第十話 いつかまたここに
今回初投稿です!
楽しんでいただけると幸いです。
その後20分ほどトラックに私と明音は揺られていた。本来なら十分ほどで着くであろう道でも、瓦礫と炎が散乱しているがために、速度が出せないでいるようだ。また、これには残りの生存者を探すという目的も含まれているようだった。
「人……居ないね」
明音がつぶやいた。ここまでの20分、救助されたのはわずかに3人。この街の人口からすれば、驚くほど少ないものだった。
「生き埋めになってるのかも」
私はつぶやいた。
「じゃあ、助けてあげないと!!」
明音がバッと顔を上げ、私に言う。その顔には彼女の優しさが滲み出ていた。
しかしこの状況ではその優しさは命取りとなる。あの機械からの砲撃は止んでいたが、いつ襲ってくるか分からない。そんな状況で悠長に瓦礫を取り除いてなどいられないことは、誰もが分かっていた。
「仕方ないでしょ。助けてる間に撃たれるかもしれないんだから」
私は明音を納得させるように言った。
「でもぉ……でもぉぉ………っっ」
明音は手足をバタバタさせる。目の前の助けられるかもしれない命を見殺しにする。それは決して簡単なことではない。一度死の恐怖を知った私たちにとって、それはなおさらだった。
明音をなだめた後、私は前方の端に座っていた凛とした顔の女性兵士に声をかける。"オペレーションノア"とはなんなのか。それが知りたかった。
「すみません。少しいいですか?」
「えぇ。ですが手短にお願いします。」
私は自分の疑問をその女性兵士にぶつける。
「オペレーションノアってなんなんですか?」
その言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が変わった。
「あなた。どうしてそれを知ってるの」
我ながらまずい質問をしてしまったらしい。彼女は私を睨みつけてくる。今すぐ答えなければまずいことになる。そう直感が告げていた。
「聞いたんです…」
「誰からっ!?」
「戦車の人ですっ!」
その言葉を聞いた瞬間、彼女は"またか"とでも言いたそうな表情で、頭を抱えた。
「やってくれましたね、隊長」
そう1人でつぶやいた後、すぐに元の凛とした顔つきに戻る。そして静かに私に言う。
「ごめんなさいね。実はその情報軍事機密なの」
軍事機密。それは決して漏れてはならないもの。しかしこの反応、その男は何度もやらかしているに違いない。
私が不満そうな表情をしていると、彼女は顎に手を当てて呟いた。
「でも…もう隠しても仕方ないか…」
そして彼女は私の方を見て言った。
「仕方ないから教えてあげます。しかしどうかご内密に」
女性兵士は私に毅然とした態度で言う。私はそれに頷き、彼女は話し出した。
「オペレーションノア。元々は2030年に計画された列島脱出計画です」
「これは核戦争が勃発した際に一部の人間を乗せ脱出するというもので、その数は約1000万人」
「日本の人口の90%を見殺しにして、残りの10%を生かす。そんな作戦です」
「現在より32分以内に民間人を艦隊に収容、その後米国へ出港します。おそらく…もう戻れないでしょう」
彼女は静かにオペレーションノアの概要を述べていく。その内容は衝撃だった。本来彼女ら防衛軍が守るべき人命を見殺しにして逃げる。そんな作戦が半世紀以上前から計画されていたのだ。
「この作戦立案には米国も関与していて、あなたたちの住居………」
「もういいです。もう…大丈夫です……」
私はその女性兵士の言葉を遮る。聞きたくなかった。聞かなければよかった。私は自分の浅はかさに苛立ちを覚えた。
「そう…でもひとつだけ。あなたたちは絶対に死なせない」
その言葉を背中で聞きながら、私は下を向いたまま自分の席へと戻っていく。ただ避難するだけだと思っていた。この戦争の収集がつき次第帰れるものと。だけど話されたのは列島脱出計画が実行され、アメリカへと逃げるというもの。クラスの友達や、明音のまだ生きているかもしれない家族を置き去りにして、逃げるのだ。
「ねぇ、顔暗いよ?どうかした?」
明音が心配そうに聞いてくる。私は先ほどの女性兵士の方を一瞬だけ見る。彼女は静かに頷いた。明音にオペレーションノアについての話をしてはいけない。「どうかご内密に」と念を押されていることも一つの理由だが、そもそも彼女にこの話をできるわけがなかった。「今から君の家族を見捨てて逃げます。そしてもう戻って来ません」そんなこと言えるわけがない。
私は、明音の方を見ながら言う。
「いや、水を貰おうとしただけ。残念ながらなかったみたいだけど」
明音は単純そうに見えて結構カンが鋭い。嘘は高確率で見破られる。こういう時は嘘の中に真実を混ぜるといいらしい。幸いなことに今の私は死ぬほど喉が渇いていた。
「ふーん。そっか…。汗たくさんかいたもんね!」
納得してくれたようだ。明音はアゴに手をつきながら外を見る。そして遠くを見つめて言う。
「またあれ、見れるかな。」
私はそれを聞いて彼女の目線の先を見る。そこにあったのはうっすらと見える巨大な建造物だった。名前はスカイウェーブ。高さ1400メートルを誇るその建造物は螺旋状に捻じ曲がった構造をしている。その特異な構造により、下から見るとまるで波のように見えた。だからスカイウェーブという名がついた。
多摩川中流部に作られたそれは、外見は完成しているように見えるがまだ建造途中であり、完成すれば日本一のAI制御塔になる予定だった。しかしもう完成することはないだろう。
不思議なことにスカイウェーブにはミサイルが撃ち込まれていないようだった。敵もあれほどの建造物を壊すのはもったいないようだ。いや、正確には壊せないのかもしれない。
AI制御塔ということもあってか、かなり丈夫に設計されていると聞いたことがあった。ミサイルの10発や20発程度ではびくともしないだろうことは、素人目でも分かるほどだ。
私は明音の質問に少し悩んだ後答えた。
「きっと見られるよ。いや、見るだけじゃない。この戦争が終わったら一緒に登ってみよう、きっとすごい景色だろうから」
ここに戻ってくるのは10年後かも、20年後かもしれない。もしかしたらもう戻って来られないかもしれない。でも私はいつかここに戻ってくる。そんな予感がした。
「そうだねっ!1400メートルからの景色なんだもん。きっとすごいに決まってるよ!楽しみだなぁぁ」
明音は目をキラキラさせて、私の目を見て言った。本当に、本当に眩しかった。
皆さん初めまして、ブルングです。今回初投稿ですので、もしかしたら読みにくかったりするかもしれません。
誤字脱字等ありましたら、コメントで指摘していただくと嬉しいです。(他にも、ここが読みにくい などのコメントもお待ちしています)
読んでくれてありがとう!!!




