第16語り 部でいちばん得意になったら【柔道】
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あたしは友達たっくさんのさん、いるんだけど。
そのひとり。あのコは、柔道部で柔道やってるんだよね。
そりゃ、柔道部で空手はやらないだろって?
うるさいなぁ、ちゃんと聞いてよ。
でね。あのコ、三年生だから、つぎの大会が終わったら引退なんだけど。
まだ、選手として、一回も大会に出たことないんだよね。
団体戦と個人戦で。両方、出るひとがいなかったとしても、ぜんぶで8人しか出られないらしくて。
だけど、最後の大会くらい出場したいから、あのコは練習がんばったの。
部には強いひとがたくさんいるし。メンバーに選ばれるために、投げるのも寝技もぜんぶ、いっしょうけんめいやっててさ。
このままじゃ、たおれちゃうんぢゃないかって、あたしも心配してたんだ。
そしたら、顧問の先生が、こう言ってくれたの。
「ぜんぶ、できなくてもいいのよ。
ぜんぶ、ほかのひとよりできるコなんて、めったにいないんだから。
あなたは、あなたのいちばん得意なことを、この部でいちばんにまで磨きあげなさい。
そしたら、きっと大会のメンバーにも、選ばれるはずよ」
あのコは、それを信じてがんばった。
投げるのも、寝技も、そんなに得意ぢゃなかったから。
もちろん、そのふたつもちゃんと練習はしたけどね。
でも、いちばん得意なことを、この部でいちばんになるために。たおれるほど、無茶はしなくなったけど、それだけは必死で練習したんだ。
あたしも、レモンをハチミツで甘くしたやつ差し入れて、応援したの。
そして、運命の日。
ついに、大会に出場するメンバーが発表されて。
あのコは——残念だけど、選ばれなかったんだ。
あたしは、顧問の先生に嘘つき! って、もんくを言ってやろうかと思ったんだけど。
あのコは、悔し涙を浮かべながら
「いいんだ、わかってたもん」
って、笑ってみせたから。あたしも、文句を言いにいくのをやめたんだ。
それから、引退までのあいだ。
あのコは部でいちばん得意になったそれを、後輩たちにコーチしてあげることにした。
ケガをしないで、元気に柔道をつづけていけるようにって、1・2年生にやさしく、みっちりと教えてあげたの。
後輩たちも、部でいちばんうまい先輩のコーチだから、喜んでくれたんだって。
じぶんは大会に出られなかったのに、それまでの練習がむだになったってふてくされずに、後輩のためにもうひとがんばりするなんて。
大会で優勝するのもかっこいいけど、あのコもすごくかっこいいって、あたしは思う。
でも、残念だったよね。
せっかく、部でいちばんになるまで、得意なやつを練習したのにさ。
……やっぱり、部でいちばんでも、得意なのが受け身ぢゃあ、大会に出られないか。
投げられちゃわないと、得意なのを見せられないんだもん。
あのコ、どうやって勝つ気だったんだろうなぁ。
つぎは「う」。