第十九話 運の尽き
今回初投稿です!
楽しんでいただけると幸いです。
準備を終え私たちは店から出る。奴はまだ瓦礫を漁っている。瓦礫の中から時折出てくる人間の体を潰して回っている。奴をこえて左に曲がり、100メートルほど進めば海軍基地の中に入る。そのまま空母に向かって400〜500メートルほどだろうか。まぁとにかく、奴を越えさえすればすぐに安全なところに行ける。
3人で一列になり進んでいる途中、私は考え事をしていた。
本来なら私たちは動くことさえできなかっただろう。見つかれば殺されるという恐怖と緊張に、ただの女子高生が打ち勝つことは不可能に思える。
"私たちは狂ってしまったのかな…"
最初は自分の血ですら恐怖で身が竦んだというのに、人の死体を見て根源的な恐怖を感じたというのに。
いや、私は本当にそのように感じたのだろうか?ただ目に映るその光景を淡々と処理していただけではないか。そこに暖かな、人らしい感情があったことなど一度もなかったくせに。私は人らしくありたいが為に、そう思ったと思い込んでいるだけなのではないだろうか?
"私たちはとっくに狂ってる"
その現実が、私の心を暗闇へと引き摺り込んで、鎖で雁字搦めにするような感覚が広がる。
そこから現実へと引き戻されるまでの時間は、奴が一歩進んだ振動が伝わるまでの僅かな時間だったが、私にはそれが長大に感じられた。
その振動が近づいていることが分かった瞬間、私たちはみんな一斉に固まった。肌からは冷や汗が吹き出し、目でさえも動かすことはできない。
今私たちは道路の左端にある小さな瓦礫の山に身を隠している。3人をなんとか隠せるほどの大きさだったが、安心感を得るには充分すぎるものだった。
しかし奴の足音が近づくにつれ、その安心感は恐怖へと上書きされていった。
私は目を瞑り、信じてもいない神へ祈る。そしてフッ化水素のボトルを握る。
奴の足音が止まり、ギギギ…と、機械の足を動かす音がする。次の瞬間、大きな音と共に巨大な振動が起こった。
すぐ横、私たちがいる瓦礫から約5メートルほど離れた別の瓦礫が吹き飛んだ。奴は足でその瓦礫をガツガツと突き刺している。
体感で30秒ほど経った。奴のガツガツと突き刺す音が止んだ。覗き見てみると、穴だらけになった瓦礫を奴が覗き込んでいた。まるで捕食者が獲物がどうなったかを確かめるように。
強い風が吹いた。ビル風が私たちの髪を揺らし、また、風の音だけがこの世界に響いていた。
瓦礫の下から鮮血が流れ出す。奴はおそらく聞いたのだろう。瓦礫の下に居る人の呻き声を、助けを求める鼓動の音を。
私は口を押さえて瓦礫に寄りかかる。嫌な匂いがした。その匂いから逃げるために、体を小さく丸める。鉄の匂いと潮の匂い。それらが混じり合ったドロドロとした匂いから、ただ私は逃げたかった。
しかし奴はそんなことお構いなしだ。ギィギィという音がしたかと思えば、奴は瓦礫を蹴り払った。
"そこで私たちの運は尽きた"
空へ舞い上がった瓦礫は、あろうことか私たちに飛んできた。私たちの背後にあった瓦礫に直撃し、私たちは空へと投げ出される。
その拍子に私の持っていたフッ化水素のボトルはどこかに飛んでいってしまった。
(なんで…なんでこっちに瓦礫が飛んでくるのよ!?)
私は限りなく無限に引き延ばされた時間の中、この世界の不条理を呪う。こんな偶然で殺されてたまるものか。しかしどうしようもない。悔しさが込み上げてくる。地面はもうすぐそこにあった。
私の体は左手から不時着した。地面とほぼ垂直に突っ込んだ左手はクッションの役割となったが、代わりに左手はあらぬ方向へと曲がっていた。ほぼ180度回転した私の体は、地面に叩きつけられた後、ゴロゴロと転がった。そして私は壁に叩きつけられる。
もはや痛みという域を超えていた。体が熱いのだ。その熱さに悶える暇もなく、遅れて飛んできた瓦礫が私の左腕を潰す。0.1秒の刹那、私は腕を失った。
「あ゛あ゛ああああァァァァァァ」
私の言葉にならない叫びが木霊する。体から嫌な汗が吹き出て、私の口から涎がダラダラと垂れる。はぁはぁと息が荒くなる。今すぐ泣き出してしまいそうだ。いや、もう泣いている?分からない。
左隣から鈍い音がした。千が壁に叩きつけられていた。幸い瓦礫が彼に当たることは無かったが、重傷であることは言うまでもない。
(痛い。痛い。イタイイタイイタイ。苦しい。くるしい。)
私は声にならない叫びを上げながら、足をジタバタと動かしていた。そうして少しでも痛みから逃れることしか考えられなかった。
虚な目で見上げると、そこには近づいてくる奴の姿があった。
私は動けずにいた。動くと痛いから、そしてもう動く気力もありはしないから。
「殺しなよ。ほら、動くこともできない」
「唯一の武器もどこかに飛んでいっちゃった」
「ねぇ…どうして私たちを殺そうとするの?」
私は静かに奴に問いかけた。問いかけたと言っても、私は顔を上げることもできず、掠れた声しか出せない。地面に向かって独り言を呟いていたも同義であった。
奴はそんな私を少し見つめた後、ゆっくりと足を近づけてくる。奴の足が私のお腹のあたりを掴み、ゆっくりと私は持ち上げられる。
(嘘でしょ……やめてよ)
私の左手は瓦礫で潰されてはいるが、まだ繋がっている。そんな状態で私を持ち上げようとすれば、どうなるかは明白だ。
私はゆっくりと目を瞑った。この後に来る苦痛に耐えるために。
それは驚くほど静かだった。
パキッという骨の折れる音。布の破れる音。そして私の声。
それだけだった。
皆さん初めまして、ブルングです。今回初投稿ですので、もしかしたら読みにくかったりするかもしれません。
誤字脱字等ありましたら、コメントで指摘していただくと嬉しいです。(他にも、ここが読みにくい などのコメントもお待ちしています)
読んでくれてありがとう!!!




