせたベリティ。彼女の瞳に妖精がキラキラと映る。

「オレ様の質問に答えろ! 勇敢なくせに何故胸を張って正直に言わないんだ!?」

「別に私の勝手でしょ!」

 明らかに納得していない妖精らしき小人。急降下し、ベリティの顔の目の前で止まった。彼女の顔よりも彼の方が少し小さい。

 人形のような短い腕を伸ばし、小さな小さな手が彼女の赤い頬を撫でた。

「痛いだろ。お前の頬は叩かれる必要なんか無いのに」

 撫でられるというよりくすぐったい感覚。ベリティは唇を結び、僅かに俯いた。

「痛みをすぐに消したいだろ? オレ様に願えばすぐに魔法で消してやるよ」

「魔法!?」

 魅惑的過ぎる言葉にベリティが俯いていた顔を勢い良く上げる。

「そうさ、オレ様はハック! 魔法の名人、妖精様だ」

 えっへんと胸を張って自己紹介するハックにベリティは久々に瞳に生命力を蘇らせた。

 いつ以来だろうか。こんなにも心から楽しそうと胸を弾ませたのは。

「だ〜か〜ら〜、お前さんが願えば魔法でちょちょいっと痛いのを消してやるってば♪」

「それよりも他の魔法がいいわ」

「お、おぅ!? 痛くないのかよ」

 何やら考え込むベリティを見て、ハックは彼女の周りをパタパタと落ち着かなく飛び回る。

「ほらっ、願いなんていっぱいあるだろ!? どんどんオレ様の魔法で叶えちまえよ!」

「願い事は厳選しないと。色々後先も考えないといけないし」

「そんなことしている内にオレ様がいなくなっちまうかもよ!?」

「あら、そんなことないでしょ?」

 くすりと悪戯な笑みを浮かべてベリティが差し出したのは彼女の薬指。指輪だ。

「あなたと私、これで繋がっているんじゃなくて?」

「なっ!?」

「見ちゃったの。私達が光で繋がっていたのを。運命の赤い糸みたいにね」

 わなわなとハックが表情を強張らせる。だが、すぐに何か思いついたらしくパッと表情を変えて笑顔を取り戻した。

「バレちまったらしょうがねぇ。側にいなくちゃいけないから何でも願い事を言えばいいよ」

「いくつまで?」

「えっ!?」

 ベリティがまじまじと指輪に埋められた3つの宝石を眺めた。

「流石に無制限ってことは無いわよね。石の数からして3つまでってところかしら」  

「………………」

 頑なに口を閉ざすハック。そしてベリティは微笑んだ。悪役令嬢の微笑みで。

「あらハック。じっくりと少しずつ石が消えるのと、ずーっと願い事を叶えさせないのと、どっちがよろしくて?」

「さっさと3つの願いを言いやがれ〜っ!」

 必死になって顔を見ながら言い返すハックとの会話に、ベリティは密かに心が穏やかになっていき、頬の痛みも忘れてしまったのだった。魔法をかけられなくても。


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